企業などのCO2排出量を把握するための「スコープ」
ここで参考までに、表1に、企業などのCO2排出量を把握するための「スコープ」(Scope)というCO2を算定する範囲注2を整理しよう。
スコープは、
▪上流(スコープ3)
▪自社(スコープ1、スコープ2)
▪下流(スコープ3)
の3区分に整理されており、サプライチェーン全体の総排出量は、「スコープ1排出量+スコープ2排出量+スコープ3排出量」ということになる。
これを見ると、サプライチェーンのCO2排出量がいかに多く積算され、かつ削減量をコントロールしにくいかが理解できる。
製品のCO2排出量情報を集約・算出するソリューション「SiGREEN」とEstainiumネットワーク
シーメンスは2021年11月22日、製品のCO2排出量情報を集約し、算出するソリューション「SiGREEN」を発表した。
〔1〕SiGREENとは
SiGREENは、ブラウザーベースで動作するソフトウェアとそれに付随するサービスで構成(図3)され、サプライチェーン全体における製品のCO2排出量のトラッキングを可能にする(表2)。
図3 SiGREENとEstainiumネットワーク
出所 2022年1月25日、シーメンス記者発表会資料より
表2 「SiGREEN」の主な特徴
出所 シーメンス記者会見資料をもとに編集部で作成
データの正確性は、バリューチェーンにおける排出目標を効果的に達成するための、重要な前提条件である。SiGREENは、実際にCO2が発生している場所、つまりサプライチェーンの各段階で収集される実データを効率的に取得するアプリケーションの開発に成功したソリューションである。
例えば、工場全体のCO2排出量をリアルタイムでモニタリングできたり、工場内で製造される複数多種の製品1台当たりの1日のCO2排出量もリアルタイムでモニタリングできる。
さらに、その結果が自社で設定した削減量の目標値に達していない場合には、その原因の分析も可能となる。
SiGREENは、ITおよびOT環境に統合された1つのダッシュボードで、実際のデータに基づいて、サプライチェーンに沿って信頼性の高いCO2排出量を効率的に要求、計算、交換する。必要なデータを正確に得ることを可能とする。
〔2〕業界横断型のオープンな非営利団体「Estainiumネットワーク」
サプライチェーンと同様に、CO2の排出も複数の業界にまたがっている。そこで、シーメンスは、信頼できるCO2排出量のデータをメーカー、サプライヤー、顧客、パートナーが交換できるよう、業界横断型のオープンな非営利団体「Estainium(エステイニアム)ネットワーク」を立ち上げた(図3左)。
ここには、CO2を買い取る企業や認証機関、NGOなどサステナブルあるいはCO2排出量に関わるさまざまな団体が参加していて、世の中がサステナブルになるための技術や政策、標準化(ISOなど)などのトピックについて議論し、運営していく。
SiGREENは、さまざまな標準化規格を相互運用可能にすることで、業界に関係なく、パートナーと製品のCO2排出量のデータを送受信することができる。
〔3〕CO2排出データの機密性と信頼性
一方で、サプライヤーにとっては、自社のデータの機密性を担保することが課題となる。そこでSiGREENでは、分散台帳技術(DLT)注3と、ブロックチェーン技術を活用して、複数のサプライヤーにまたがっていても、必要なデータを必要な需要者に与えることができる機密性とデータ主権(中央集権的なデータのアップロードなしに)など、サプライヤーのニーズを満たしながら、データの信頼性とセキュリティを可能にしている(図4)。
図4 SiGREENの分散型技術(DLP)
出所 2022年1月25日、シーメンス記者発表会資料より
〔4〕CO2排出量の実データで算出
SiGREENのサポートにより、企業は製品のCO2排出量をトラッキングし、定量化可能な効果が得られる目標削減策を講じることができる。
シーメンスは、「CO2排出管理を行うことで、カーボンニュートラルな生産を促進し、サステイナビリティを重要な競争力に変えることができる」と述べている(2021年11月22日プレスリリース)注4。
CO2排出量の算出に、SiGREENは業界の平均値ではなく、実データを使用している。このように、製品のCO2排出量を測定、管理し、企業が目標とする改善策を適用することで、積極的にCO2を削減できるようになる。
▼ 注2
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html
▼ 注3
DLT:Distributed Ledger Technology、分散型台帳技術。ネットワークを構成する複数のノードが同一データベース(台帳)を保持し、情報の変更に応じて各ノードの台帳が更新されるというもの。特権的なノードがなく、公平なネットワークの構築が可能。