[スペシャルインタビュー]

IEC TC 8 SC 8C初代議長・早稲田大学 教授 石井 英雄 氏に聞く!次世代電力供給システムの国際標準化組織「IEC TC 8 SC 8C」がスタート!

― 需要家側リソース(DSR)を含む総合的なネットワーク管理を ―
2021/02/01
(月)
石井 英雄

新設された「SC8C」の具体的な活動領域

〔1〕躍り出るアグリゲーター

石井 図6に示したSC 8Cが対象にする活動領域を、アグリゲーターを中心に据えて切り出したのが図7です。

図7 図6に示したアグリゲーターを中心に据えたSC 8Cにおける検討事項

図7 図6に示したアグリゲーターを中心に据えたSC 8Cにおける検討事項

DSR:Demand Side Resources、需要家側エネルギーリソース。需要家側の受電点以降(スマートメーター以降)に接続されているエネルギーリソース(例:太陽光発電設備、蓄電池設備、各種需要設備)の総称
出所 石井英雄氏提供資料より、2020年12月21日

 図7は、系統運用や電力市場、需要家/需要家側リソース(DSR。図6のプロシューマー)などの関係において、次のような課題の検討が必要になることを示したものです。

  1. 「系統運用者と電力市場間」「系統運用者とアグリゲーター間」で、系統運用の視点からの情報が求められる(図7の青色の矢印と青色点線の楕円)。
    例えば、系統運用の視点から、DSRにどのような情報を求めるか。すなわち応動時間の情報や、応動の出力変化をどのくらいの速さで提供できるか(ランプスピード)注16の情報などである。
  2. 「電力市場とアグリゲーター間」「アグリゲーターと需要家側リソース間」(図7の赤色の矢印および赤色点線の楕円)において、DSRの視点からの検討が求められる。
    例えば、VPP事業において、アグリゲーターが、系統運用者・電力市場からの要件を満たすために、DSRからどのようなデータ〔調整力(ΔkW)の可能な範囲、応動時間、継続時間等〕を収集すべきか、検討が必要である。
  3. 最後に図7の上部に示す、系統運用者(日本:一般送配電事業者)と電力市場、アグリゲーターの3者が扱う情報が、整合していなければならない(図7の緑色の点線枠)。

 このように多くのプレイヤーの機器やシステムからなる電力供給システム全体がうまく運用されるためには、これらが通信で相互に接続され、データのやり取りや制御を自動で実行する必要があります。

〔2〕調整力の情報提供の際に必要となる標準化

石井 アグリゲーターは、電力市場で入札する場合にも、系統運用者にどれだけの調整力(ΔkW)を出すことができるかを提出する必要があります。

 例えば、①最大で何ΔkWを、最小で何ΔkWを提供できるか、②どのくらいの時間(45分か、15分か、5分か)で対応できて、③kWhの単価はいくらか(何円か)などの情報を提出することが求められます。また、その際にやり取りする情報は、従来のように同一会社内でなく、多くの事業者が相互に連携しなければならないため、標準化されていないといけないのです。

─編集部 そうですね。

石井 欧州連合(EU)はそのよい例で、EU諸国の全域にまたがって連携しているので、お互いが理解できるように、データの表現方法(約束事)をきちんと標準化して記述する必要があるのです注17

節目となった2020年の「エネルギー供給強靱化法」

〔1〕市場連動型のFIP制度を導入

─編集部 先ほど話題となった「エネルギー供給強靱化法」が、今後の電力供給システムに及ぼす影響について詳しく教えてください。

石井 「エネルギー供給強靱化法」のうちの、例えば「再エネ特措法」の改正では、再エネの主力電源化に向けて再エネが自立した電源となるよう、現行のFIT制度(2012年7月スタート)に加えて、2022年4月からは市場連動型のFIP制度注18が導入(施行)されることになりました。

 また、再エネが地産地消のエネルギーとして、さらに災害時等のレジリエンスにも貢献するよう位置づけられました。このことは、需要側リソース(DSR)に期待するということでもあるのです。

 このため、「エネルギー供給強靱化法」中の「電気事業法」の改正では、アグリゲーションビジネスを活性化することが謳われ、アグリゲーターを事業者として認定することを、初めて法律上で位置づけました。

 このように2011年3月11日の東日本大震災後、FIT制度の導入をはじめ、今日までの約10年にわたって取り組んできた諸施策とその課題をここで総ざらいして、「エネルギー供給強靱化法」という形で新しい電力供給システムの方向性を示したのが、2020年だったのです。

〔2〕再エネもバランシンググループ(BG)に

─編集部 それほど重要な法律なのですね。

石井 そうです。再エネを主力電源化していくために、(特別扱いの電源ではなく)普通の火力発電や水力発電などの電源と同じように扱い、市場でも競争力がある電源にしようということです。このため、再エネは、普通の電源と同じように、30分の同時同量を実現するバランシンググループ注19に組み込むなどによって、30分の同時同量を実現することが要求されるようになります。

〔3〕脱炭素、そしてレジリエンスの向上

─編集部 再エネが主力電源として仲間入りすると、それに関連した新しいビジネスの可能性が出てきますね。

石井 はい。新しい仕組みを構築しながら、次世代電力供給システムが目指すのは、当然、脱炭素とレジリエンスの向上です。この2つを実現するために、電力供給システムが見直されていきます。さらに、託送費用注20に関して、今回のエネルギー供給強靭化法で、レベニューキャップ注21という注目される仕組みが導入されました。

 これによって、一般送配電事業者は、送配電網の研究開発や、再エネを受け入れやすくする送電網(連系線)への投資がしやすくなると期待されています。

 最近、よくプッシュ型の投資などといわれていますが、例えば、再エネが大量に設置されそうなエリアの系統(送配電網)を事前に増強しておくとことなどが期待されます。

 今までは、要望のある地域に増強する場合、原因者負担(送配電網の増設費用を必要としている人が負担)していたのを、先回りして送電網を用意し、再エネを導入しやすくすることが可能となります。


▼ 注16
ランプスピード:Ramp Speed、電力出力や消費量の変化スピードのこと。

▼ 注17
例えば時間の場合、午前9時15分を9:15と表記するのか、am 9:15と表記するのか。午後13時をpm 1:00と表記するか、13:00と表記するかなどが統一されていないと、互いに会話できない。

▼ 注18
FIP:Feed-in Premium。FIP制度は、再エネ発電事業者は、再エネで発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電するが、そのとき、「あらかじめ決めたFIP価格」と「参照価格(市場価格の平均等で決定)」の差が生じた場合、一定のプレミアム(補助額)を上乗せ(プレミアム×売電量)する仕組み。市場での売電収入を超えるプレミアムを受けることで、再エネ発電事業者の投資インセンティブを確保する。

▼ 注19
バランシンググループ:Balancing Group(BC)。複数の小売電気事業者(新電力)が1つのグループを形成し、そのグループと一般送配電事業者の間で託送供給の契約を結ぶ制度。グループ全体のインバランス(電力の需要量と供給量の差分)を調整して30分毎に同時同量を達成し、安定した電力の供給を可能とする仕組み。代表契約者制度ともいわれる。

▼ 注20
託送料金:発電事業者が小売電気事業者に電気を送るために支払う、一般送配電事業者への送配電網の利用料金のこと。一般送配電事業者に送電を託す(依頼する)料金という意味。

▼ 注21
レベニューキャップ(Revenue Cap)制度:託送料金に上限を設定する新制度(現行は「総括原価方式」で算出)。電気事業法の改正を含む「エネルギー供給強靭化法」によって、一般送配電事業者における「必要な送配電網への投資の確保」と「国民負担の抑制」を両立させ、再エネの主力電源化やレジリエンス強化等を実現する制度(国の承認を受ける制度である)。

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