[特別レポート]

サプライチェーンの脱炭素化推進モデル事業

― SBTをベースにした具体的な削減行動を促進 ! ―
2021/09/06
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

SBTイニシアティブ(SBTi)が新戦略を発表

 このような状況の中、2021年8月9日に発表された、IPCCの新しい『第6次評価報告書 第Ⅰ作業部会報告書』(自然科学的根拠)では、現時点から積極的な取り組みを行ったとしても、2021年〜2040年の短期期間においても1.5℃程度の上昇の可能性は避けられないと分析された(本号の22ページを参照)。

 SBTイニシアティブでは、このような深刻な動向を察知していたため、IPCCの『第6次評価報告書 第Ⅰ作業部会報告書』が発表される直前の2021年7月15日、企業のCO2排出量削減の目標設定をパリ協定の「地球の平均気温上昇を、2℃をより十分低く抑える(1.5℃を追求する)」(2℃シナリオ:2℃目標)から、より野心的で厳しい「1.5℃に限定する](1.5℃シナリオ:1.5℃目標)という、新しい戦略を発表した注8

 このため、すでに「2℃シナリオ」でSBTイニシアティブから認定を受けていた企業は、再度、「1.5℃シナリオ」で承認されることが求められることになった。

サプライチェーンにおけるCO2排出量とその種類

〔1〕3つの範囲(スコープ1、2、3)を規定

 ここまで、「令和3(2021)年度サプライチェーンの脱炭素化推進モデル事業」の概要やSBTイニシアティブの役割を見てきた。企業(自社)および連携するサプライチェーンからは、実際にどのようなCO2がどこから排出されているのだろうか。

 現在、世界共通の基準となっている、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas。CO2)排出量に関する算定と報告の基準である「GHGプロトコル」注9を、前出の最新の『SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック』(2021年3月)などを参照して紹介しよう。

 GHGプロトコル(イニシアティブ)は、WRI(World Resources Institute、世界資源研究所)とWBCSD(World Business Council for Sustainable Development、世界経済人会議)を中心に、各国の政府機関や企業、NGO(非政府組織)などが加盟する国際的な組織で、1988年に設立された。

 ここでは、企業などのCO2排出量を把握するために、スコープ(Scope)という、CO2を算定する範囲を規定している。具体的には、表2に示す「3つの範囲(スコープ1、2、3)」である。

〔2〕サプライチェーン全体の総排出量

 表2に示した3つのスコープは、図5に示すように、企業(自社)とそのサプライチェーンの関係から、

  1. 上流(スコープ3:カテゴリ1〜8)
  2. 自社(スコープ1、スコープ2)
  3. 下流(スコープ3:カテゴリ9〜15)

の3つに区分されており、サプライチェーン全体の総排出量は、「スコープ1排出量+スコープ2排出量+スコープ3排出量」ということになる。

表2 スコープの種類(スコープ1、2、3)とその内容

表2 スコープの種類(スコープ1、2、3)とその内容

出所 環境省「SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック」2021年3月

図5 表3に示す各スコープ(スコープ1、2、3)の位置づけと内訳(スコープ3は表3に示すように、15個の細分化されたカテゴリで整理されている)

図5 表3に示す各スコープ(スコープ1、2、3)の位置づけと内訳(スコープ3は表3に示すように、15個の細分化されたカテゴリで整理されている)

※図中のカテゴリ1~15の詳細については、下記の参考Q&Aを参考にしていただきたい。
[参考]環境省、「Q&Aサプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集」、2021年3月改訂(2016年3月発行)
出所 https://www.env.go.jp/press/116491.pdf

 表3には、上流と下流にまたがるスコープ3における「15のカテゴリと各該当する活動の例」を示す。紙面の都合から詳しい紹介は割愛するが、関心のある方は、環境省の「サプライチェーン排出量策算定をはじめる方へ」(表3下段に示すWebサイト)を参照されることをおすすめする。

表3 スコープ3 の「1~15のカテゴリ」と該当する活動の例

表3 スコープ3 の「1~15のカテゴリ」と該当する活動の例

※1 スコープ3基準および基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象としている。
※2 スコープ3基準および基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としているが、算定しても構わない。
[出典]環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」、パンフレット
出所 環境省「サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」

*    *    *

 CO2排出量の削減は、企業にとっても、人類にとっても、まさに喫緊の課題である。2021年11月に、英国グラスゴーで開催されるCOP26において、各国の自主的で野心的なCO2排出量削減目標(NDC)が集約され、パリ協定の実現に向けて大きく前進することを期待したい。


▼ 注8
SBTi「Climate ambition: SBTi raises the bar to 1.5℃」、2021年7月15日

▼ 注9
GHGプロトコル(イニシアティブ)

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