DXレポートの衝撃
〔1〕2025年の崖
3年前の2018年9月、経済産業省は、日本企業における基幹ITシステム(レガシーシステム)の急速な老朽化を分析した報告書、『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜』を公表した注2。
DXレポートでは、DXが実現できない場合、2025年以降、毎年、最大12兆円もの莫大な経済損失が生じる可能性があると指摘された。これは「2025年の崖」とも呼ばれ、産業界に大きなインパクトを与えた。
その後、2020年12月には『DXレポート
2』注3が公開された。その政策の方向性は、「レガシー企業文化からの脱却」と「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」であったが、次のような課題も残した。
〔2〕「低位安定」関係ではデジタル競争は勝ち抜けない
図1のように、『DXレポート2』におけるユーザー企業とベンダー企業の関係性は、次のようになる。
- ユーザー企業から見れば委託によるITコストの削減が期待できる。
- ベンダー企業から見れば受託による低リスクで長期安定のメリットを享受できる。
図1 ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係(DXレポート2)
この結果、両者は相互依存関係が継続しWin-Winの関係となる。
しかし、この関係は、デジタル技術が進展し、経営状況に応じて的確かつ素早く対応できるITシステムの構築が求められる現在においては、ユーザー企業はITによる変化への対応力を喪失することになる。一方、ベンダー企業は低利益率による技術開発投資の不足を招くことになる。
このため両者は、デジタル時代に必要な能力を獲得できず、デジタル競争で勝ち抜くには困難な「低位安定」の関係に固定されてしまい、その結果、デジタル競争の敗者という危機的な状態を迎えてしまうことになる。
▼ 注1
GX:Green Transformation、グリーン・トランスフォーメーション
DX:Digital Transformation、デジタル・トランスフォーメーション
▼ 注2
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf
▼ 注3
「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」の『DXレポート2』(中間取りまとめ)として公表(2020年12月)。