時代はカーボンネガティブへ、社会インフラとしてのデータセンターを目指す
〔1〕カーボンニュートラルのさらに上を目指すカーボンネガティブ
藤原:カーボンニュートラルがゴールみたいにいわれていますが、さらにその上を目指すカーボンネガティブという取り組みもあります。
カーボンニュートラルはCO2排出量を全体としてゼロにすることですが、カーボンネガティブは、事業活動の中で排出するCO2量以上にCO2量を排除(吸収)するという取り組みです。
米国マイクロソフトは、2030年までにカーボンネガティブを達成し、さらに2050年までに1975年の創業以後に排出したCO2の環境への影響を完全に排除すると宣言して、業界にインパクトを与えました。
江崎:今、再エネを導入・設置したデータセンターにおいて、余った電力を、他の企業に提供できれば、データセンターはカーボンネガティブになります。
エネルギーを外部に提供しても、ビジネスモデルの上でそろばんを弾いてプラスになるなら、今後、自社のデータセンターが使うよりも多くの再エネ設備を導入したデータセンターが、出てくるだろうと思います。
それからもう1つ、もうすでに起こっていることなのですが、コンテナ技術を使ったKubernetes注14というプラットフォームを使って、コンピュータの計算量の増減をかなり自由にできるようになったのです。
データセンターが電力会社に電力を供給できるとした場合、電力会社の電気が足りないときは、コンピュータの処理量を下げて余った電力を供給できる、またはデータセンターが蓄電池をもっていれば、データの処理量が下がったときに蓄電池に貯めておいて、必要なら蓄電池から電力会社に提供(販売)することができます(図2)。
蓄電池のコストは下がってきています。テスラは、GWhぐらいの容量のリチウムイオン電池を生産していて、しかも日本の畜電池コストの2分の1ぐらいなんです。
まとめると、再エネと蓄電池をもったデータセンターは、データセンターの諸電源と蓄電源とコンピューティングリソースを活用すると、外部に対して電力を提供できるセンターになりうるわけです。データセンターの消費電力が、国内の10%くらいになったときは、電力サプライチェーンから見ればデータセンターは、10%ぐらいの調整力をもったリソースと見ることもできます。
藤原:よく理解できました。
江崎:IIJの白井データセンターキャンパス(千葉県白井市)で使用されているのが、テスラ製の蓄電池「Power pack」です(図3)注15。
図3 IIJの白井データセンターキャンパスにおける電力利用の概要(右側は同キャンパスで利用しているテスラ製蓄電池「Power pack」)
テスラ製の蓄電池の変遷を見ると、当初は車載用であったものが今では強力な蓄電池が開発され、販売されているのです。データセンターが電力のサプライチェーンとは異なる、車業界のテクノロジーをそのままもってきたことになっているのがわかります。そこが面白いんですね。
従来、データセンターで利用されていた蓄電池は、エネルギー密度〔容量(kWh)と出力電力(kW)〕が小さく、体積が大きい機器で、かつコンピュータ機器への電力供給の瞬停(瞬間的に送電が停止すること)のみに対応する設備であり、しかも、良好な室内環境でないとうまく稼働できず、かつ高コストの設備でした。しかし、車載用に開発されたリチウムイオン電池は、劣悪な動作環境でも小型・大容量・高出力を提供可能であり、かつ低コストの設備です。
これは、住居空間に存在する機器と車載の機器を比較すると、同様の機器が多数存在することがわかります。例えば、オーディオ機器や空調機器などですね。
しかも、コンピュータ電源の瞬停以外の用途にも、リチウムイオン蓄電池が利用可能になったのです。さらに単機能で提供された設備から、複数機能を提供する設備に進化したのです。
IIJの白井データセンターキャンパスでは、それを証明したのです。
藤原:リチウムイオン電池が普及したのはスマートフォンやノートPCでしたが、自動車でも使われるようになって耐環境性が強化されましたね。
江崎:他の業界からの技術を転用して、イノベーションが起きつつあるということです。
〔2〕自前の再エネ設備を備えた次世代データセンターの可能性
藤原:日本でも自前で再エネ設備を備えた次世代データセンターの可能性は?という意見もあると思います。しかし、我々はいまのところそこまでは考えていません。もちろん、再エネの発電所をもってはいますが、データセンターで使うために作ったものではありません。ただし、将来的な実現可能性はあると思っています。北海道石狩市では、RE100のデータセンターを構築予定です(図4)。
またアマゾンは、国内データセンター用の電力を100%再エネで供給するために、東京電力など複数の電力事業者と検討を始めた、という話題も出たりしています。
江崎:そうですね。中国は、かなりアグレッシブに発電システムとデータセンターを組み合わせています。日本の場合、発電事業は外資規制や中立性、安全性を守らなければならないので、抑制的です。しかし海外、特に米国は自由で、キャッシュももっていますから、データセンタープレイヤーが発電所を所有するということはありうる話です(図5参照)。(終わり)
図5 グーグルのサンギスラン・データセンターのために敷地内に設置した太陽光発電設備(ベルギー・サンギスラン地区)
※2017年に同データセンターは 1.09 の平均 PUE を達成。
出所 https://sustainability.google/intl/ja/progress/projects/belgium-solar/
▼ 注14
Kubernetes:クバネティス。ソフトウェアのコンポーネントをパッケージするコンテナ技術を使ってアプリケーションを管理する基盤の1つ。ポータブルで軽量、高速、そして高い拡張性のあるシステムを管理できる特徴をもつ。