SBTとは何か?
SBTとはScience Based Targetsの略で、「科学に基づいた目標設定」を意味し、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の報告書などの科学的データに基づいて分析されたCO2排出削減目標を、設定することである。
企業が科学的根拠と整合した削減目標(SBT)を設定することを推進しているのが、SBTi(SBTイニシアティブ)という国際組織である注5。
2018年10月に発行された、IPCCの『1.5℃報告書』注6以降、コロナ禍(COVID-19)の影響によって、世界のCO2排出量はわずかに減少した(図2)が、依然としてCO2排出量は高い水準である。
図2 世界のGHG排出量※:COVID-19ほどの影響でもCO2減少幅はごくわずか
※IPCC:https://www.ipcc.ch/sr15/chapter/chapter-3/
出所 環境省「SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック」、2021年3月
グテーレス国連事務総長は、コロナ禍後に予想される経済活動のリバウンド(ぶり返し)によるCO2排出量の増大を懸念して危機感を抱き、2019年8月に開催された「国連気候行動サミット2019」において、各国に対してパリ協定の2℃目標を、「1.5℃目標に沿ったCO2排出目標(NDC:各国の自主的なCO2排出削減目標)に引き上げる」ように呼びかけた。この発言を契機に、国際的なCO2排出目標の流れが、一気に「2℃目標」から引き上げられ、「1.5℃目標」に形成されることとなった。
2021年度の推進モデル事業:サプライチェーンも重視
〔1〕日本のSBT認定企業数は世界第2位
環境省が支援モデル事業を展開する中で、本格的なカーボンニュートラル時代を迎え、グローバルにビジネスを展開している企業を中心に、国際競争力の強化を目指して、SBTを明確にした脱炭素経営の取り組みが広がっている。
例えば、図3に示すように、SBTに取り組んでいる日本企業は、世界におけるSBT認定企業835社のうち124社に達し、世界第2位の認定国となっている(2021年7月末現在)。
〔2〕サプライチェーン全体に広げていくことが重要
日本のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするには、脱炭素に向けた取り組みを、個別企業における取り組みだけでなく、企業が取引するサプライチェーン全体に広げていくことが重要となってきた。これは、世界の共通課題ともなってきた。
このような背景から、SBTをベースにして、企業の具体的なCO2削減行動を促進するため、これまでよりも幅広い推進モデル事業が求められるようになってきた。このため、3年目を迎えた環境省の2021年度の推進モデル事業においても、SBTを基本とした「サプライチェーン」を重視した事業が実施されることになった。
この推進モデル事業によって、日本における企業のCO2排出削減のロールモデル(模範的な企業)を創出するとともに、事業を通じて得られたノウハウを幅広い企業に横展開することを目指している。
同推進モデル事業には、令和3(2021)年度予算(案)として、前年とほぼ同じの4億円が計上された注7。
〔3〕推進モデル事業が取り組む事業内容
2021年度の推進モデル事業に参加する企業は、どのようなことに取り組むのだろうか。
環境省は、すでにコンサルティング会社(ボストン・コンサルティング・グループ)と委託契約を結び、推進モデル事業に参加する企業に対して、次のような内容の検討を支援することになった。
- 各企業を取り巻く状況や戦略を踏まえて、脱炭素に取り組む経営戦略上の目的や意義を明確化するための検討を行う。
- 参加企業が、①ボトムアップ(個別の分野・プロセスの改善の積み上げによるCO2排出削減)と、②トップダウン(企業経営の抜本的な脱炭素化によるCO2排出削減)の双方のアプローチから、CO2排出削減目標の達成に必要なサプライチェーン全体での削減対策を見い出し、その実行計画を取りまとめる。
- 対象企業は、SBT認定取得済企業(認定申請中含む)、あるいはサプライチェーン全体で中長期削減取り組みの目標設定などをしている企業とする(2021年度は表1に示す5社)。
〔4〕推進モデル事業支援の実施スケジュール
推進モデル事業支援の実施スケジュールは、図4に示すように、2021年9月〜2022年1月の5カ月間にわたって、対象企業において次の内容を支援する。
- CO2排出削減の意義の明確化
- CO2排出削減施策の検討
- 実行計画の策定
図4 推進モデル事業支援の実施スケジュールのイメージ
BAU:Business As Usual、追加的な対策を講じなかった場合(通常)の温室効果ガス(CO2)の排出量 ベストプラクティス:効果的な方法 フィージビリティ:実現可能性
出所 環境省、「令和3年度サプライチェーンの脱炭素化推進モデル事業の事業概要」、2021年7月5日
▼ 注5
2014年9月に設立された国際組織。CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)・UNGC(国連グローバル・コンパクト)・WRI(世界資源研究所)・WWF(世界自然保護基金)の4つの機関が共同で運営。
<加盟(認定)企業数>認定取得済み企業が844社(うち日本企業数は125社)。2021年8月10日現在。
https://sciencebasedtargets.org/news/sbti-raises-the-bar-to-1-5-c
▼ 注6
IPCCの『1.5℃報告書』:原書は2018年10月に発行。地球温暖化を2℃ではなく、1.5℃に抑えれば、人間と自然生態系にとって明らかな利益となることを分析した報告書。IGESの日本語版『IPCC1.5℃特別報告書」ハンドブック背景と今後の展望(改訂版)』(2019年2月発行)参照。