[特集:特別対談]

カーボンニュートラルを目指す社会インフラとしてのデータセンターとは?

― DXを推進し、GXへの新しい流れを加速 ―
2021/10/04
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

時代はカーボンネガティブへ、社会インフラとしてのデータセンターを目指す

〔1〕カーボンニュートラルのさらに上を目指すカーボンネガティブ

藤原:カーボンニュートラルがゴールみたいにいわれていますが、さらにその上を目指すカーボンネガティブという取り組みもあります。

 カーボンニュートラルはCO2排出量を全体としてゼロにすることですが、カーボンネガティブは、事業活動の中で排出するCO2量以上にCO2量を排除(吸収)するという取り組みです。

 米国マイクロソフトは、2030年までにカーボンネガティブを達成し、さらに2050年までに1975年の創業以後に排出したCO2の環境への影響を完全に排除すると宣言して、業界にインパクトを与えました。

江崎:今、再エネを導入・設置したデータセンターにおいて、余った電力を、他の企業に提供できれば、データセンターはカーボンネガティブになります。

 エネルギーを外部に提供しても、ビジネスモデルの上でそろばんを弾いてプラスになるなら、今後、自社のデータセンターが使うよりも多くの再エネ設備を導入したデータセンターが、出てくるだろうと思います。

 それからもう1つ、もうすでに起こっていることなのですが、コンテナ技術を使ったKubernetes注14というプラットフォームを使って、コンピュータの計算量の増減をかなり自由にできるようになったのです。

 データセンターが電力会社に電力を供給できるとした場合、電力会社の電気が足りないときは、コンピュータの処理量を下げて余った電力を供給できる、またはデータセンターが蓄電池をもっていれば、データの処理量が下がったときに蓄電池に貯めておいて、必要なら蓄電池から電力会社に提供(販売)することができます(図2)。

図2 リチウムイオン蓄電池の利用効果

図2 リチウムイオン蓄電池の利用効果

出所 https://www.iij.ad.jp/DC/campus/storagebattery.html

 蓄電池のコストは下がってきています。テスラは、GWhぐらいの容量のリチウムイオン電池を生産していて、しかも日本の畜電池コストの2分の1ぐらいなんです。

 まとめると、再エネと蓄電池をもったデータセンターは、データセンターの諸電源と蓄電源とコンピューティングリソースを活用すると、外部に対して電力を提供できるセンターになりうるわけです。データセンターの消費電力が、国内の10%くらいになったときは、電力サプライチェーンから見ればデータセンターは、10%ぐらいの調整力をもったリソースと見ることもできます。

藤原:よく理解できました。

江崎:IIJの白井データセンターキャンパス(千葉県白井市)で使用されているのが、テスラ製の蓄電池「Power pack」です(図3)注15

図3 IIJの白井データセンターキャンパスにおける電力利用の概要(右側は同キャンパスで利用しているテスラ製蓄電池「Power pack」)

図3 IIJの白井データセンターキャンパスにおける電力利用の概要(右側は同キャンパスで利用しているテスラ製蓄電池「Power pack」)

出所 https://www.iij.ad.jp/DC/campus/storagebattery.html

 テスラ製の蓄電池の変遷を見ると、当初は車載用であったものが今では強力な蓄電池が開発され、販売されているのです。データセンターが電力のサプライチェーンとは異なる、車業界のテクノロジーをそのままもってきたことになっているのがわかります。そこが面白いんですね。

 従来、データセンターで利用されていた蓄電池は、エネルギー密度〔容量(kWh)と出力電力(kW)〕が小さく、体積が大きい機器で、かつコンピュータ機器への電力供給の瞬停(瞬間的に送電が停止すること)のみに対応する設備であり、しかも、良好な室内環境でないとうまく稼働できず、かつ高コストの設備でした。しかし、車載用に開発されたリチウムイオン電池は、劣悪な動作環境でも小型・大容量・高出力を提供可能であり、かつ低コストの設備です。

 これは、住居空間に存在する機器と車載の機器を比較すると、同様の機器が多数存在することがわかります。例えば、オーディオ機器や空調機器などですね。

 しかも、コンピュータ電源の瞬停以外の用途にも、リチウムイオン蓄電池が利用可能になったのです。さらに単機能で提供された設備から、複数機能を提供する設備に進化したのです。

 IIJの白井データセンターキャンパスでは、それを証明したのです。

藤原:リチウムイオン電池が普及したのはスマートフォンやノートPCでしたが、自動車でも使われるようになって耐環境性が強化されましたね。

江崎:他の業界からの技術を転用して、イノベーションが起きつつあるということです。

〔2〕自前の再エネ設備を備えた次世代データセンターの可能性

藤原:日本でも自前で再エネ設備を備えた次世代データセンターの可能性は?という意見もあると思います。しかし、我々はいまのところそこまでは考えていません。もちろん、再エネの発電所をもってはいますが、データセンターで使うために作ったものではありません。ただし、将来的な実現可能性はあると思っています。北海道石狩市では、RE100のデータセンターを構築予定です(図4)。

図4 北海道石狩市が構築予定の再エネ100%を使用したRE100のデータセンター

図4 北海道石狩市が構築予定の再エネ100%を使用したRE100のデータセンター

出所 北海道石狩市、「北海道・地域マイクログリッドセミナー マイクログリッドに向けた取組」、2019年11月27日

 またアマゾンは、国内データセンター用の電力を100%再エネで供給するために、東京電力など複数の電力事業者と検討を始めた、という話題も出たりしています。

江崎:そうですね。中国は、かなりアグレッシブに発電システムとデータセンターを組み合わせています。日本の場合、発電事業は外資規制や中立性、安全性を守らなければならないので、抑制的です。しかし海外、特に米国は自由で、キャッシュももっていますから、データセンタープレイヤーが発電所を所有するということはありうる話です(図5参照)。(終わり)

図5 グーグルのサンギスラン・データセンターのために敷地内に設置した太陽光発電設備(ベルギー・サンギスラン地区)

図5 グーグルのサンギスラン・データセンターのために敷地内に設置した太陽光発電設備(ベルギー・サンギスラン地区)

※2017年に同データセンターは 1.09 の平均 PUE を達成。
出所 https://sustainability.google/intl/ja/progress/projects/belgium-solar/

◎プロフィール(敬称略)

藤原 洋(ふじわら ひろし)

藤原 洋(ふじわら ひろし)

株式会社ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO/一般財団法人インターネット協会 理事長・IoT推進委員長/株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長/株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役会長

1954年福岡県生まれ。1977年京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。現在、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授、SBI大学院大学学長を兼務。
2011年4月独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学評議会評議員、2013年12月総務省ICT新事業創出推進会議構成員、2014年1月同省電波政策ビジョン懇談会構成員、2016年10月同省新世代モバイル通信システム委員会構成員、2020年1月同省Beyond5G推進戦略懇談会構成員を歴任。

江崎 浩(えさき ひろし)

江崎 浩(えさき ひろし)

東京大学大学院理工学系研究科 教授

工学博士(東京大学)
東大グリーン ICT プロジェクト代表、日本データセンター協会 副理事長
WIDE プロジェクト代表、MPLS-JAPAN 代表、IPv6 普及・高度化推進協議会専務理事
JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)副理事長
ISOC 理事(Board of Trustee, Internet Society)、IPv6 Forum Fellow
2021年9月1日、デジタル庁のChief Architectに就任。


▼ 注14
Kubernetes:クバネティス。ソフトウェアのコンポーネントをパッケージするコンテナ技術を使ってアプリケーションを管理する基盤の1つ。ポータブルで軽量、高速、そして高い拡張性のあるシステムを管理できる特徴をもつ。

▼ 注15
https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2019/1021.html

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...