新設された「TC8 SC8C」が目指すもの
石井 IEC(図3)は、2020年8月、IECのTC 8の下に、SC 8C(SC:Subcommittee)という分科会(担当分野:電力ネットワークの管理)を新設し(図4)、ここで課題解決に取り組むことになりました。
図3 IECの組織構成(概要)
SMB:Standardization Management Board、標準管理評議会
MSB:Market Strategy Board、市場戦略評議会
CAB:Conformity Assessment Board、適合性評価評議会
出所 IEC 活動推進会議(IEC-APC)「IEC 事業概要- 2020年版-」、一般財団法人 日本規格協会(2020年5月1日)をもとに編集部で作成
図4 TC 8に新設されたSC 8Cの位置づけとその役割(敬称略)
出所 石井英雄、「TC 8 SC 8A/8B/8C Future Activity」、ACTAD Workshop、2020年5月26日(ACTAD:Advisory Committee on Electricity Transmission and Distribution、IECの送電および配電に関する諮問委員会)、および下記URLをもとに編集部で作成
https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:29:0::::FSP_ORG_ID:1240#1
─編集部 「SC 8C」で目指している標準規格はどのようなものですか?
石井 「SC 8C」の親委員会であるTC 8が目指す標準化の範囲(スコープ)は、“System aspects of electrical energy supply”(電力供給に関するシステム全般)の標準化を担当しています。TC 8が設立された頃の古い「電力供給システム」の標準化対象は、「需要家を除いた部分」に関するシステムすべてを扱うというものでした。
─編集部 日本でも、電力システム改革までの電力供給システムは電力会社のもので、需要家が関わらないシステムというイメージでしたね。
石井 そうですね。図5に示すように、IECはTC 8の標準化の対象範囲(スコープ)を拡張してきました。
図5 TC 8で拡張されたスコープ(標準対象の拡張)
RES:Renewable Energy Sources、再生可能エネルギー源
出所 石井英雄、「TC 8 SC 8A/8B/8C Future Activity」、ACTAD Workshop、2020年5月26日
以前は、大規模な発電所から需要者へ一方向にだけに電気を送るという時代でしたが、現在は、需要者側に再エネなどのいろいろなリソースが導入・設置されてきたため、それに対応して、まず、再エネを扱うSC 8Aを設立しました(図5)。
さらに、世界的に普及し検討が始まった需要側のマイクログリッド(μgrids)やVPP(仮想発電所)注9を電力系統と連携させるため、SC 8Bという2つ目の分科会を設立しました(図5)。
私自身、この分野では、2016年にスタートした日本のVPP構築実証プロジェクトに参加し、推進してきました。
─編集部 これら2つの分科会に続いて、第3の分科会SC 8Cが設立されたのですね。
石井 すでにTC 8には、再エネや分散電源に関するSC 8A、SC 8Bの分科会があるので、これらの全体を運用・管理する系統運用者の視点から規格を作る分科会(SC 8C)を設立してはどうかと日本から提案し、2020年3月のTC 8のプレナリーミーティング(Plenary Meeting、全体会合)で承認されました。
その後2020年8月に、議長(任期は6年)は日本(石井英雄)、幹事(Secretary)は中国〔Feng Xue(フェンシュエ)氏〔中国語表記:馮雪氏〕が選出されました注10。
SC 8Cの「ネットワーク管理」というタイトルは、まだ仮のタイトル(スコープの中身も仮である)で、その最終的なスコープは、2021年の3月に親委員会であるTC 8の全体会合で決定する予定です。
▼ 注9
VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所。IoTを活用し、需要家側に設置されている小規模な需要家側エネルギーリソース(太陽光発電や蓄電池、EVなど)を統合することに
よって(束ねて)、あたかも大規模な発電所と同等の機能を発揮する仮想的な発電所。VPPは、系統電力の調整力としても活用することを目指している。
▼ 注10
SC 8Cの役員は以下のURLを参照。
https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:29:11345900348212::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:25987,25#3