[クローズアップ]

「危機の時代における低炭素イノベーション」をテーマに「ICEF 2022 第9回年次総会」が開催!

― 「低炭素アンモニア」「ブルーカーボン」の新ロードマップを発表 ―
2022/11/13
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

2022年9月26日から10月7日まで、経済産業省は「東京GXウィーク」(注1)を実施した。その一環として、国際会議「Innovation for Cool Earth Forum 第9回年次総会(ICEF 2022)」が10月5、6日の2日間に渡って、ホテル椿山荘東京(東京都文京区)で開催された(写真1)。今年のテーマは、「Low-Carbon Innovation in a Time of Crises、危機の時代における低炭素イノベーション」であった(注2)。
会期中は、豪華なゲストによるキーノートセッションや気候変動対策関連の技術に関して、様々なスピーカーからのプレゼンテーションや意見交換がなされたテクノロジーセッションなど、カーボンニュートラル達成やエネルギー安全保障の観点から、重要な議論が行われた。本記事では、ICEFのプロフィールや今回のプログラムを紹介したうえで、特に注目すべきセッションの内容の紹介や、閉会式で紹介されたステートメントなどを取り上げる。

ICEFのプロフィール

写真1 ICEF 2022 第9回年次総会のパネル

写真1 ICEF 2022 第9回年次総会のパネル

出所 編集部撮影

 2022年10月5日から6日かけてICEF 2022が開催された。

 ICEF(アイセフ)とは、Innovation for Cool Earth Forum(クールアース・イノベーションフォーラム)の略称で、世界の産学官のリーダーが集い、地球温暖化対策の鍵を握る技術革新について議論する国際会議である。同会議は、経済産業省およびNEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)によって開催されている。

 ICEFは、元IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)事務局長である田中伸男氏が委員長を務めており、日本からは黒田玲子氏(中部大学先端研究センター特任教授)や山地憲治氏〔公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長〕が委員に名を連ねている。海外からも米国をはじめとして、欧州各国や中国、インド、韓国、南アフリカなど、様々な国出身のメンバーで委員が構成されている点が特徴である。

ICEF 2022におけるセッション&サイドイベント

 このICEFは、2014年から年次総会が開催されており、ICEF 2022は第9回年次総会と位置づけられた。ICEF 2022は、3年ぶりとなる対面形式での会合をホテル椿山荘東京において実施すると同時に、オンラインからも参加できるようになっており、87の国・地域の政府、国際機関、産業界、学会から約1,600名の参加があった。なお、今年のICEFは経済産業省が実施する「東京GXウィーク」の一環で開催されている。

 今年のICEFは、開会式と閉会式以外に4つのキーノートセッション、3つのプレナリーセッション注3、5つのテクノロジーセッション、そして6つのサイドイベントが開催された(表1)。

表1 ICEF 2022セッション一覧(10月5日〜10月6日)

表1 ICEF 2022セッション一覧(10月5日〜10月6日)

※1 International Energy Agency、国際エネルギー機関
※2 United Nations Industrial Development Organization、国際連合工業開発機関
※3 International Renewable Energy Agency、国際再生可能エネルギー機関
※4 CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される合成燃料のうち、再生可能エネルギー由来の水素を用いたものをe-fuelと呼ぶ。
※5 CO2(二酸化炭素)と再生可能エネルギー由来のH2(水素)を合成して製造するメタンをe-methaneと呼ぶ。
※6 Direct Air Capture and Utilizationの略で、大気からのCO2回収から炭素燃料変換までを一貫して行うシステムのこと。
出所 https://www.icef.go.jp/jp/program/

 どのセッションも示唆に富むものであったが、ここからはその中でも特に注目すべきセッションを取り上げ、その概要を紹介する。

IEA事務局長ファティ・ビロル氏によるキーノートセッション

 ICEF 2022初日(10月5日)の最初のキーノートセッションは、IEAのファティ・ビロル(Fatih Birol)事務局長と田中伸男ICEF運営委員長による対談であり、事前にオンラインで録画されたものを放映する形で行われた(写真2)。

写真2 IEAファティ・ビロル事務局長とICEF田中伸男運営委員長による対談

写真2 IEAファティ・ビロル事務局長とICEF田中伸男運営委員長による対談

出所 (左)編集部撮影、(右)https://www.youtube.com/watch?v=q4glcZsnqjg

 ファティ・ビロル氏は、対談冒頭で現在の状況を「今は、世界初の真のエネルギー危機の真っただ中にいる」と述べた。70年代に起きたエネルギー危機との違いは、現在のエネルギー危機は対象が石油、ガス、石炭、電力と幅広い分野に及んでいるうえに、全世界に広がっている点である、と指摘した。

 一方で、このような時期における各国の取り組みとして、米国で2022年8月16日に成立した「インフレ抑制法」(The Inflation Reduction Act of 2022)注4などを例に挙げ、今のこの状況を「クリーンエネルギー技術とイノベーションを加速させる、エネルギーの歴史における転換点になるかもしれない」とも述べた。

 さらに、今後のクリーンエネルギーの転換に際しては、リチウムやコバルトといった重要鉱物資源の安定供給が重要になってくるとして、IEAが2021年に公表した重要鉱物資源に関するレポート注5にも触れ、「IEA加盟国に対して国内の重要鉱物資源に注目し、その生産能力を高めるよう助言している」とも述べている。


▼ 注1
東京GXウィーク」とは、クリーンエネルギー中心の経済・社会、産業構造への転換を目指しながら、その取り組みを経済の成長・発展につなげるというGX(Green Transformation、グリーントランスフォーメーション)の実現を目指すための様々なテーマを議論するもので、2022年9月26日から10月7日までの期間で開催された。ICEFの他、水素閣僚会議2022や第2回アジアCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)ネットワークフォーラム、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)サミット2022など、合計10会議がこの期間に開催されている。

▼ 注2
ICEF 2022プログラム

▼ 注3
プレナリーとは「全員出席の」を意味する。今回のICEFではキーノートセッションやテクノロジーセッションなどのメインセッションと同時間帯にサイドイベントが開催されていたが、プレナリーセッションの時間帯は、サイドイベントは開催されていなかった。

▼ 注4
金額総投資額4,370億ドル(約59兆4,320億円)のうち、3,690億ドル(約50兆1,840億円)を「エネルギー安全保障および気候変動」分野に投資するという法律。詳しくは、弊誌2022年9月号のクローズアップ記事を参照。

▼ 注5
The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions - Analysis - IEA

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