[特集]

「スマートレジリエンスネットワーク」とは?

― 脱炭素化と電力レジリエンスの向上を目指して設立 ―
2020/09/02
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

エネルギー供給強靱化法の成立

〔1〕クローズアップされる「電力レジリエンス」

 前述したような地球の気候危機の解決に向けて、日本では、第5次エネルギー基本法が2018年7月に策定され、脱炭素化を目指して、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を主力電源化する方針を決定した。2030年度における日本の全電源構成の中で、再エネ比率を22〜24%とすることした。

 その後、再エネはFIT制度を背景に、太陽光や風力などによる新しい電力インフラシステムが普及し始めている。

 しかし、近年、台風や地震などの自然災害によって電力インフラの被災が増加し、電力供給が遮断されて停電に至るケースが多発している。このため、電力の安定供給の面から、災害に対して強靭(レジリエンス)な電力システム、すなわち「電力レジリエンス」が重要な課題としてクローズアップされてきた。

〔2〕3つの法律を束ねた「エネルギー供給強靱化法」

 このような背景の下に、電気の供給体制を強く持続的なものにするため、2020年6月、「エネルギー供給強靱化法」注9が策定された。

 この「エネルギー供給強靱化法」の正式名称は、「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」といい、名称に「電気事業法等」とあるように、次の3つの法律改正の内容を束ねた法律となっている(図1)注10

  • 電気事業などに関するルールを定めた「電気事業法」の改正
  • 「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法。「FIT法」ともいわれる)」の改正
  • 「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)」の改正

 聞きなれない「JOGMEC(ジョグメック)法」とは、海外における資源開発を担う独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)注11について、その役割や事業内容を定めた法律である。

〔3〕「エネルギー供給強靱化法」と3つの課題

 3つの法律を一度に改正することになった背景には、日本の電力インフラシステムが直面している、次の3つの課題に対応するためである。

  • 課題1:頻発する自然災害への対応
    台風や地震などの自然災害に強いレジリエンスな電力インフラシステムを早急に構築することなど。
  • 課題2:再エネの主力電源化に向けた対応
    CO2排出量の削減をはじめ、エネルギー自給率の向上、分散型エネルギーシステムの拡大。さらに、低コスト化・電化(非化石化)によって電力市場へ統合(例:エンジン車を電動車へ移行するなど)、再エネの発電量の不安定さへの対応、送電網の効率的利用や増強など。
  • 課題3:地政学的リスクの変化への対応
    エネルギー供給網の強靱化。中東諸国からの石油の輸入等、地理的な位置関係によって起こる政治や社会のリスクへの対応など。

〔4〕「エネルギー供給強靭化法」の改正内容例

 「エネルギー供給強靱化法」は、災害に強いレジリエンスな分散型電力システムの構築を、制度面から整備した法律となっている注12。改正が行われた具体例には、次のようなものがある。

(1)電気事業法の一部改正の例

 ①送配電事業者に、災害時連携計画の策定を義務化したこと。

 ②地域において分散小型の電源等を含む配電網を運営しながら、緊急時には独立したネットワークとして運用が可能となるよう、配電事業を法律上、位置づけたこと。

 ③分散型電源等を束ねて、電気の供給を行う事業である「アグリゲーター」を法律上、位置づけたこと。

 ④家庭用蓄電池等の分散型電源等を更に活用するため、計量法の規制を合理化すること。

(2)再エネ特措法の一部改正の例:FIP制度の創設

 従来の固定価格買取制度(FIT制度)に加えて、新たな制度として、市場価格に一定のプレミアム(価格の差分)を上乗せして交付する制度(FIP制度)が創設されたこと。

 従来のFIT制度(Feed in Tariff、固定価格買取制度。フィット)では、再エネで発電した電気はFIT価格で必ず買い取られるため、発電収入が予見でき、投資インセンティブが確保されている。

 新しいFIP制度(Feed in Premium、フィップ)では、再エネで発電した電気を卸市場や相対取引で自由に売電し、そこに「あらかじめ決めたFIP価格と参照価格(市場価格の平均等で決定)の差分(プレミアム)×売電量」の収入を上乗せする。市場での売電収入を超えるプレミアムを受けることを通じて、投資インセンティブが確保される注13


▼ 注9
エネルギー供給強靱化法:正式名称は「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」。2020年6月5日に国会で可決・成立(施行日:2022年4月1日)。強靱化:英語でResilience(レジリエンス)といい、「災害に強い」という意味で、回復力や復元力といわれる場合もある。

▼ 注10
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20200501017.pdf

▼ 注11
JOGMEC:Japan Oil, Gas and Metals National Corporation の略。ジョグメックと読む。

▼ 注12
経済産業省「エネルギー供給強靭化法案について」令和2(2020)年4月14日

▼ 注13
FITは、固定価格なので市場取引が免除されていることが基本であるが、FIPは、市場取引が基本である点が大きな違いである。
[参考URL] https://sgforum.impress.co.jp/article/5154

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