[次世代の再エネ調達「24/7カーボンフリー電気」]

次世代の再エネ調達「24/7カーボンフリー電気」≪前編≫

― 「RE100」の次世代の再エネ調達方法が始動している ―
2022/06/12
(日)
大串 康彦 米国LO3 Energy Inc. 事業開発ディレクター(日本担当)

24/7を進める意義は

〔1〕24/7に関する5つの利点と意義

 それでは、従来の再エネ調達から一歩踏み込んで、24/7、すなわち、毎時間単位で電力消費量と再エネの供給をマッチングさせる意義はどこにあるのだろうか。国連が2022年3月18日に主催したウェビナーの中で、Googleのマーク・ケイン(Mark Caine)氏は、次の5つの利点や意義を挙げている。

 第一に、24/7は、電力システム全体の脱炭素化を他のどのアプローチよりも早く進めることができる。これは米国プリンストン大学による研究によっても示されている。すなわち、温室効果ガス排出抑制に最も貢献するアプローチという位置づけである注10

 第二に、24/7の手法によって再エネを直接契約することで、燃料価格上昇による財務リスクを緩和することができる。日本では、2021年秋から電力卸売価格の高騰が続いているが、電力卸売市場を通さずに再エネが調達できれば、このメリットも有効となる(日本では、電力卸売市場を通さずに調達できるのは非FIT再エネに限られる)。

 化石燃料の価格上昇要因としては、燃料価格上昇もあるが、炭素税などのカーボンプライシング注11政策もある。再エネを調達する需要家は、化石燃料にかけられる温室効果ガス排出に対するコストの支払いを回避することができる。

 第三に、需要家が24時間を通して再エネによる稼働を目指すことにより、定出力の再エネ、変動再エネのほか、別の再エネ・デマンドレスポンス(DR)や蓄電池などを組み合わせる結果となり、系統のレジリエンスを最小コストで向上させることができる。

 第四に、業界全体のイノベーションを促進する。24/7を実現するために、発電技術分野、システムのマネジメントからソフトウェア分野まで多様な企業が本分野に参入し、新しい技術開発が行われる。

 第五に、24/7は政策によって加速できる脱炭素化の手段であり、政策決定者と協働することにより、大きな変化をもたらす機会である。

〔2〕24/7を実施した結果の例

 実際に24/7がどのように実施され、その結果がどうなるか、事例を見てみよう。

 図4は、Googleが南米チリのデータセンターにおいて段階的に24/7を実施した結果を示している。各グラフの横軸は1年の時間軸(1月1日〜12月31日)であり、縦軸は1日の時間(深夜、午前、昼、午後、夜)である。電力消費量と再エネのマッチングは1時間ごとに行われた。

図4 24/7の段階的実施による効果(Googleのチリのデータセンターの事例)

図4 24/7の段階的実施による効果(Googleのチリのデータセンターの事例)

出所 https://www.gstatic.com/gumdrop/sustainability/247-carbon-free-energy.pdfのp11の図を一部加筆修正して著者作成

 図4の一番上のグラフが最初の段階であるが、再エネの購入契約がない段階であり、カーボンフリー電気の割合は42%である。次に真ん中のグラフだが、太陽光発電のみを電力購入契約にて調達した場合である。このとき、昼間の電力消費は再エネの供給によってまかなわれるが、夜間は化石燃料ベースの電気でまかなわれる。カーボンフリー電気の割合が42%から63%に向上する。一番下のグラフは、太陽光の契約量を増やし、さらに風力を使用した場合であるが、昼間の再エネでの割合を増やすとともに、夜間も風力でまかなえるようになり、カーボンフリー電気の割合を90%以上まで向上させた。

 このように、高いカーボンフリー電気の割合を達成しようとすると、複数の種類の再エネおよび蓄電池を用いてポートフォリオ(複数の種類の電源の組み合わせのこと)を組むことになる。太陽光発電のみの年間発電量と電力消費量の合わせ込みでは導入されることがなかった風力発電が導入されたということが、前出のケイン氏が主張している「電力システム全体の脱炭素化」ということだろう。


▼ 注10
https://acee.princeton.edu/24-7/

▼ 注11
カーボンプライシング:Carbon Pricing。温室効果ガスの排出量を削減するための施策の1つ。例えば、炭素税や排出量取引などがある。

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