新・電力供給システムに対応したSC8Cの活動領域
〔1〕重要な「エネルギー供給強靱化法」
─編集部 日本では一般送配電事業者の法的分離・中立化が2020年4月に終了し、これに続いて2020年6月、「エネルギー供給強靱化法」注11が国会で可決されました。これによって、再エネの主力電源化の促進や、頻発する災害に強い強靱(レジリエンス)な送配電網の構築に向けて、動きが活発化してくると考えますが。
石井 はい。「エネルギー供給強靱化法」は、次世代電力供給システムにとって、レジリエンスな送配電網の構築や、分散電源を束ねて電気の供給を行うアグリゲーター事業、さらに配電事業などを法律で初めて位置づけるなど、非常に画期的な法律です。
これらを念頭に置いて、「SC 8C」の活動領域について図6で説明しましょう。
図6 新しい電力供給システムと「SC 8C」の活動領域
出所 石井英雄氏提供資料より、2020年12月21日
〔2〕SC 8Cの活動領域と登場するプレイヤー
石井 前出の図1と似ていますが、図6は、図1を日本の電力システム改革以降のイメージを反映した「世界の新しい電力供給システム」のモデルとして整理した図です。
黄色の点線で囲んだ中央下部の部分が、SC 8Cがターゲットとする活動エリアです。
図6に示すように、プレイヤーとしては、
①発電事業者 ②送配電事業者 ③系統運用者 ④小売電気事業者 ⑤プロシューマー ⑥アグリゲーター ⑦市場
などが登場します。海外では歴史的に、図6に示すように送配電事業者と系統運用者注12は別々に扱われる国がありますが、日本では「一般送配電事業者」(あるいは送電事業者)というように、1つの会社が両方の機能を担います。
日本の場合、以前は旧10電力会社が、発電も送電も小売もすべて1社で行っていましたが、電力システム改革の完了(2020年4月)以降、すべて別々の会社になり、それぞれが自由化され、競争状態になりました。また、各種の電力取引は、基本的には市場を通じて調達するようになってきています(表2)。
表2 開始されている各種電力の取引市場の例(図6参照)
JEPX:Japan Electric Power Exchange、一般社団法人日本卸電力取引所。2003年11月設立
OCCTO(オクト):Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN。電力広域的運営推進機関。略称は「広域機関」、2015年4月設立
出所 各種資料より編集部で作成
〔3〕さまざまな市場が登場!
─編集部 今まで電力会社がそれぞれ1社で完結して行ってきたものを、電力システム改革を経て、別々に行うのですから大変ですね。
石井 そうです。分社化されたことによって取引上いろいろな約束事(ルール)が必要になり、いろいろな市場が創設されています。
従来は実際に発電された電力量(kWh)の売買が主体だったため、「卸売電力市場」(取引主体:JEPX)だけが市場化されていました。
しかし、現在では、表2に示すように、発電する能力(kW)の取引を行う「容量市場」〔取引主体:広域機関(OCCTO)〕、さらに、電力需要の変動時間を短時間に調整し、系統電力の周波数(50Hz・60Hz)を安定させるための調整力〔ΔkW(デルタキロワット)〕注13の取引を行う「需給調整市場」(取引主体:一般送配電事業者)などが登場しつつあります。
〔4〕プロシューマーの登場
─編集部 図6には、プロシューマーも登場していますね。
石井 プロシューマーの登場は、エネルギーの地産地消も含め、これから大きな役割を果たすと期待されています。プロシューマーは、kWh価値も、kW価値も、ΔkW価値も作ることができるので、相対取引(個別の取引)だけでなく、それらの価値を売買する新しい市場にも参加するようになってきます。
このような背景の下に、2020年7月、2024年度の容量市場を見据えて、第1回オークションが開催されました注14が、現在、日本は新しい電力供給システムの構築に向かいながら、まさに2024年頃を目標に、新しい電力供給システム環境の完成を目指しているわけです。
〔5〕重要さを増す連系線の役割
─編集部 図6の下部の他エリアAや他エリアBについて説明してください。
石井 現在、日本には、旧10電力会社のエリア(例:東京電力エリア、関西電力エリア、北海道電力エリア等々)がありますが、この各エリア間の協調が非常に重要となっています。
エリア同士は、連系線(送電線の一種)注15よって接続されていて、例えば、電力が不足しているエリアBに、余力のあるエリアAから電力を送る(融通する)ことができるようになっています。
以前は、各電力会社はそれぞれのエリア内でできるだけ独立して運営していくことが基本だったため、連系線で送る電力はあまり大きな容量が求められていませんでした。
ところが、最近、北海道エリアや東北エリアなどには風力発電が、九州エリアには太陽光発電が多く導入されるなど、再エネが特定エリアに偏在する傾向もあるので、他のエリアの再エネによる電力を送電する(融通する)うえでも、連系線は重要なのです。そこで日本全体で、広域的に再エネ電力の融通や前述した調整力の取引などができるよう、連系線増強と市場設計が行われるようになってきました。
▼ 注11
エネルギー供給強靱化法:「エネルギー供給強靱化法」の正式名称は「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(2020年6月5日国会で可決、2022年4月1日施行)。「電気事業法」「再エネ特措法」「JAGMEC法」の3つの法律改正を束ねた法律。概要は下記URLを参照。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001-5.pdf
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/201/pdf/s0802010262010.pdf
▼ 注12
送配電事業者(TSO)は、送配電線、変電所などの設備を保有し、その建設・メンテナンス等を行う事業体。一方、系統運用者(ISO)は、発電設備をコントロールし、送配電網を運用することで、安定に電気を送り届ける役割を担う事業体。
▼ 注13
調整力の買い手である一般送配電事業者の指令(要請)に対応して、調整力の売り手である電気事業者やアグリゲーターが用意し、一定時間内に提供する変動補償の電気の価値のこと。提供するリソースとしては、主に発電機、蓄電池、負荷設備等がある。応動時間が短いと対応が難しく料金も高い(料金はオークション制)。
例えば、時間に応じて、一次調整力は応動時間10秒以内、二次調整力は応動時間5分以内、三次調整力は応動時間①15分以内/②45分以内などがある。2021年度から、まず三次調整力②の運用が開始され、三次調整力①は2022年度に、順次開始される予定。
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/043_04_01.pdf
▼ 注14
本誌2020年10月号「2024年度の容量市場を見据えた、第1回オークションの落札結果が公表!」を参照。
▼ 注15
連系線の例:2018年9月6日未明、「平成30(2018)年北海道胆振(いぶり)東部地震」(震度7)の際、北海道と本州(東北電力)を結ぶ連系線「北本連系設備(直流幹線:60万kW)を使って本州から北海道へ60万kWの電力が送電されたが、容量不足のためブラックアウト(北海道全域の約295万戸が停電)を食い止められなかった。
この原因は発電所の停止(脱落)に伴う大規模な電力需給のアンバランスによる周波数(50Hz)の低下(50Hz⇒45Hz)であった。その後2019年3月に、北本連系設備の容量は30kWが増強され、現在、計90万kWで稼働を開始している。