[[10周年記念]特集]

【事例1】インターネットイニシアティブ(IIJ)の白井データセンターキャンパス

― 再エネ100%の導入と最新鋭のハイパースケールデータセンターを目指す ―
2022/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

電気設備のコストダウンと電力損失の低減

 白井DCCでは、電気設備のコストダウンとともに電力損失の低減についても実現している。

 久保氏は、「日本のデータセンターでは、図7(1)に示すように従来の給電方式は、UPSを経由して三相3線式の交流によるものが主流でした注8。これは、コンテナ(サーバ)の電圧は100V(あるいは200V)が主流だったためです。しかし、この場合400Vで配電された電気を変圧器(トランス)で100Vに変換することになり、変換時に電力損失(ロス)が発生します。一方、欧米の場合は、200Vが使われていますので、変圧器なしで200Vをつくることができる三相4線方式注9が採用されています。白井DCCでもこの方式を採用しています〔図7(3)では230V〕。この方式だと変圧器がない(電力損失がない)ため、電力損失を最大約25%低減することができます」と語る。

図7 三相4線式+幹線バスダクト化の導入効果による効率化

図7 三相4線式+幹線バスダクト化の導入効果による効率化

※IIJでは、サーバ等のIT機器を収める箱を「ITモジュール」と呼び、その箱にコンテナ(貨物の輸送等に使用される箱)を採用していることから「コンテナ型データセンター」と呼んでいる。IT機器単位でモジュール化するメリットとして「拡張性」や「コスト削減」「陳腐化防止」に加え、既存データセンターの課題でもある「冷却効率と収容密度の向上」に対する解決策にもなっている。
出所 IIJ「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」、2022年7月28日

 続けて、「電気設備の変圧器が不要になったことに加えて、従来はこれまでコンテナへ1本1本ケーブルを引いていたものを、図7(2)に示すように、まとめてバスダクト(太い銅線のようなもの)を1本引いて、それにプラグを差して電気を取り出す仕組みにしたことによって、配線部材や配線工事のコストを、弊社の松江DCP比べて約30%低減することが可能となりました」と、データセンターのコスト削減に向けて、新しい給電方式への取り組みを語った。

階層化されるデータセンターとその役割

〔1〕進むデータセンターの地方分散化

 前述したように、データセンターは、従来型からクラウド従来型へ、さらに大規模なハイパースケールデータセンター型へと進化し、現在、関東、関西圏において50MWクラスのハイパースケールへのシフトが活発である。一方で、5GやIoTの普及によって、オンサイト(企業内)やローカル(企業の近傍)でクラウドと同様の利便性や、高度な処理を行う需要拡大に対応して、エッジコンピューティング注10へのシフトも進んでいる。

 一方、前述したように、デジタル田園都市構想のインフラとして政府がデータセンターの構築を支援していることもあり、データセンターの地方分散も促進されている。

〔2〕3階層のデータセンターとIIJのエッジ・データセンターへの対応

 このようなエッジコンピューティングの登場を背景に、データセンターは、図8に示すように、「①ハイパースケールデータセンター、②エッジ・ローカルデータセンター(ユーザー企業の近傍に設置)、③エッジ・オンサイトデータセンター(ユーザー企業内に設置)」と、3階層に階層化され、今後、各階層のデータセンターが役割を分担し、補完しあって新しい市場を形成していくと見られている。

図8 階層化されるデータセンターの市場トレンドとIIJの対応

図8 階層化されるデータセンターの市場トレンドとIIJの対応

MEC:Multi-access Edge Computing、ETSI(欧州電気通信標準化機構)で標準化された、ローカル5G端末やWi-Fi機器、IoT機器などからの複数のアクセス(マルチアクセス)を考慮した、エッジコンピューティングの規格の1つ
出所 IIJ「データセンター市場の展望とIIJの取り組み」、2022年9月16日

 このような市場動向に対して、久保氏は、「IIJとしては、ハイパースケールは2023年7月に稼働する予定の白井2期棟と、さらに検討中の白井3期棟が対応しています。エッジ・ローカルデータセンターには2022年6月に、松江DCPが地方分散補助金に採択注11されましたのでこれを取り組み、エッジ・オンサイトデータセンターは、2021年11月にDX edgeを発表注12し、すでに提供を開始しています」と、IIJの対応を述べた。

〔3〕エッジデータセンターソリューション「DX edge」

 白井DCCの敷地内には、図9に示す、マイクロデータセンター(MDC)「DX edge」(オーストラリアのZella DC社製)を屋外に設置し、エッジコンピューティング基盤として実用化するための技術検証を行う実証実験(2021年10月開始)を行ってきたが、2021年11月から同製品の市場提供を開始した。

図9 白井データセンターキャンパスにおけるマイクロデータセンター(屋外型)

図9 白井データセンターキャンパスにおけるマイクロデータセンター(屋外型)

出所 写真はIIJ提供、右図は以下を参照
https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2021/1004.html

 図9に示すように、マイクロデータセンターは、サーバおよびサーバ冷却用空調ユニット、UPS、物理セキュリティなどデータセンターに必要な機能を備えた小型(高さ1〜2m程度)のデータセンターである(屋内設置型と屋外設置型がある)。

 なお、白井DCCには、5GモバイルやWi-Fi、クラウド、マイクロデータセンターなどが展示され、IIJが提供している各種サービスを組み合わせた、エッジコンピューティング環境を体感できる「ショーケース」が新設され、2022年3月から顧客向けに公開している。


▼ 注8
データセンターでは停電対策として、商用電源はいったんUPS(無停電電源装置)を介してから電源供給を行っている。

▼ 注9
IIJ「三相4線方式を使った配電方式

▼ 注10
エッジコンピューティング:企業ユーザーのIoT機器などのエッジデバイスそのものや、その近くに設置したサーバでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念。

▼ 注11
総務省「令和3(2021)年度補正予算『データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱化事業』に係る基金設置法人による間接補助事業者の採択」令和4(2022)年6月27日

▼ 注12
IIJ、エッジデータセンターソリューションDX edgeを提供開始」、2021年11月24日

IIJ、白井データセンターキャンパスにマイクロデータセンターを導入しエッジコンピューティング環境の実証実験を開始」、2021年10月4日

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