地域レジリエンス強化とスマートレジリエンスネットワーク(SRN)が目指すもの
〔1〕既存インフラと分散リソース(DER)の統合
近年、集中豪雨や河川の氾濫、連続する猛暑日など、自然災害が頻繁に発生するようになってきたため、生活基盤となる既存の電力・通信インフラ(社会インフラ)への重要度は高まりつつある。同時に、レジリエンス強化に向けて、分散リソースの活用への期待も高まっている。
このため、最近では、図7の中央上部に示すように、「5GあるいはやIoTなどのデジタル技術的トレンド」と、「シェアエコノミーやオープンイノベーション注18などの社会的トレンド」とを組み合わせる流れが加速している。
図7 既存インフラと分散リソース(DER)の統合
出所 東京電力パワーグリッド・関西電力送配電『脱炭素化・レジリエンス強化に向けた分散リソース活用のための「スマートレジリエンスネットワーク」の設立および推進について』、2020年8月5日
これによって、既存の社会インフラと地域にある分散リソースを連携させ(社会インフラ×分散リソース)、災害時の被災状況の早期把握や早期復旧が可能になるなど、地域レジリエンスの強化が期待できるようになってきた(図7)。
〔2〕SRNが目指すもの
今後、SNRが目指すものにはどのようなものがあるだろうか。
図8に例示するように、
- DER情報(太陽光発電やEV/PHEV、蓄電池などの導入・利用状況)
- インフラ情報(電車・バスなどの運行情報や電力・ガス・水道関連情報)
- 住民情報〔停電状況・IT(SNS)利用状況・各戸のスマートメーター情報〕注19、注20
- 気象予測情報・災害予測情報(天気予報・地震予測・台風予測)
などの地域にあるさまざまな最新情報を、データ連携によってSNRで絶えず収集できるようする。
図8 「スマートレジリエンスネットワーク(SRN)」が目指すもの
出所 東京電力パワーグリッド・関西電力送配電『脱炭素化・レジリエンス強化に向けた分散リソース活用のための「スマートレジリエンスネットワーク」の設立および推進について』、2020年8月5日
「例えば、分散型エネルギー資源(DER)として、蓄電池(バッテリー)を利用しようとしたときに、その蓄電池がどこにあり、どれだけの容量が使えるようになっているかなどを知っていることが重要です。このように、データを連携させることによって、DERを地域のみんなが使えるようになっていることが重要なのです」「そのためには、『スマートレジリエンスネットワーク』で、その地域のあらゆるデータ(プライバシーを配慮して)をリアルタイムに把握できている必要があるのです」(岡本氏)。
〔3〕企業のBCPや新たな事業機会の発見
さらに、図8の左右の赤色の太い矢印に示すように、データ連携によって、
①企業は、自社のBCP(事業継続計画)に貢献できるようになり、
②分散リソースを利用した事業機会の発見や将来の市場の拡大にも役立つようになる。
このようにSRNに参加しているメンバーは、産官学の枠を超えて、「脱炭素化やレジリエンス強化」などの社会貢献をしながら、長期的には経済の活性化をダイナミックに推進できるようになることを目指している。
今後のロードマップ:2023年3月までに地域レジリエンスのモデルを示す
〔1〕電力分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)
ここまで、脱炭素化/再エネの主力電源化時代に向かう「スマートレジリエンスネットワーク」の設立の背景や活動内容などについて、具体例を挙げて見てきた。
AIやIoT、クラウドなどのデジタル技術を駆使して、DERやインフラ情報などからの多様なデータを活用して、低炭素化と電力システムのレジリエンスの強化を目指すという挑戦は、まさに、電力分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践例の1つでもある。
〔2〕2023年には地域レジリエンスのモデルを構築
最後に、岡本氏は、「今後、2023年3月までの3年弱の区切りで、DERによる具体的な試験環境を構築し、地域のレジリエンスのあり方などのモデルを示していきたい。現在、参加企業を募っているところで、電力、通信、エネルギー、商社、VPP関連ベンダ、運輸、研究機関、金融機関など、多様な分野の30社程度に呼び掛けていますが、今後その他の業種にも幅広く声をかけていきたい」というロードマップを示した。
▼ 注18
オープンイノベーション:Open Innovation、開かれたイノベーション。技術の進歩だけでなく、社会に強いインパクトを与えるような革新を意味する。米国カリフォルニア大学バークレー校のヘンリー・チェスブロウ(Henry Chesbrough)博士によって提唱された。企業による通常の製品開発プロセスを可視化し、社内外を問わずオープンに広く技術やアイデアを集め、これまでは不可能だったイノベーションを実現すること。【参考図書】NEDO:オープンイノベーション白書第二版(2018年6月)
▼ 注19
スマートメーター:通信機能をもち、家庭や工場等における電気使用量データを、30分ごとに遠隔から計測できる新しいデジタルな電気メーター。
工場やデパートなどの特別高圧部門(受電電圧:20,000V以上)、中小規模工場・スーパーなどの高圧部門(同6,000V以上)については、すでに全エリアで導入が完了。現在、一般家庭・個人商店等の低圧部門(同100〜200V)について、導入設置を全国的に展開中。
▼ 注20
一般家庭・個人商店等のスマートメーターは、現在、全国的に設置・導入が推進されており、2023年度末にはほぼ全国的に、設置が完了する予定(沖縄電力のみ2024年度末完了の予定)。先行している東京電力エリアは、設置目標2,900万台に対し、2020年6月時点で2,570万台(約90%)が設置されており、2020年度末に完了予定となっている。