[特別レポート]

EV化と再エネ主力電源化時代、変わる蓄電池の役割

― 2030年までに車載用蓄電池の製造能力を100GWhへアップ ―
2022/03/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

次世代の車載用蓄電池の動向

〔1〕車載用「全固体LIB」のロードマップ

 次に、急速に開発が進む、次世代の車載用蓄電池の動向を見てみよう。

 図5は、NEDOが推進している、「全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクト」における車載用「全固体LIB」のロードマップ(期間は2018~2022年度)で、現在普及している液系LIB(リチウムイオン電池)から、次世代の全固体LIBへの進化を概略的に示している注6

図5 車載用「全固体LIB」のロードマップ(期間2018~2022年度)

図5 車載用「全固体LIB」のロードマップ(期間2018~2022年度)

出所 NEDO、「全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクトの第2期が始動」(2018年6月15日)をもとに一部加筆して編集部作成

 図5に示すように、大きなトレンドとして、2025年に向けて液系LIBが普及していくが、2030年に向けては、現在、世界がしのぎを削って研究開発を進めている次世代蓄電池「全固体LIB」へと進化し、これが主流になっていくと見られている。

 さらに、2030年以降には、現行のLIBより高い性能を達成できる蓄電池(ポストLIB)ともいわれる「革新型蓄電池」〔例:フッ化物電池(500Wh/kg以上)および亜鉛負極電池(200Wh/kg)などの開発が、NEDOで行われている(開発期間は2021~2025年度)注7

〔2〕液系LIBから全固体LIBへ

 図6は、現在普及している、液系LIB(リチウムイオン電池)と次世代の全固体LIBの構造を比較した図である。

図6 液系LIB(リチウムイオン電池)と全固体LIBの比較

図6 液系LIB(リチウムイオン電池)と全固体LIBの比較

イオン電導度:電気の流れやすさを示す指標で単位はS/cm(ジーメンス/cm)。
輸率(ゆりつ):Transport Number。リチウムイオン蓄電池の充放電性能は、上表の「イオン伝導率」と「Liイオン輸率」の2つの指標に影響される。輸率とは電解液に電流を流したときに特定のイオンが運ぶ電流の割合
出所 経済産業省『次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性』、2021年10月

 全固体LIBは、図6(2)に示すように、「正極と電解質、負極」のすべてを固体で構成するため、電解液がなくなり(液漏れがなくなり)、蓄電池の単位となる「セル」ごとの箱(ケース)が不要となり、積層(ラミネート)構造(重ね合わせ構造)が可能となる。

 このため、図6の下段の表に示すように、全固体LIBは液系LIBに比べて、①安全性の向上(難燃性)、②耐熱性の向上(冷却が不要)、③高エネルギー密度化(耐電圧が高い。5V以上)、④高入出力化(急速充電が可能)などの特徴を備えており、次世代の蓄電池として国際的な開発競争が激化している。


▼ 注6
同プロジェクトは、LIBTEC(技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター)がNEDOからの委託事業者として取り組んでおり、2022年度が最終年度。

▼ 注7
NEDO、「蓄電池の研究開発動向及びNEDOにおける取組について」、2022年2月9日

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