2022年3月発行のEnergyTagの標準書
GCの主目的は、電気のトレーサビリティに、現実世界の再エネの実時間の発電状況を反映することである。従来の再エネ属性証書にはタイムスタンプ(作成時刻)がなく、需要家が1時間単位で再エネを調達し、証明することは不可能だった。EnergyTagはタイムスタンプ付きのGCの標準を策定し、そのマーケットを開発することにより、需要家が実時間で再エネを調達できるようにする。それによって需要家が実時間で時間単位で需要とのマッチング(一致させること)を行ったり、温室効果ガスの排出回避を行えるように特定の時間に電気を購入したりすることができる。
EnergyTagが発表したGCスキーム標準は、この実時間の再エネ調達の仕組みを標準化し、関連する事業者が仕組みを構築しやすいようにする。
EnergyTagが2022年3月に発行した資料は、次の2つである。
- EnergyTag Granular Certificate Scheme Standard Version 1注4
- EnergyTag Granular Certificate Use Case Guidelines Version 1注5
このうち(1)は、GCスキームの標準であり、GCの仕組みに関する内容が中心となっている。「EnergyTag標準に準拠」していることを主張するためには、この標準に従う必要がある。現在のところ、その策定・普及の方法はデジュール標準(公的機関が定めた標準)ではなく、デファクト標準(市場競争で認められた業界標準)と言える。
(2)のユースケースガイドラインは、あくまでガイドラインであり、遵守が必須な標準ではない。しかし、「EnergyTagのガイドラインに準拠」と主張したときには、これに従う必要がある。内容は、GCを使用したユースケースに関するものである。内容についてはVersion 1ということで、案であり、項目によっては詳細が未完成の部分もある。
EnergyTagは、2023年の前半に次のバージョンを発行する予定である。
GCスキーム標準の概要
GCスキーム標準において定義されている項目は、表1の通りである。
表1 GCスキーム標準の項目
出所 「EnergyTag Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに著者作成
以降では、表1の中で、GCスキームの基本となる箇所について解説する。
〔1〕GCスキームのプレイヤーとその役割
GCスキームのプレイヤーとその主な役割は、表2の通りである。
表2 GCスキームのプレイヤー(組織)とその主な役割
出所 EnergyTag 「Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに著者作成
まず、GCスキームは既存の再エネ属性証書のスキームを進化させたものであり、概念的には既存の再エネ属性証書の仕組みを踏襲している(図1)。
図1 GCスキームと各プレイヤーの役割
出所 EnergyTag、「Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに一部加筆・修正して作成
GCスキームは、既存の再エネ属性証書のスキームと同様、証書の登録簿(レジストリ)をもち、登録簿の中で証書の発行、移転、取消(使用済みとする処理)を行う。また、GCスキームは既存の再エネ属性証書のスキームから独立して構築するのではなく、既存の再エネ属性証書のスキームを進化させるか、これと連携させて構築する必要がある(詳細は後述)。
〔2〕GCスキームの構成
GCスキームは、(1)既存の再エネ属性証書を基にこれを進化させたもの、(2)既存の再エネ属性証書スキームと連携し、これを補完するもののいずれかの構成となる。
- 既存の再エネ属性証書のスキームを進化させたGCスキーム
GCスキーム(1)の構成とGC発行から取消に関するプロセスは、図2の通りである。 - 既存の再エネ属性証書のスキームと連携し補完するGCスキーム
GCスキーム(2)の構成とGC発行から取消に関するプロセスは、図3の通りである。
GCスキーム(2)では、既存の再エネ属性証書のスキームは従来通り運用し、GCのスキームを連携させる方式である。そのため、構成は複雑になり、ダブルカウント防止の仕組みもスキーム全体にわたり重要となる。
図2 GCスキームの構成(既存の再エネ属性証書のスキームを進化させたもの)
出所 EnergyTag、「Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに一部加筆・修正して作成
図3 GCスキームの構成(既存の再エネ属性証書のスキームと連携し、補完するもの)
出所 EnergyTag、「Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに一部加筆・修正して作成
〔3〕GCの属性情報
GCの属性情報は、発電設備のID、発電量、発電種別など従来の再エネ属性証書と重複する項目もあるが、全体としては項目が20以上に及び、多くの項目が要求されると言える。また、特徴として、発電開始時間と終了時間を表すタイムスタンプが含まれていることである。タイムスタンプは、秒の単位まで記録することが要件となっており、従来の再エネ属性証書に比べると時間に関する精度が高い。
属性情報の管理の仕方としては、GCが一度発行されたら、それが取り消されるまで、変更は不可となっている。ダブルカウントおよび複製も禁止となっている。
〔4〕GCのユースケース
「EnergyTag Granular Certificate Use Case Guidelines Version 1」では、GCの5つのユースケースを定義し、そのユースケースを実施するためのガイドラインを提供している。このうち、最も基本となるのは、実時間でのマッチング(Temporal Matching)だろう。これは、1時間または1時間以内の間隔で、発電と電力消費をマッチングさせるユースケースである。
「24/7」を実施する事業者は、このユースケースを実践することになる。これをGCを使って行うと、図4のようになる。
図4 実時間マッチング(Temporal Matching)の概念図
出所 EnergyTag、「Granular Certificate Scheme Standard Version 1」をもとに一部加筆・修正して作成
EnergyTag GC Use Case Guidelines
その他の定義されているユースケースには次のものがあるが、詳細はまだ定まっていないものが多い。
- 地域でのマッチング(Geographical Matching):規定の領域内(送配電のエリアなど)でのマッチング
- セクターカップリング注6:電気を使って生産された水素、蒸気、その他燃料の由来証明
- GCを従来の再エネ属性証書として使用
- 蓄電池の充放電
▼ 注1
再エネ属性証書:再エネで発電された電気の「再エネで発電された」という属性のみ電気と分離して取引可能とする証書で、需要家は証書を購入して証書と同量(kWh)の自身の電力消費に適用することにより、再エネを使用したことを主張できる。米国のRenewable Energy Certificate(REC)、欧州のGuarantee of Origin(GO,GoO)などがある。日本では、非化石価値証書やグリーン電力証書がある。
▼ 注2
Granular Certificate:前編で解説したように、「1時間」または「1時間より短い間隔」で再エネ属性の証明を行うための証書のこと。これは、従来の、数カ月から1年の発電期間に対して発行される再エネ属性証書の仕組みを「踏襲する、または補完するもの」である。
▼ 注3
EnergyTagのプロフィールは、2022年6月号≪前編≫の表2を参照。
▼ 注6
セクターカップリング:電気がPower-to-X(Xは水素、蒸気、熱、燃料)により別の形態のエネルギーやエネルギーキャリアに転換されること。