パリ協定への復帰に関する文書に署名
2021年1月20日、民主党のジョー・バイデン氏が第46代アメリカ大統領に就任した。
写真1 「気候危機への取り組みをこれ以上遅らせることはできない」と題するスピートを行った、ジョー・バイデン(Joe Biden)第46代米国大統領
当日、ドナルド・トランプ前大統領は歴代の大統領としては152年ぶりに、新大統領の就任式を欠席した。また、その2週間前の1月6日には米国の議会議事堂が襲撃されたため、州兵による警備が行われる中で開催されるという異例続きの就任式となった。
その就任式が終わり、ホワイトハウスに入ったバイデン氏は、トランプ政権時代に離脱していたパリ協定への復帰に関する文書に署名した。
元来、気候変動に対して共和党と民主党では大きな姿勢の違いがあるが(図1)、特に共和党トランプ前大統領は、IPCC注2などの気候変動に関する科学的な見方に対して懐疑的な態度を取り、民主党オバマ政権時代に進められていたあらゆる気候変動対策を覆すなどの取り組みを行ってきた。
図1 気候変動を重大な脅威ととらえる米国成人の割合(単位:%)
出所 Rising U.S. concern about climate change is mostly among Democrats
その一環として行われたのが、トランプ政権におけるパリ協定からの離脱である。トランプ前大統領は2017年6月1日にパリ協定からの離脱を表明し、2019年11月4日に国連に離脱を正式通告していた注3(表1)。
表1 パリ協定の実現に向けた主な流れ(米国の動きを中心に)
COP21:The 21th Session of the Conference of the Parties、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(特定の条約を結んだ国々の集まり。全世界:196カ国・地域)
IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル」という国連組織
UNEP:United Nations Environment Programme、国連環境計画。1972年設立
NDC:Nationally Determined Contribution、国別の温室効果ガス削減目標
出所 各種資料をもとに筆者作成
ただし、パリ協定への復帰は始まりでしかない。2021年2月19日に国連のグテーレス事務総長が歓迎のメッセージで述べた(表1)とおり、今後、バイデン政権は米国としての野心的な「国が決定する貢献」(NDC:Nationally Determined Contribution)を、連邦政府や州政府、企業などと調整しながら決定していくという難題が待ち受けている。同日には、米国の3つの州や150近くの都市、1,000社以上の企業などが名を連ねる「America Is All In」という団体が設立された(写真2)が、今後、新政権はこのような組織とともに2030年に向けた目標設定を行っていく。
写真2 米国がパリ協定に復帰したことを記念して2021年2月19日に設立された「America is All In」(米国のさまざまな組織が一体となってパリ協定を推進する連合、表1参照)
▼ 注1
パリ協定:2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命前(1750年前後)と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑えることを努力目標とし、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロ(脱炭素化)にする。
▼ 注2
IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル」という国連組織。
▼ 注3
2017年6月1日、米国トランプ大統領は気候変動への国際的な取り組みを決めた「パリ協定」(2015年12月)から離脱すると発表。2019年11月4日、パリ協定からの離脱を正式に国連に通告した。離脱のプロセスは1年を要するため、大統領選の翌日に当たる2020年11月4日に正式に離脱した。これによって、アメリカは世界で唯一、パリ協定に参加していない国となっていた。