[特別レポート]

セールスフォースのエネルギー分野におけるDX戦略

― 新たな電力事業に対応したプラットフォームでデジタルマーケティングを実践 ―
2020/09/02
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

競争激化するエネルギー市場におけるDXの重要性

 次に、セールスフォース 小薮氏の講演「エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性」についてレポートしていく。

 現在、多くの企業で、将来の成長や競争力強化に向けて、AIやエッジ、クラウドなどのデジタル技術を活用して基幹情報システムを刷新し、企業経営を革新するDXの導入が活発化している。

 この背景には、DXを促進することによって、企業の業務効率を向上させ、売上アップばかりでなく、国際競争力の向上も期待できることが挙げられる。このため、ビジネスにおける新規契約時や契約後のビジネスシーンで、最近、DXを具体的に推進するデジタルマーケティング注5が注目され、広く行われるようになってきた。

 図1は、競争が激化しているビジネス環境において、新規契約時とその契約後において、DXの重要性を示したものである。

図1 競争激化におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性

図1 競争激化におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性

出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 新規契約時は、サービスや製品の低価格競争が激化していることもあり、契約時にデジタル技術によってサービス内容や価格などの比較検討が容易にできる時代を迎えている。

 しかし、新型コロナ禍における流動的な環境では、顧客のニーズが瞬時に変化した場合、その対応が後手に回ってしまい顧客を奪われる可能性がある。これに加え契約後は、企業にとっては、顧客の離脱(契約解除)も重要なポイントとなる。

「この離脱を防ぐには、契約後の一貫した顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)、すなわち顧客から『このサービスを使ってよかった、この会社を選択してよかった』という評価を受ければ、解約せずに使い続けてもらえます。さらに、アプローチの仕方によっては、友人・知人を紹介してもらうことも可能で、ビジネスのさらなる契約拡大にもつながります」と小薮氏は述べる。

 このように、DX時代には顧客との「絆」、すなわちエンゲージメント注6を高めていくことが非常に重要なポイントとなる。

 また、契約後の「ブランドセーフティ」への気配りも重要である。これはTwitterなどのSNSで、企業や製品のブランドイメージを傷つける風評被害のようなものを発見した場合に、それらから顧客を守るため、早急に対応できるデジタルマーケティング(すなわちDX)を実施することが重要となる。

電気・ガスなどエネルギー分野の事例

〔1〕電力会社の事例1:米国のPG&Eのケース(新規契約)

 図2は、米国カリフォルニア州にあるPG&E(パシフィックガス&エレクトリック)の新規市場でのエネルギー(電気・ガス)販売における、顧客発掘アプローチ手法の例である。

図2 新規市場における顧客発掘アプローチ手法の例(新規契約)

図2 新規市場における顧客発掘アプローチ手法の例(新規契約)

https://www.cpuc.ca.gov/lowincomerates/
CTR:Click-Through Rate、配信した電子メールの総数に対して、メール文中のリンクがクリックされた割合のこと。
CVR:Conversion Rate、コンバージョン率。マーケティング分野では、Webサイト(ECサイト)へのアクセス数(ページビュー等)のうち、商品購入をはじめ資料請求や会員登録などの獲得した成果(CV:コンバージョン)の割合のこと。
出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 同社は、キャンペーン広告で、例えばメールアドレスやSNSのアカウント、電話番号などを取得し、顧客にアプローチできる多様なチャネル(販売経路)を増やした。これによって、同社の商品メニューやサービスをWebサイトに掲載するだけでなく、顧客のニーズに寄り添ったメッセージを、“複数のチャネルを通じて”、“きめ細かく明確に”伝える仕組みが追加された。

 この結果、図2の右に示すように、例えばメールCTR(Click-Through Rate、メール文中のリンクがクリックされる割合)の増加率が73%も増え、見込み客を約150%アップするなどの成果を挙げている。

〔2〕事例2:顧客の契約からの離脱防止策(契約後)

 すでに、いろいろな電力会社などで実施されているが、図3は、エンゲージメント(顧客との関係性)を強化し、顧客の離脱(契約解除)を防止するため、電気の月額使用料金のチェックや、利用率の高い時間帯をスマホで可視化し、使いすぎた場合は、モバイルプッシュで使いすぎを知らせている例である。

図3 エンゲージメント強化+離脱防止施策

図3 エンゲージメント強化+離脱防止施策

出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 さらに、最近では、キャッシュレス時代を背景に、電気・ガスの利用料をもとに顧客をランク付けし、ランクに応じて自社だけでなく協業している他社のクーポンも利用して、値引き率をアップさせるなどのサービスもエネルギー会社が提供している。

 このように、電力・ガスなどのエネルギー分野においても、利用者目線で契約の離脱防止につながる施策が普及し始めている。

〔3〕リアルとデジタルを融合させた施策の事例(契約後)

 図4は、リアルとデジタルを融合させた施策の事例である。この例では、スマホを使用しない顧客も想定している。

図4 新規市場における顧客発掘アプローチ手法(契約後)

図4 新規市場における顧客発掘アプローチ手法(契約後)

出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 顧客のメリットについて、「当社との契約で、お客様はこれだけ得しましたよ」という、顧客に寄り添ったメッセージを、ダイレクトメール(紙媒体:リアル)で送る。その際には、「お知り合いを紹介ください」という紹介封筒も同封する。

 一方、オンラインでもリアルと同じ内容でアプローチし、「ダイレクトメールをご覧いただけましたか?」という、リマインドメールを送る。

 このように、オンラインとオフラインという複数のチャネルの連携策によって、契約の維持と拡大を狙うこともできるのだ。


▼ 注5
デジタルマーケティング:Digital Marketing。顧客との関係をもつことを目的として、インターネットをはじめとする、電子メールやSNSなどのさまざまなデジタルメディアや、リアルなダイレクトメールや電話などの多様なチャネルを活用して、ユーザーニーズの変化を察知して、ビジネスを拡大させる手法のこと。

▼ 注6
エンゲージメント:Engagement。企業とユーザーの「つながりの強さ」。本来は契約、約束などの意味であるが、マーケティングの分野では、ユーザー(顧客)の興味や注意を引きつけ、企業とユーザーの結びつきを強めることをいう。

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