[特集:特別対談]

カーボンニュートラルを目指す社会インフラとしてのデータセンターとは?

― DXを推進し、GXへの新しい流れを加速 ―
2021/10/04
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本でも2030年には総電力量の10%をデータセンターが消費

〔1〕GXを目指すデータセンターの企業経営

藤原:データセンターがDXを率先するといいましたが、カーボンニュートラルを考えるとデータセンターには、まずGXが必要といわれています。

 GX(Green Transformation)とは、CO2を削減し環境保護と経済を両立させる社会変革のことです。

 表4は、国内と世界のデータセンターの消費電力の予想図です。今は、日本の全電力消費の1.5%ぐらいをデータセンターが使っているのですが、2030年には10%ぐらいの消費量になるだろうといわれています。

表4 データセンター消費電力の現状と将来

表4 データセンター消費電力の現状と将来

ZB:ゼタバイト。1021バイト  TWh:テラワット時。1TWhは10億kWh(キロワット時)
出所 国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター、情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vo.2)(令和3年2月)、「表10 データセンター消費電力の現状と未来」をもとに一部日本語化・加筆して作成

江崎:データセンターの電力消費が日本全体の1.5%が10%になり、さらに上がっていくのは確実だと思いますので、データセンターの経営においてGXは、非常に重要なってくると思います。

藤原:データセンター企業やそれを利用する企業も、今後はGXを意識して経営すべきです。GXは、データセンター経営の中枢になると結論づけたいと思います。

〔2〕電力総量を下げる半導体技術:

IOWNへの期待

江崎:データセンター産業はCPUとメモリの塊ですから、データセンターが電気を相当量利用するとなると、省エネに貢献する半導体を作るべきという話も持ち上がってきています。

 IOWN(アイオン)注10では、エネルギー消費量約100分の1を目指すという新技術を公表しています。これは情報伝達の方法を電子ではなく光で行うもので、半導体デバイス同士の情報伝達や半導体チップ内のコア間伝送でも光を使おうというものです。

 電子で動くということは、地面の上をタイヤを履いて走っているようなものです。動けば熱が出るわけです。しかし、光ならばドローンのように飛んでいけますから抵抗がないので熱は出ません。

 データセンターと通信インフラは相当電気を使いますから、熱を出さずに生産性を上げ、電力の総量を下げるという技術の牽引は、IOWN技術を使った半導体になりそうです。今、実務ベースに近いところで一番頑張っているのは、このIOWNだと思います。

藤原:なるべく電気を使わない。情報流通DXみたいなことをいっているわけですね。

江崎:そういう意味では、量子コンピュータは一番面白そうな分野ですね。計算方法がノイマン型注11じゃなくなると、エネルギー効率は上がるだろうといわれています。GXとしての量子コンピューティングも期待されています。またデータセンターを宇宙にもっていこうという話もあります注12

藤原:ビジネスでの活用という面では、量子コンピュータを使いたい企業は現時点でまだそれほどいませんが、研究開発の世界では確かにそういったビジョンは大事だと思いますね。

国策としてのデータセンターのあり方:技術、経済、人材

藤原:データセンターの電力消費量が上がってくるので、業界団体としてはGXを経営の中枢におくべきと意識していますが、国策にすることも大事ではないかと思います。

 技術、経済、人材はどれも重要ですから、GX技術、GX経済、GX人材のように体系化して育成する必要があると思います。こういった視点で、国ぐるみでの取り組みが重要だと思います。

江崎:そうですね、やはり人材は本当に深刻な問題で、どうやって若い人たちに関心をもっていただくかが重要だと思います。ちなみに、やっと大学の入試科目に「情報」科目注13が入ることになったみたいですね。国策としては大きな丸をつけても良いと思います。

 またRE100ばかり話題になりますが、これからはEP100にも注目したい。実は藤原さんの会社のお客様である「Preferred Networks」(プリファードネットワーク)は、省電力性能ランキングGreen500トップ100の1位を取りましたね。富士通のスーパーコンピュータ「富岳」は大型コンピュータ系で1位を、プリファードネットワークはAI系で1位を取りました。

藤原:プリファードネットワークは、ハイパースケールのクラウドベンダに依存せず、新しい技術革新でグリーンを目指すベンチャー企業です。


▼ 注10
IOWN:Innovative Optical & Wireless Network。スマートな世界を実現する、最先端の光関連技術および情報処理技術を活用した未来のコミュニケーション基盤。NTT、ソニー、インテルが2019年10月31日に立ち上げた業界フォーラム。

▼ 注11
現在普及しているノイマン(フォン・ノイマン)型のコンピュータは、プログラムで記述したアルゴリズム(演算方式)に従って忠実にデータの処理を行って計算結果を導き出す。一方、量子コンピュータは、電子エネルギーのポテンシャルを用いた計算など、現在のノイマン型とは本質的に異なる方法で圧倒的な処理能力をもつとされている。現状ではさまざまな方法の研究開発が行われている段階であるが、最適解と思われるものを求めるアーキテクチャなどが研究開発されている。

▼ 注12
成層圏などの宇宙に大きな重量・容量の機材を比較的小さなコストで投入することが可能になりつつある。これによって、冷却効率と地上との高速通信が可能なデータセンター機能をもった衛星を宇宙空間に設置可能となりつつあり、LEO(低軌道衛星)、静止軌道衛星、HAPS(無人飛行体)などが急速に実現されつつある。
地上では障害物や空気があるので、無線・光通信は容易ではないが、宇宙では地上よりも通信環境の条件が良い。さらに、有線通信は陸上に物理線を設置しなければならず、そのコストは大きい。

▼ 注13
2025年1月に実施する大学入学共通テストに、プログラミングやデータサイエンスに必要な統計処理、情報リテラシーの知識などを試す「情報」が導入。これにより「情報」は「国語」や「数学」などと並ぶ基礎教科になる。
https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00040331.pdf&n=02_平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について.pdf

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