IEAの分析:輸送部門の全CO2排出量のうち自動車が74%を占める
IPCC報告書では、1.5℃目標の達成に向けて、地球に残されたCO2排出許容量は、現状のままだと2030年までのあと8年分しか残っていないと分析された。
このようにCO2排出許容量が危機的な状況の中で、国際エネルギー機関「IEA」は、2021年5月に『Net Zero by 2050』報告書を発行注10し、2050年までのCO2排出量のネットゼロに向けて、世界のエネルギー転換シナリオを示した。
この報告書には、2050年ネットゼロに向けた産業のセクター別(建物部門、輸送部門、産業部門、電気・熱部門など)のロードマップが提示されている(詳細は本誌2021年8月号の特集記事を参照)。
そのうちの自動車・航空機・電車・船舶などの「輸送部門」を見ると、図4に示すように、世界の全CO2排出量のうち23%を輸送部門が占めている。そのうちの自動車が占める割合は17%(日本では16%)と高く、輸送部門の74%(=17÷23)も占め、見逃せない数字となっている。
図4 輸送部門のCO2排出量と自動車(乗用車・トラック)の排出量の割合
輸送部門のCO2排出量は同排出量全体の23%を占める。このうち、自動車が占める割合は約17%(日本では16%※)。
[出典]ICCT The transport sector A major contributor to global anthropogenic CO2 emissionsにIGESが加筆
※国土交通省 運輸部門における二酸化炭素排出
出所 山守正明、IGES、「脱炭素に求められる自動車の転換シナリオ」(2021年12月2日)、JCLP/IGES共催 EV公開ウェビナー「加速するEV転換への世界的潮流」より
ZEV(ゼロ・エミッション車)とは?
〔1〕CO2排出量ゼロの自動車
ここまで述べたように、自動車の脱炭素化が、いかに重要であるかがわかる。自動車の脱炭素化の場合、近年、必ず登場する用語がZEV(Zero Emission Vehicle、ゼロ・エミッション車)である。
ZEVとは、CO2などの温室効果ガスの排出量がゼロの自動車のことで、具体的には、EV(電気自動車。BEV)とFCV(燃料電池自動車)を指す。ここで注意しなければならないのは、排出ゼロといっても、厳密に見ればBEVやFCVの車体や各部品の製造、さらにEV充電用の電力やFCV用の水素をつくるために、石油や石炭などを使用していれば、100%ゼロ・エミッションとは言い難い点である(表2の下段参照)。
表2 電動車に関する用語(種類と名称)の整理
参考資料:村瀬 英一「Well to WheelとLife Cycle Assessmentの意味するところ」、機械学会誌2017年11月号(Vol.120)
出所 各種資料をもとに編集部で作成
このため、自動車製造の原料から、製造工程、使用エネルギー、廃棄に至るまでのライフサイクル全体を評価すること(LCA:Life Cycle Assessment、表2最下段参照)が重要となる。
〔2〕環境にやさしい車:4つのカテゴリー
図5に、環境にやさしい車といわれる電動車の4つのカテゴリー(分類)を、表2に用語の整理を示す。
図5 ゼロ・エミッション車(ZEV)とは? BEV・FCVとPHV・HVの位置づけ
出典:経済産業省(2020) 電動車活用促進ガイドブックを基にIGES加筆
*みずほフィナンシャルグループ
**BNEF(2021) Zero Emission Vehicle Factbook
***経済産業省 EV・PHV普及に関する経済産業省の取組
モーター・インバーター:交流(AC)モーターに供給する電力の周波数を制御することによって、モーターの回転速度を連続的に変化させる装置
出所 山守正明、IGES、「脱炭素に求められる自動車の転換シナリオ」(2021年12月2日)、JCLP/IGES共催 EV公開ウェビナー「加速するEV転換への世界的潮流」より
図5に示す、4つのカテゴリーすべてがZEVというわけではない。図5のうちZEVに該当するのは、左側に示すEV/BEVとFCV(FCEV)である。
ここで、図5の右下に示すHV(ハイブリッド車)は、燃料はガソリンのみを使用するためZEVではない。図5の右上に示すPHV(プラグインハイブリッド車)は、ガソリンエンジンとモーターを搭載するが、車外から充電が可能でEVに近いため、Transitional ZEV(過渡的なZEV)と呼ばれることもある。このように、PHV(PHEV)はCO2排出ゼロではないが、充電可能など比較的EVに近いところから、(国やリサーチ会社によって)広い意味でZEVの一種と捉える場合もある注11。