[特別レポート]

EV化と再エネ主力電源化時代、変わる蓄電池の役割

― 2030年までに車載用蓄電池の製造能力を100GWhへアップ ―
2022/03/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

グリーン成長戦略:自動車・蓄電池が目指す目標

 以上、蓄電池の利用の現状と将来像や、自動車の電動化が急務な理由を見てきたが、グリーン成長戦略では、2050年の自動車のライフサイクル全体でカーボンニュートラル化を目指すとともに、新たなエネルギー基盤としての蓄電池産業の競争力強化を図ることを目指している。

 このグリーン成長戦略において、日本の自動車や蓄電池における当面の目標は、次のような内容である注8

〔1〕自動車:2035年までに、乗用車の新車販売で電動車100%へ

 自動車については、電気自動車(BEV)をはじめ燃料電池自動車(FCEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)などを含む、全方位的な電動車の普及を加速させる。このとき、蓄電池など電動車関連技術やそれに関連するサプライチェーンの強化などを一体化して成長させていき、2035年までに、乗用車の新車販売において電動車100%を実現する。

表2 主な国・地域の蓄電池の生産能力の推移[GWh/年]

表2 主な国・地域の蓄電池の生産能力の推移[GWh/年]

(三菱総研、ゴールドマンサックス資料から経済産業省作成)
※1 2020年はパナソニック、エンビジョンAESC、PPES、LG、SDI、SKI、CATL、BYDのみの推計。
※2 2025年は上記企業以外も含めた試算。
出所 経済産業省「蓄電池産業の現状と課題について」(2021年11⽉18⽇)をもとに編集部で作成

〔2〕蓄電池:2030までに100GWhの製造能力へ

 蓄電池については、研究開発を支援して蓄電ビジネスを創造していき、2030年のできるだけ早い時期までに、次のような内容の実現を目指す。

  1. 車載用蓄電池
     ①国内の製造能力100GWh(2025年は39GWhの見込み、表2)注9
     ②電池パック価格1万円/kWh以下(電気自動車とガソリン車の経済性が同等となる車載用の蓄電池パック価格)
     表2に見られるように、国・地域別生産能力を見てみると、現在、中国が最大の生産国であり、2025年における見込みは754GWh(2020年比で572GWh増加)、今後、更に生産能力能を拡大すると見られている。これに加えて、欧州も、2025年の見込みは726GWh(2025年比で660GWh増加)となり、急速に生産能力を拡大すると見込まれている。
     このような市場動向から、日本でも、国際競争力の観点から、大規模な製造拠点の国内立地の支援や次世代技術開発の強化、サプライチェーン全体の強化が求められている。
  2. 定置用蓄電池
     定置用蓄電池は、2030年までに、普及の拡大を目指して、次のレベルの価格を実現する。
     ①家庭用蓄電池価格7万円/kWh(工事費込み)
     ②業務・産業用蓄電池価格6万円/kWh(工事費込み)
     ③家庭用、業務・産業用蓄電池の合計で累積導入量約24GWh

今後の展開:再び世界をリードする

 ここまで、2050年カーボンニュートラルを目指すグリーン成長戦略の「自動車産業・蓄電池産業」の動向と日本の状況を見てきた。以前は、日本はその技術開発力で世界をリードしていたが、現在、日本の国際競争力は急速に低下している。

 このような背景の下に、経済産業省主催の「第1回 蓄電池のサステナビリティに関する研究会」注10がスタートし、今後、本格的な審議が展開される。

 自動車産業・蓄電池産業は、例えば生産設備だけでなく、「鉱物資源⇒ 電池材料⇒ 電池セル⇒ 電池パック⇒ 電動車/定置用蓄電池システム」のようなサプライチェーン全体の維持や強化も重要となる。

 世界で急速に進む、自動車の電動化へのシフトと蓄電池の増大を背景に、世界各国におけるサステナブルなサプライチェーン構築の動きや、蓄電池産業への支援や投資のあり方、各種施策などをキャッチアップし、日本の国際競争力を高め、再び世界をリードする強い産業に成長できるのか、今後の動向に注目したい。


▼ 注8
経済産業省・グリーンイノベーション基金事業、「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画、令和3年11月11日

▼ 注9
経済産業省「蓄電池産業の現状と課題について」、2021年11月18日

▼ 注10
経済産業省「第1回 蓄電池のサステナビリティに関する研究会、2022年1月21日

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