COP26議長国である英国によるCOP26に向けた声明
G7サミットでは、COP26議長国の英国が、“Statement by the UK Presidency of the G7 - The Road to COP”(G7議長国英国の声明 COPへの道のり)注7という文書を発表している。
この文書では、本記事の[前編]注8で紹介した、米国バイデン大統領主催の気候サミット(Leaders Summit on Climate、2021年4月22〜23日開催)で各国が表明した目標を含め、G7サミットに参加したG7加盟国および招待国が表明した気候や自然に関する公約を評価している。具体的には、G7に参加した各国の排出削減目標と、そのための具体的な取り組みを紹介している(表2、表3)。
表2 “Statement by the UK Presidency of the G7 - The Road to COP”で示されている各国の排出削減目標
ネットゼロ:人間の活動による温室効果ガスの排出量を森林などで吸収できるレベルにまで抑えること
注)表中の紹介順は文書での紹介順に基づく。
※人間の活動によって排出される温室効果ガスの排出量を森林などで吸収できるレベルにまで抑えること。
出所 “Statement by the UK Presidency of the G7 - The Road to COP”をもとに著者作成
表3 “Statement by the UK Presidency of the G7 - The Road to COP”で示されている各国の排出量削減に向けた取り組み
※表中の紹介順は文書での紹介順に基づく。なお、表2で示されていたオーストラリアについての詳細は記載されていない。代わりにインドに関する目標が記載されていた。
出所 “Statement by the UK Presidency of the G7 - The Road to COP”をもとに著者作成
ここに示されている内容は網羅的なものではないが、各国とも2030年や2050年といった中長期における野心的な削減目標を設定したうえで、それに向けた具体的な施策を示している。
欧州の取り組みを先導する欧州グリーンディールと復興基金
〔1〕積極的に気候変動対策に取り組むEU
欧州において、このような気候変動に対する野心的な目標の設定や、それに伴う先進的な活動を先導しているのは、やはりEU(European Union、欧州連合)である。EUは2019年12月1日に、EU史上初の女性委員長にウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)氏が就任し、新欧州委員会が発足してから、これまで以上に気候変動に関する取り組みを積極的に進めている。
EUのさまざまな取り組みを包括するものが、2019年から2024年の期間における欧州委員会の6つの優先課題の1つとして示された「欧州グリーンディール」(European Green Deal)である(図1)。
図1 欧州グリーンディールの全体像
出所 欧州連合日本政府代表部「EU情勢概要」、2020年2月、(原典 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:52019DC0640&from=EN )
〔2〕「次世代EU」という復興基金
この欧州グリーンディールは、EUを世界で初めての「気候中立な大陸」(Climate-neutral Continent)にするという目標を掲げて示されたものであり、そのために「抜本的な変化」(transformational change)が必要だという認識を示していた。
しかし、自ら「抜本的な変化」に取り組む前に、EUをはじめ世界に大きな変化をもたらしたのが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大である。これによって、EU各国も大きな打撃を受けたが、そのような状況に対処するために創設されたのが、「次世代EU」(Next Generation EU)と呼ばれる7,500億ユーロ(約96兆7,500億円。1ユーロ129円換算)にのぼる復興基金である。
この「次世代EU」は、「グリーンリカバリーファンド」とも呼ばれていることからわかるとおり、この復興基金を活用して2050年における気候中立を目指した取り組みを通して、COVID-19の拡大による経済への打撃からの回復を目指している。
この基金によって、当初懸念されていた欧州グリーンディール遂行のための資金確保に目処がつき、EUが目指している2030年までに温室効果ガスを1990年比で少なくとも40%削減することへの道筋がついたと言われている注9。
復興基金を活用するためには、まず欧州委員会に対して復興計画を提出する必要がある。そのうえで、EU理事会の承認を経て予算執行が可能になるが、2021年5月末の時点で22の加盟国が復興計画を提出済みだとされており注10、今後、各国が復興基金を活用した新たな取り組みを進めていくことになる。
▼ 注8
『インプレスSmartGridニューズレター2021年5月号』、「米国バイデン大統領主催の「気候サミット」をひも解く【前編】_気候サミットで発表された各国の削減目標値と日本の野心的取り組み」を参照。
▼ 注9
EU MAG EUの新型コロナ禍からの復興を支える大規模な財政支出計画。
▼ 注10
「EU復興基金が正式に始動、共同債券の発行を全加盟国が承認」を参照。