2040年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロに!
パーパスレポートでは、シスコが環境への負荷を低減し、持続可能な社会を実現するための大きな目標として、2040年までに温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ(ネットゼロ)を実現することを掲げている。
この目標はスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)注7、スコープ2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)注8以外の間接排出を含むスコープ3までを含んだものである。
図1に、シスコのパーパスレポートで公表された、2020年における同社の温室効果ガス排出量のスコープごとの内訳を示す。
図1 シスコの2020年における温室効果ガス排出量の内訳※
※ それぞれの排出源の値は四捨五入しているため、すべての排出源の値を合計しても100%にはならない点に注意。
出所 2021 Cisco Purpose Report
シスコは、「2040年までに、製品使用、オペレーション、サプライチェーンを含むすべてのスコープで、温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を公約」注9し、さらに、この長期的な目標を達成するための「意欲的な短期目標」注10として、「2025年までにスコープ1およびスコープ2全体での排出量の達成」も宣言注11している。
目標達成のための5つの戦略
シスコでは、掲げた目標を達成するために、次の5つの戦略を挙げている(図2)。
- 革新的な製品設計による製品のエネルギー効率の継続的な向上
- 再生可能エネルギーの利用促進
- ハイブリッドワークの導入
- 脱炭素ソリューションへの投資
- 事業全体へのサスティナビリティや循環経済に関する原則のさらなる浸透
図2 2040年ネットゼロへのアプローチ:シスコのパーパス
出所 サステイナブルな成長実現に向けた戦略 〜Cisco CXOシンポジウム 〜(2021年12月21日)、中川 いち朗 代表執行役員社長の開催の挨拶より
〔1〕再エネの利用促進とハイブリッドネットワーク
目標の1点目の「革新的な製品設計による製品のエネルギー効率の継続的な向上」については後述するが、パーパスレポートでは、2点目の「再生可能エネルギーの利用促進」という点において、すでに米国と欧州のいくつかの国で、100%再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用していて、2021年度には130万MWhの再エネを調達したことを公表している。
例えば、米国ノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パーク内にあるオフィス向けには、REC(Renewable Energy Certificate、再生可能エネルギー証書)を使って200GWh分の調達を行っている。また、インドでは短期と長期のPPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)を活用した結果、2015年度には2%しか利用していなかった再エネが、2021年度には66%にまで増えている点を挙げ、今後もさまざまな再エネ技術に投資していくとしている。
3点目のハイブリッドワークについては、新型コロナウイルス感染症の拡大以前と比べて、同社の従業員の通勤は20〜30%程度減ると予測しており、これがスコープ3の排出量削減に寄与するとし、現在、社員の通勤移動の削減やオフィスの見直しなどを進めている。
〔2〕シスコ財団による脱炭素ソリューション
また4点目の脱炭素ソリューションについては、「炭素除去ソリューションへの投資」(Investing in carbon removal solutions)という表現が使われ、シスコ財団が、「気候変動対策に投資するため、10年間で1億米ドル(約100億円、換算レート100円)を拠出する」としている。
シスコ財団は、NPOやNGOなどと協力し、シスコのCSRプログラムなどを実行していく組織として、1997年に設立された組織である。同財団は、2021年4月21日のプレスリリース注12において、「気候変動に対処するため、今後10年間で資金を1億米ドル(約100億円)拠出する」と発表している。
リリースによれば、この基金は大胆な気候変動対策やコミュニティの教育・活性化を支援する非営利団体への助成金、そしてインパクト投資に充てるとしている。このうち、気候変動に関するソリューションとしては、次の2つの分野を挙げている。
- ネットゼロまたは循環型・再生型経済を推進する革新的で独創的な気候変動対策
- 気候変動、環境意識、個人の習慣の変化、効果的な共同行動に関するコミュニティの教育および関与
〔3〕目標達成に向けた進捗状況
パーパスレポートでは、目標達成に向けた具体的な進捗状況が示され、すでに、
- 2022年度までに世界におけるシスコのスコープ1とスコープ2の排出量を2007年度比で60%削減
- 2022年度までに再エネ由来の電力を最低でも85%活用
- 2025年度までにバージン・プラスチック注13の利用を2018年度比で20%削減
の3つについては、レポート公表時点ですでに達成(achieved)されている。
この他、現在取り組み中(on track)のものとして、製品設計の改善による取り組みや梱包の見直し、製品や梱包に対して循環経済の原則を考慮した設計を行うこと、などが紹介されている。