シスコの5Gショーケースと5G環境を実現しているCPOC(カスタマー・プルーフ・オブ・コンセプト)のデモ環境
シスコが「5Gショーケース」(図7)の開設を発表したのが2020年11年12日(後出の写真3参照)。その後、ローカル5Gの免許取得(後出の写真4参照)や、5Gインフラ上で動くさまざまなアプリケーションやセキュリティも含むソフトウェアソリューションなども稼働し、現在ではエンドツーエンドで5G環境を整備している。
図7 新しい価値創出を加速するシスコの5Gショーケース
出所 山田 欣樹、「シスコ5Gショーケース アップデート」
写真2 山田 欣樹(やまだ よしき)氏(シスコシステムズ合同会社 情報通信産業事業統括 NTTグループシステムズエンジニアリング 本部長)
出所 編集部撮影
「コロナ禍で制限をかけた状況ではありましたが、5Gショーケースのオープン後1年余りの間、お客様およびパートナー様など、さまざまな方々に利用していただいてフィードバックをいただきながら、エンドツーエンドで今稼働できるようになっています」と、シスコシステムズ合同会社の山田 欣樹氏は語る(写真2)。
1年余りで50社以上の企業が同ショーケースを利用し、現在では15のソリューションを展示、またシスコと価値創出を進めるパートナー企業も12社にまで拡大しているという(後出の写真5を参照)。利用顧客の業界としては製造業が数としては一番多く、最近では、地方自治体からの問い合わせなども多いという。
「5G実環境を構築した5Gショーケースの通信設備群」
写真3 シスコ六本木オフィス内にある5Gショーケース
5G系ソリューションの一部を展示。実際に、5Gで使用する機器は、同オフィス内のラボスペース(カスタマー・プルーフ・オブ・コンセプト:CPOC)にデモ環境を整備している。 写真3のディスプレイ左が基地局群で、上の大きな白いBOX(JMA Wireless社製)が5G NSA注17対応の基地局(ミリ波、28G帯)、下の小さな白いBOX(Airspan Networks社製)が5G SA注18対応の基地局(Sub6、サブシックス:6GHz未満の周波数帯。日本では3.7GHz帯と4.5GHz帯が使用される)。
IoT向けソリューションデモでは、中央の大きなディスプレイ画面を使って、ローカル5Gとエッジコンピューティングを組み合わせた環境での低遅延を体感することができる。
写真6 実際の5G環境を実現しているラック群
ラボスペース(カスタマー・プルーフ・オブ・コンセプト:CPOC)にはデモ環境が整備され、顧客がシスコ製品とパートナー各社の製品との技術検証ができるようになっている。写真の7ラック分を使って、エンドツーエンドで実際とほぼ同じ5G環境を実現している(サービスプロバイダの5G設備とそこにつながっているエンタープライズの設備、すべてを実機で構成)。
奥の2ラック分は5Gサービスプロバイダ用、その隣の1ラックはオフィスLAN用で、エンタープライズ系のオフィスLAN(10G、Wi-Fiなど)を構成する製品群が稼働していて、サービスプロバイダの回線にもつながっている。
手前の2.5ラック分は、データセンター関連のラック。エンドツーエンドで自動化をコントロールするためのソフトウェア、セキュリティ系製品のほか、さまざまなソフトウェア製品がデータセンターの仮想化基盤(サーバ)上で動いている。
写真7 Silicon Oneで実現するCisco8000ルータ「8808」
写真の一番下に多く並んでいるのは、1ポートあたり400Gのイーサネットインタフェース。全部で36ポート(合計14.4Tbps)ある。Cisco 8000ルータは、「Silicon One」1チップのみで賄っているため、チップを複数搭載している機器と比べると、消費電力を圧倒的に削減している。2022年3月29日、新たにSilicon Oneを搭載したCisco Catalyst 9300X/ 9400X/ 9500X/ 9600Xシリーズのスイッチも発表された。
写真9 5G通信事業者用ラック内のオプティクス「CFP2-DCO」
今まで単独で伝送装置を設置して運用していたものを、CFP2-DCO(Digital Coherent Optics)をルータに挿入することで、同じ機能を実現することが可能になる。CFP2-DCOは、DSP(Digital Signal Processor)機能をCFP2内に搭載し、100/200Gbpsデュアルレートなどの特長をもつ。
写真10 オプティクス「CFP2-DCO」が機器に挿入されている様子(赤枠部分)
「ここでは、Cisco NCS 55A2ルータに挿入していますが、例えばCisco 8000ルータにこれを挿入して取り込むことで、圧倒的な大容量で低消費電力なルータにおいてオプティカルレイヤの機能も実現できます。これによって従来の大きさの伝送装置もいらなくなり、よりネットゼロの実現に近づくことができるので、現在さまざまなお客様に提案しています」(前出の山田氏)。
▼ 注1
サステイナブルな成長実現に向けた戦略 〜Cisco CXOシンポジウム 〜、2021年12月21日(オンライン開催)
▼ 注2
シスコシステムズ合同会社 サービスプロバイダ—アーキテクチャ事業担当 執行役員の高橋 敦(たかはし あつし)氏、同 情報通信産業事業統括 NTTグループシステムズエンジニアリング 本部長の山田 欣樹(やまだ よしき)氏のお二人に取材した。
▼ 注4
Powering a more Inclusive Future together
▼ 注5
https://www.cisco.com/c/dam/m/en_us/about/csr/esg-hub/_pdf/purpose-report-2021.pdf
▼ 注7、注8
環境省、「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ」を参照
▼ 注9、注10、注11
シスコ、2040年までに温室効果ガス排出ゼロの実現を公約
シスコ、2040年までに温室効果ガス排出ゼロの実現
▼ 注12
Cisco Commits $100 Million to Help Address Climate Crisis
▼ 注13
バージン・プラスチック:再生素材を使わずに作ったプラスチックのこと。
▼ 注14
コヒーレント技術:光波の振幅と位相の変調を利用することで、長距離・大容量伝送を効率的に実現できるようにする技術。光ファイバー・ケーブルと比べて多くの情報を伝送できる。
▼ 注15
Routed Optical Networking:シスコが提唱するIPと光伝送ネットワークを融合する概念。
▼ 注16
CAPEXはCapital Expenditureの略で設備投資を意味する。OPEXはOperating Expenseの略でオペレーションのために継続して必要となる費用を意味する。
▼ 注17
NSA:Non-Standalone、5G 基地局と 4G(LTE) 基地局を併用して構築する5Gネットワーク〔コアネットワークに、4G(LTE)コアネットワーク(EPC:Evolved Packet Core)を使用〕。4G(LTE)と5Gの併存システムともいわれる。
▼ 注18
SA:Standalone、5G 基地局と5GC(コアネットワーク)で構成する5Gネットワーク。すべて5G仕様で構成されるためスタンドアロン(単独運用)と呼ばれる。