[特集]

「スマートレジリエンスネットワーク」とは?

― 脱炭素化と電力レジリエンスの向上を目指して設立 ―
2020/09/02
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

分散型エネルギー資源(DER)でレジリエンスを向上

〔1〕SNR設立の背景

 SRN設立会見の冒頭、代表幹事の1人である、東京電力パワーグリッド 取締役副社長の岡本 浩氏は、次のように設立の背景について語った。

 「昨年(2019年)の台風15号などでは、停電などを含めて住民の皆様には、大変ご迷惑をおかけしました。その際、私どもインフラ側のオペレーションを、もっと改善する必要があることを痛感しました。現在、太陽光発電をはじめ多くの分散型エネルギー資源(DER)が、各地域にたくさん導入される時代を迎えています。その各リソースをうまく地域で活用することによって、地域全体のレジリエンスを向上できるのではないか、という思いに至りました。」

〔2〕停電時でも約80%の家庭で太陽光発電が活躍

 岡本氏の説明を裏付けるかのように、経済産業省がまとめた「台風15号・19号」関連の報告書注16では、台風15号による停電の際においても、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震の際と同様に、住宅用太陽光発電(DER)ユーザーが自立運転機能注17を利用することで、停電時でも電力利用を継続できた家庭が約80%にも上ったという。

 また、このような住宅用太陽光発電に加えて、事業用太陽光発電所(メガソーラー)でも、自立運転機能を備えているPCS(パワーコンディショナー)を採用することによって、近隣住民へ電力の提供が行われた事例もあった。

 太陽光発電協会による、現地における自立運転機能の活用実態調査によれば、前述したように、住宅用太陽光発電ユーザー486件のうち約80%にあたる388件が、自立運転機能を活用したと回答している。停電時でも、冷蔵庫をはじめとして携帯電話の充電、エアコン、洗濯機、炊飯器などに同機能を活用した事例が挙げられている。(図5)

図5 停電時に住宅用太陽光発電の自立運転機能で活用できたもの

図5 停電時に住宅用太陽光発電の自立運転機能で活用できたもの

出所 経済産業省「台風15号・19号に伴う停電復旧プロセス等に係る個別論点について」、令和元(2019)年10月17日

 また、自立運転機能を活用しなかった住宅用太陽光発電ユーザーの理由は、「自立運転機能を知らなかった」が10%強と少なかったが、「知ってはいるが、自立運転機能の使い方が分からなかった」が60%と多かった。

 現在、市場に提供されている住宅用太陽光発電の多くは、停電時に自立運転を行う機能を備えており、昼間の日照がある時間帯には、太陽光によって発電された電気を利用することが可能となっている。

脱炭素化に向けたエネルギー転換

 岡本氏は、「現在、国際的にエネルギーの脱炭素化を図り、気候変動を抑えていくことが重要な課題となっており、気候変動対策は待ったなしの状況になっています。この脱炭素化とレジリエンスの向上を同時に進めていきたいと多くの方々とご相談し、今回のスマートレジリエンスネットワークの設立に至りました」と、2030〜2050年に向けて、脱炭素化に向けたエネルギー転換について、図6を示して解説した。

図6 脱炭素化に向けたエネルギー転換

図6 脱炭素化に向けたエネルギー転換

<エネルギー消費の単位>PJ:Peta Joule、ペタジュール=1000TJ、TJ:Tera Joule(1TJ=1,000GJ=1,000,000MJ =1,000,000,000kJ)
<エネルギー熱量単位の電気換算>1TJ= 0.2778GWh、1PJ=0.2778TWh
出所 東京電力パワーグリッド・関西電力送配電『脱炭素化・レジリエンス強化に向けた分散リソース活用のための「スマートレジリエンスネットワーク」の設立および推進について』、2020年8月5日

〔1〕非電力セクターと電力セクター

 図6に示す棒グラフは、2030年以降の日本の一次エネルギー消費量(PJ:ペタジュール)のイメージを、非電力セクター(部門)と電力セクター(部門)に分けて次のように示したものである。

 ①非電力セクターは、「紫色斜線部分(化石エネルギー)」で示すが、このセクターには、運輸(バス・自動車・電車・航空等)や熱〔地域熱供給(地域冷暖房)等〕などの産業が含まれる。

 ②電力セクターは、「紫色部分(火力発電:化石エネルギー)と緑色〔非化石エネルギー(再エネ)による発電:再エネ〕」の2種類で示している。

 図6を見ると、2030年時点では、現在よりもかなり脱炭素化が進んでいると思われるが、それでもなお相当量の化石燃料を使っていることがわかる。図6の紫色斜線部分と紫色部分は、いずれも化石燃料によってCO2が排出されるため、この2つの部分を削減する必要がある。

〔2〕セクターカップリングでCO2排出量を削減

 CO2排出量を削減する際には、「セクターカップリング」でエネルギー需給構造の最適化を行い、同時に、省エネを推進してエネルギー消費全体を減らしていくという方法が注目されている。

 例えば、「電力セクター」と「非電力セクターである運輸セクター」をカップリング(組み合わせ)して、運輸セクターのガソリン車を電力で駆動できるように電動化(EV/PHEV)して走行できるようにしたり、再エネで発電した電力を水素ガスに変換(P2G:Power to Gas)して貯蔵し、FCV(燃料電池自動車)などに活用したりすることなどである。

〔3〕CO280%削減が実現可能へ

 セクターカップリングによって、再エネの有効利用やDERを大幅に普及・拡大させ、2050年には、エネルギー消費全体の70%(図6右端の棒グラフ参照)を非化石エネルギーで賄えるようにする。

 これらによって、2050年段階で、パリ協定に基づく日本のNDCであるCO2を80%削減すること(表1参照)が可能となる。

 「このようなセクターカップリングによって、蓄電池を搭載したEV/PHEVのようなDERが普及していくことになれば、レジリエンスの向上とともに、脱炭素化を促進することにもなります。今後は、この流れにさらに付加価値をつけていくことが必要です」(岡本氏)。


▼ 注16
経済産業省「台風15号・19号に伴う停電復旧プロセス等に係る個別論点について」、令和元(2019)年10月17日、36ページ

▼ 注17
自立運転機能:停電中でも太陽光パネルが発電した電気を家庭内で使えるようにする機能。最近では、ほとんどのPCS(パワーコンディショナー)に備わっている機能。

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