続々と登場する新ビジネス:脱炭素を軸にしたビジネスが創出
〔1〕脱炭素に向けたビジネス
─編集部 今後、どのようなビジネスが創出されるのでしょうか。
石井 日本では、消費者の負担はありましたが、FIT制度によって再エネ(特に太陽光発電)が大量に普及しました。今後、世界の共通課題となっている脱炭素(カーボンニュートラル)を実現するには、やはりCO2排出がゼロである、再エネを増やしていくことが重要です。あわせて、脱炭素に向けたビジネスが期待されています。
これまでもいわれてきましたが、「非炭素価値」(環境価値)の分野です。電気を作るときに再エネはCO2を出さないので、これに対してもっと価値をつけてあげないといけません。
世界的にいえば、例えばRE100注22に賛同し加盟する会社が増えていますが、脱炭素を目指してRE100に加盟している会社は、加盟することによって国際的にも企業価値の向上が期待できます。また、多少高くても再エネの電気を買いますという、先進的な消費者もいます。ですから、日本においてもこのような機運を高め、もっと広めていかなければならないと思います。
─編集部 多少高くても買いやすい仕組みとは、どのようなことでしょうか。
石井 多少高くても買いやすい仕組みを構築する布石はすでに打たれていまして、エネルギー供給高度化法の改正(2016年4月)注23で、小売電気事業者は2030年までに44%は非炭素電源で供給しないといけないことになっています。ですから、そういう環境価値のようなものを高めることで、ビジネスにつなげていくことを柱にすることが重要です。
〔2〕再エネを市場価格と連動させるビジネス
石井 例えば、九州電力では太陽光発電を抑制して、太陽光で発電された電気を捨てています。しかし、制御された太陽光発電の余った電気を捨てるのではなく「ただ(ゼロ円)でも何かで使おうよ」と考えるべきです。
JEPX(卸売電力取引所)では、前日市場(スポット市場)の場合、入札価格の取引単位の最低入札価格は0.01円/kWhと決められています。ですから再エネが余っているようなときには、そういう時間帯にどんどん電気を使って、例えば、給湯器でお湯をつくって貯めておく、あるいは家庭用蓄電池やEV蓄電池の充電を行えばよいのです。
これまで、電気料金は「昼間は高くて夜間は安い」となっていましたが、太陽光がこれだけ昼間に発電するようになってきた現在では、昼間のほうが電気は豊富に発電されるので安くする。また、電気が足りなくなるのは太陽が沈む夕方であり、そこに電気料金が一番高い時間帯となるような料金の設定にする。
卸売市場でも、このようなダイナミックな料金になるような方向にもっていくことが重要になってきます。
〔3〕アグリゲーターと新ビジネスの展開
─編集部 再エネの主力電源時代では、電気料金は昼夜反対になるのですね。
石井 このようなことをトータルに実施していくことが、これからの時代なのです。そうすると、アグリゲーターなどの出番が増えるわけです。
アグリゲーターが契約している消費者群(一般家庭など)に、「あなた方の家庭の給湯器を電気料金の安い昼間にまとめて運転します」とうことで、お互いにメリットを出していく。また、家庭用蓄電池を、安い時間帯に充電しておいて、高い時間帯に貯めた電気を売るというようなビジネスは当然出てくるでしょう。
さらに、再エネ事業者が、前述したようなバランシンググループを組むためのサービスを提供するなども、新しいビジネスとして期待されます。
─編集部 脱炭素を軸に、新ビジネスがいろいろと考えられますね。
石井 今まで、そのようなことはなかったのですが、実際に卸売電力市場で取引価格が0.01円/kWhと、ビックリするような超低価格(ほぼゼロ円)も出現しました注24。再エネの電気を捨てている一方で、JEPXでは、再エネに価格が付いて売られているというのはおかしな現象ですからね。
欧米や豪州では、価格がマイナスになってしまう現象も起こっています。つまり、電力システム全体で市場に電気が余っているのに発電して電気を市場に出してしまうと、罰金を取られるのです。
そのため、そのような場合には事業者は自主的に発電を止めてしまうのです。これは発電できている再エネを捨てている日本の状況と同じなのですが、改善する余地はあります。
これらの問題をどのくらいの時間で改善できるか。日本では2022年度から2024年度にかけて需給調整市場のスタートや、FIP制度の導入、計量の合理化、アグリゲーターの法的位置づけの具体化など、さまざまな動きがあります。それまでは、まだ改革の途中というようなイメージで、この数年間で解決の傾向が強まっていくことが期待できると思います。
─編集部 ありがとうございました。
▼ 注22
RE100:Renewable Energy 100%。企業の事業運営を100%再エネによって行うことを目標に掲げる企業が加盟する国際的な企業連合。RE100は、The Climate Group(TCG)とCDPによって運営されている。2014年9月に設立。加盟企業は284社(うち日本企業は46社、2020年12月26日現在)。
▼ 注23
エネルギー供給構造高度化法(2009年7月成立)は、平成28(2016)年4月に改正され、小売段階での非化石電源比率を全体で44%以上とすることを目標として設定された。44%の根拠は、日本のエネルギーミックス(第5次エネルギー基本計画)の2030年度の電源構成の「原子力20%と再エネ24%」を合算したもの。
https://www.env.go.jp/earth/h30ref02.pdf を参照。