[創刊10周年記念:座談会]

電力・エネルギー危機で、持続可能なエネルギーをどう選択・構築していくか!【後編】

― 脱炭素への短期/中期/長期的なエネルギー政策の行方 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2050年へのトランジションとレベニューキャップ制度のスタート

〔1〕重要なことは2050年へのトランジション(移行)方法

江﨑:辻さんから、次世代の電力システムついて、新しい動きがまとめて報告されましたが、浅野さん、何かご意見ありますか?

浅野:はい。ここ2~3年は、いったんコロナ禍で電力需要が減りましたが、同時に働き方改革も進み、人の行動も社会の構造も変わってきています。しかし、どのように電力需要が変わったのかということを、誰かが分析して把握しているかというと疑問です。さらに、今後、高齢者がどういう行動をとるのか、若者がどういうところに住むのかなど、あらゆる行動様式や選択肢が変わっていくはずなのです。そのようなことを反映させて、2050年カーボンニュートラルを実現する時点の電力の需要構造を把握しているかどうか、誰も答えられないのです。

 先ほど、辻さんから秋元氏の2050年における発電電力量のシナリオ(前出の図1)が紹介されましたが、ここでは政府の審議会で行き着いた先の電源構成の話が7つにまとめられて整理されています。しかし、ここで重要なことは、2050年へどう移行していくか(トランジション)が大事なのです。2030年代、2040年代に火力発電や原子力発電をどのように維持して、例えば火力発電の価値をどのように評価するかというところが、政策的にも明確になっていないので、この点については考えていく必要があります。

 これまでにもお話が出た、再エネや蓄電池などのDER(分散型エネルギー資源)は、幸い最近急にコストが安くなり、世界中で普及し始めています。このような動きを反映して、近年、電力会社が、そのようなDERを自家消費だけでなくて、電力系統のネットワークに組み入れて、系統と一緒に運用しようという動きになってきました。電力システム側のアーキテクチャを変えようと準備していると聞いて、私は心強く思っています。

〔2〕2023年度から「レベニューキャップ制度」がスタート

浅野:一方、今の話を料金制度絡みの面から見ると、2023年度(2023年4月1日)から図3に示すような、レベニューキャップ注7制度が開始される予定で、今査定が始まっている最中です。

図3 レベニューキャップ制度の仕組み

図3 レベニューキャップ制度の仕組み

出所 経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会、「料金制度専門会合中間取りまとめ」、2021 年11月

 この制度は一般送配電事業者が、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)を実現するために、①電力系統の再エネ電源のホスティングキャパシティ(接続容量)を上げることや、②「上げDR」や「下げDR」をシステムで運用できるようにすることなど、次世代への投資をしている面を積極的に評価して、レベニューキャップにおけるインセンティブを監視等委員会が認めて、電力の託送料金注8に反映させる仕組みです。

 これによって、一般送配電事業者は、最終的には、システム等の機器やソフトをベンダに発注し、必要なところに投資が回ることになるので、規制当局にはぜひ実現させてほしいと思います。

〔3〕重要なセクターカップリング(部門間の連携)

浅野:国全体でCO2を減らすには、電力部門(電力セクター)だけでなく、交通部門などとのセクターカップリング(部門間の連携)によってCO2を削減することも重要です。例えば、再エネの余剰電力で水素ガスを作る(P2G:Power to Gas)、海外からアンモニアをもってくるなど、あらゆる手段を使って、カーボンニュートラルを実現していきましょうということです。

発電計画:①自由化前、②自由化後、③新市場

江﨑:ありがとうございました。レベニューキャップ制度が軌道に乗って、カーボンニュートラルを推進してくれると嬉しいですね。ところで澤さんの取り組まれている内容について、ご説明いただけますか。

:はい。私は、次の3つ課題に最近取り組んでいます。

  1. 電力システムの心臓部でもある、発電計画について新しい市場が提起されていること(後述)。
  2. これまで私が取り組んできた、中央給電指令所(中給。旧10電力会社に1カ所ずつある)の仕様を統一することが検討されていること。現状では、電力会社によって、発電所に指令する方式(制御方式)が異なっているので、その仕様を統一することによって、一般企業(例:ガス会社など)がもっている電源も中給から制御できるようにすれば、オンラインで調整力を増やすことが可能となること。
  3. 送変電設備の状態を常に監視し気象情報を活用して、送電線に流れる電流容量を現地の状況に合わせて変化させて運用する技術「ダイナミックラインレイティング」(DLR:Dynamic Line Rating)を開発することによって、再エネが抑制される量を低減できるようにすることも可能になること。

 そこで、先ほど、辻さんが話された発電計画における「Three-Part Offer」について、歴史的な経緯も含め、図4をもとに簡単にご紹介します。

図4 発電計画の推移:自由化前、自由化後(現在)、新市場(2016年度以降)

図4 発電計画の推移:自由化前、自由化後(現在)、新市場(2016年度以降)

UC:Unit Commitment(発電機の起動停止計画)
出所 澤、「インプレスSmartGridニューズレター座談会」、2022年8月3日

〔1〕電力市場の自由化前

:電力市場の自由化前は、各電力会社(旧10電力会社)が各担当エリアの中の需要量(kWh)と予備力(kW)を考慮し最適化していました。その前提としては、自社の発電機の起動・停止計画(UC:Unit Commitment)を作成して、コスト最小化を実現していました。具体的には、図4左の需給計画フローに示すように、まず、需要の想定計算を行い、火力の運用計画と揚水の運用計画を最適化して、発電コストの最小化を行ってきました。

〔2〕自由化後(電力システム改革まで)

:図4の中央に示す自由化後は、基本的には自由化に伴って新規に登場した多数の発電事業者を含めて、各社が所有する発電機のUC(起動停止計画)を作成し、利益最大化を目指す形でJEPX(日本卸電力取引所)に入札し、約定(契約が成立)すると、発電事業者はその電気の販売計画を30分ごとに広域機関に提出することになりました。

〔3〕新市場〔平成28年度(2016年):電力システム改革以降〕

:図4の右側に示す、2016年(平成28年度)以降は、電力システム改革によって、小売全面自由化が進められ、新しくいろいろな市場が誕生しました。

 その後、資源エネルギー庁は、前述した「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」などで、卸電力市場(kWh)と需給調整市場(ΔkW)を統合した、新市場を提起しています。新市場では、メリットオーダーを追求し、複数のエリアで、UCの最適化を目指しています。

 図4右には、複数のエリアに電源A、電源B、電源Cがあり、それぞれThree-Part Offer〔①ユニット(発電機)起動費、②最低出力コスト、③限界費用カーブ〕で最適化を図ろうとしています。いろいろ課題があると思いますが、新しい市場の誕生に、私は期待しています。

江﨑:ありがとうございました。2050年カーボンニュートラルのイメージが少し見えてきましたが、その前に取り組むべき課題が多いこともわかりました。

 一方で、新しいエネルギーとして、最近、水素ガスの活用に関する話題やバイオマス発電などの取り組みも活発化していますので、それらについて見ていきたいと思います。


▼ 注7
レベニューキャップ(Revenue Cap):収入上限という意味。図3に示すように、一般送配電事業者が、国の策定する指針に基づいて一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画を策定する。その事業計画の実施に必要な費用を見積もって収入の上限を算定し、国に提出して審査を受ける。
国から承認を受ければ、収入上限の範囲内で託送料金が設定される。

▼ 注8
託送料金:一般送配電事業者が設定する送配電網の利用料金。小売電気事業者あるいは既存の大手電力会社の小売部門が電気を送る際の利用料として支払う。

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