データセンターが率先してDXを推進すべき
〔1〕データセンターの役割
藤原:データセンターには、DXを支える基盤としての役割もあります。私は今、経済産業省のDX政策をフォローしているのですが、2018年に公表された『DXレポート』注2では、日本の大企業には古いITシステムが多く、それらが負債やブラックボックスになっていてDXが進んでいない、とありました。個人的な印象としても、「DXって何をしたらいいですか?」という企業が多いと感じています。ですからデータセンター業界が、率先してDX推進をすべきだと思っております。
特にDCIM(Data Center Infrastructure Management、データセンター内の資産管理手法)を使って、古いITの人たちにデータセンター運用のノウハウを普及させたい。 メインフレームの亡霊から解放し、インターネットデータセンター運用の世界に引っ張り込む役割が、データセンター業界にはあると思っております。
また、データセンターは、単に場所の確保やコロケーション注3だけではなくて、DX拠点として変わっていくべきです。
江崎:データセンターが、ある意味DXの見本になれるということですね。
データセンターは、生まれたときから電気を消費しますから、省エネはすごく熱心に実行していました。ですからデータセンター事業者の省エネ対策は、他の産業の省エネ対策の見本・参考になります。
さらに省エネや効率化という点では、今「EP100」注4の取り組みが注目されています。私も大和ハウスさんから教えていただいたのですが、EP100とはエネルギー効率の高い技術や仕組みを導入して、事業全体のエネルギー効率を倍増(100%)することを目標にする取り組み(国際的なイニシアティブ)です。同社はすでに「RE100」注5を実施していて、さらにEP100にも参加して取り組んでいます。
データセンターは、最初から省エネを目指していましたから、EP100%は普通に行っていて、データセンター協会のDXとしては、EP500(エネルギー効率を5倍にする)を目指すなどといってもいいかもしれないです。
それからデータセンターは、今まで大きな経済圏である東京都や大阪府近辺が多かったのですが、クラウド化によって地方でも立地できる、いわゆる疎開が可能になりました。またDCIMなどで運用人員を少なくできますから、地方だからといって運用がおろそかになることもありません。
地方なら、都市部よりも再エネを使いやすいので、データセンターは疎開して、そこで再エネを使うという流れは、他の産業にも見本になる話ではないかと思います。
〔2〕データセンターにおけるデータの安全性
藤原:データセンターを活用するうえで、データの安全性も重要なポイントです。
2020年3月にLINEが問題を起こしました。国外のスタッフが自由にデータにアクセスできるのが問題だといわれました。他国が干渉できるという状況は、最悪の場合、データセンターに置かれたサーバのデータにロックをかけて政治交渉の切り札に使われるかもしれない。とすると、データの安全は、国の安全保障の観点から見るべきです。
私は、データの安全保障は自国で行うべきと思います。
江崎:データセンターに対しては、日本政府が要求する基準できちんとサービスを提供するように指導されていて、そこには当然データローカライゼーション注6も必要条件に入っています。必ずデータローカライゼーションできるようなインフラにして、きちんと監査されないといけないというルールにしてあります。
加えて、安倍前総理はダボス会議で、個人情報などのデータは慎重に保護すべきだが、非個人的な匿名データは、産業や社会の発展のために国境を意識せずに、自由に行き来させるべきだと主張しました。
▼ 注2
『DXレポート2.1』が2021年8月31日に公表された(2020年12月に公表された『DXレポート2』の追補版)。本号24ページ「特別レポート」参照。
▼ 注3
コロケーション:collocation。所有者や運用者が異なる設備や機器を共同の場所にまとめて設置すること。
▼ 注4
EP100:Energy Productivity 100%。
▼ 注5
RE100:Renewable Electricity 100%。企業の事業運営を100%再エネによって行う取り組み。
▼ 注6
データローカライゼーション:国境を越えたデータ移転に関する制限。個人情報や重要情報などの保存を国内サーバに限定したり、国外への情報の移転に制限をかけたりするもの。「個人情報」だけではなく、「National Security」に関係する情報、あるいは機密性の高い企業の情報なども同様に、ローカライゼーションの対象になる。
日本では個人情報保護法に基づき、個人情報の保護を図りつつ国際的なデータ流通が円滑に行われるための環境を整備するとされていて、多国間での交渉を行っている。