[特別レポート]

セールスフォースのエネルギー分野におけるDX戦略

― 新たな電力事業に対応したプラットフォームでデジタルマーケティングを実践 ―
2020/09/02
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

新規市場における顧客発掘のアプローチ手法

〔1〕電気とガスの契約を更新する

 ここでは、引っ越しを契機に、電気とガスの契約を新しいエネルギー会社に切り替えようとしている顧客Aの具体例を挙げて、顧客発掘のアプローチ手法を見ていく。

 顧客Aは、情報収集のため、「にこにこエネルギー」社から顧客向けに広告配信されたスマホ画面をクリックし、そのWebサイトを一覧する(図5左端)。このクリックを契機にして、にこにこエネルギーの自社サイトに構築されたSalesforceのDMP(図5の右の丸の部分、後述の図8を参照)注7には、顧客Aのデータが集約される。

図5 DMPを活用してマーケティング対象のセグメントを特定し、広告を配信

図5 DMPを活用してマーケティング対象のセグメントを特定し、広告を配信

DMP:Data Management Platform、Salesforceの顧客データを管理するためのプラットフォーム(上図の円の部分)
1st Partyデータ:企業が独自にユーザーから収集し、保有しているデータ
2nd Partyデータ:データを利用する企業がデータを保有する企業と契約し、データの利用権を保持しているデータ
3rd Partyデータ:自社以外の企業が収集・保有しているデータ(2nd Partyを含む場合もあり)
出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」(2020年8月20日)を一部修正して編集部で作成

 データが集約されたら、にこにこエネルギーは図5の右端に示す、ソーシャルメディア(SNS)やEメールなどのリストの中から、例えばEメールを選択し、顧客Aが期待する好みの情報をランク順に並べて(パーソナライズ化して)送付する。

図6 顧客に配信されたスマホ用の広告画面例:顧客はエネルギー(電力/ガス)一体型サービスのランディングページを閲覧

図6 顧客に配信されたスマホ用の広告画面例:顧客はエネルギー(電力/ガス)一体型サービスのランディングページを閲覧

(Marketing Cloud/ InteractionStudio、WebStudioで作成)
出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 具体的には、図6に示すように、にこにこエネルギーは、顧客Aの好みに対応してメリットの順番を設定し、「メリット①、メリット②、メリット③」と表示されたスマホ画面の内容を、顧客Aに送付する。

 顧客Aは、エネルギー(電力・ガス)一体型サービスのランディングページ注8を閲覧し、サービスのメリットを理解することができる。

〔2〕電気の契約からガスの契約へ、さらに!

 その後、にこにこエネルギーは、顧客Aと何回かのメールのやり取りをする。

 例えば、図7(1)に示すように、前出の図6に示した閲覧ページの情報をもとに、顧客Aに最適なプランを提示する。

 これを検討した顧客Aからの契約申し込みを受けて、にこにこエネルギーは、電気の契約完了のメールに、電力/ガス一体型サービスの案内を告知したメール〔図7(2)〕を送付する。

 電力/ガス一体型サービス(クロスセル注9)の告知を見て、同社のサービス内容が気に入ると、顧客Aはガスの契約も検討し、契約する。にこにこエネルギーは、顧客に自社のサービスが好評であることを感知できたため、さらに図7(3)に示すように、顧客Aに、友人・知人を紹介してもらうキャンペーン案内の入ったメールを送付する。紹介があった場合には、料金の10%オフやギフト券をプレゼントするなどの特典キャンペーンを示し、これによって、さらに新規顧客の獲得を促進する。

コンテンツ作成を容易にするSalesforceのツール群

 顧客Aとにこにこエネルギーのやり取りにおいて、図7に示したような、顧客送信用メールなどのコンテンツを作成するのは、面倒な作業である。

図7 電力/ガス会社(にこにこエネルギー)から顧客へのメール画面の例

図7 電力/ガス会社(にこにこエネルギー)から顧客へのメール画面の例

(上図(2)はInteractive Email、(3)はMarketing Cloud/ Social Studio、Advertising Studioで作成)
出所 セールスフォース・ドットコム「お客様に知ってもらうために始めるべきこと~エネルギー業界におけるデジタルマーケティングの有用性~」、2020年8月20日

 しかし、例えば、セールスフォースが提供するMarketing Cloud/ Content Builderというツールなどを利用すれば、広告画面を容易に作成することができる。

 Marketing Cloud(マーケティングクラウド)とは、セールスフォースが提供するMA(Marketing Automation、マーケティング活動の自動化)ツールである(表3)。

表3 Marketing Cloudの機能と3つの分類

表3 Marketing Cloudの機能と3つの分類

出所 株式会社デジタルアイデンティティ、DigitalMarketingblog、「マーケティングクラウド(Marketing Cloud)とは? セールスフォースのマーケティングオートメーションツールを分かりやすく説明します!」(2019年9月10日)をもとに編集部で作成

 また、Content Builder(コンテンツビルダー)とは、画像やドキュメント、コンテンツを1カ所にまとめて、Marketing Cloudで使用できるようにする、クロスチャネル注10のコンテンツ管理ツールである。Content Builderは、使いやすいドラッグ&ドロップインタフェースを備えているため、従来の作成および編集ツールよりも効率的にスマホ用の広告コンテンツなどを容易に作成できる。

 例えば、Content Builderでは、コンテンツを作成するために、100種類以上のテンプレート(ひな形、サンプル)が用意されている。このテンプレートから今回の目的に合うテンプレートを選択し、また必要な画像を画像ブロックから選択して、貼り付ければよい。さらに、コンテンツを作成したら、顧客の好みに応じて、コンテンツをパーソナライズ(顧客ごとにアピール内容の重点を変えるなど)することも可能だ。

 加えて顧客とのやり取りを綿密にスケージュールし、カスタマージャーニー(顧客との一連の流れ)を描いてシナリオを検討するなどによって、風評被害などによる顧客の態度変容ポイントなどを発見し、それらに即座に対応してビジネスからの離脱(契約解除)を防ぐことも可能となる。


▼ 注7
DMP:Data Management Platform、顧客データを管理するためのプラットフォーム。MAとDMPを連携させて、成約見込みの高い顧客(ユーザー)を選別するなど、適切なマーケティングを自動化できるようになる。MAとはMarketing Automationの略で、マーケティングを自動化するための仕組み。

▼ 注8
ランディングページ:Landing Page(LP)、商品・サービスの注文や問い合わせの獲得(コンバージョン)に特化したページ。

▼ 注9
クロスセル:ある商品購入を検討している顧客に対して、別の商品もセットもしくは単体で購入してもらうためのセールス手法。

▼ 注10
クロスチャネル:にこにこエネルギー社と顧客との関係をつくる経路(チャネル)が、電子メールやSNS、DM(ダイレクトメール)や電話など複数存在するチャネルのこと。チャネルごとに蓄積されたデータを連携させているのも特徴。

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