[急展開するエネルギー分野のブロックチェーン]

急展開するエネルギー分野のブロックチェーン

— 第3回 ブロックチェーン技術は再エネの大量導入に役立つのか? —
2018/08/01
(水)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

「ブロックチェーン(注1)技術は果たして再エネの大量導入に役立つのか?」というのは、おそらく多くの人の関心事であると推測するが、難しい問いである。なぜなら、ブロックチェーン技術は情報技術であり、発電所立地の制約、送電容量不足、余剰電力の発生(下げ代不足/注2)など、物理的な側面を多く含む再エネの大量普及に向けた課題は、直接的に、かつ単独では解決しないように見えるからである。
一方、本誌2018年4月号第1回の記事で列記した、世界中のエネルギー分野でブロックチェーンを使ったプロジェクトを見ると、再エネと関連しているものが多い。同6月号第2回で解説した電力取引プラットフォームは、主に太陽光発電の余剰電力を取引するものであるし、それ以外にも再エネ由来の電力の仮想通貨(SolarCoinなど)、再エネ電源トラッキング(みんな電力)、蓄電池を使った再エネ出力抑制緩和(Sonnen/TenneT)など、多くの事例が再エネと関連している。したがって、ブロックチェーンが再エネの普及にまったく役に立たないと言い切るのも難しい。
今回は、上記の問いについて探求するとともに、再エネ資金調達/投資プラットフォームの事例を紹介する。

再エネ大量普及に向けた課題

 近年、海外では風力発電や太陽光発電が、従来の火力発電や水力発電などの電源に匹敵する、またはそれを下回る価格で入札されるようになり注3、再エネがコスト競争力をもって主力電源として使える時代の兆しが見えてきた。

 経済産業省は「再エネを大量導入し、主力電源化することは不可欠」と明言し注4、2018年7月に発表された「第5次エネルギー基本計画注5」でも、再エネの主力電源化に向けた取り組みにページを割いている。また環境省も、2018年3月に発表した「再エネ加速化・最大化促進プログラム2018」注6で、再エネを日本の主力エネルギー源にするための地域の取り組みを中心とした施策をまとめている。再エネの主力電源化は、ここ日本でも明らかな方向性だ。

 日本で再エネを主力電源化するためには、再エネそのものの発電コストを低減し、事業環境やビジネスモデルを整備・構築していくこと、そして大量の再エネを接続し、運用できる電力ネットワークを構築することが必要となる。再エネの大量導入に向けたこれらの課題および対応策を、図1に整理して示す。

ブロックチェーンが貢献できる領域

 それではブロックチェーン技術は、これらの課題の克服にどう貢献できるのだろうか。 現在確認できる事例から考えると、おそらく最も関連するところは、FIT(再エネの固定価格買取制度)から自立したビジネスモデルの構築(図1中の赤字で示した部分)ではないだろうか。

 電力取引プラットフォームを使ったP2P取引、再エネ由来の電力ベースの仮想通貨、再エネ電源のトラッキング注7などは、再エネ由来の電気に新たな価値を付与したり、その価値を増大したりすることによってインセンティブを創り出し、FITなどの導入支援策に頼らない再エネの導入やビジネスの運営を推進するものだ。

 また、ブロックチェーン技術が、システムの一端として調整力の確保(図1中の青字)に貢献する可能性もある。

 例えば、エレクトロン(Electron、英国)が、シーメンス(Siemens、ドイツ)やナショナルグリッド(National Grid、英国の送電会社)およびその他9社のコンソーシアム参加会社と検討を進めているのは、フレキシビリティ注8の取引プラットフォームである。

 従来であれば、第三者機関が中央管理的に行う複数の組織間のフレキシビリティ取引に関わる調整を、ルールを統一し合意したうえで非中央集権的に行い、コストを削減しようという仕組みである注9。冒頭で述べたドイツのゾネン(Sonnen)およびテネット(TenneT)の再エネ出力抑制の緩和注10も、調整力の部類に入るだろう。

 長期的には、分散型の変動する再エネが増え、トランザクティブエネルギー注11による系統運用および電力取引が主流になれば、ブロックチェーン技術は取引記録および決済の実現方法として優位性をもつかもしれない注12。ただし、このためには市場のルールを変える必要があり、多くの議論や実験が必要となるだろう(トランザクティブエネルギーは、図1の枠組みでは事業環境整備、系統制約克服、調整力の確保に関わると考える)。これらに限らず、取引が発生するところや不正改ざんなく記録保存を行うニーズがあるところでは、ブロックチェーンが貢献できる可能性がある。


▼ 注1
本来は「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」を指すところであるが、「DLT」と「ブロックチェーン」という用語は区別せず、ここでは前回同様、「ブロックチェーン」に統一する。

▼ 注2
下げ代不足(さげしろぶそく):例えば火力発電の場合、運転を継続するために発電出力を一定値以下にすることができない。このように、火力発電で発電出力を調整できる範囲は限られているが、この調整できる範囲は「下げ代」と呼ばれている。また、太陽光発電や風力発電等の再エネを大量に導入し、需要が小さい場合には、火力発電の出力を調整しても供給力に余剰が発生する(下げ代が小さいため)可能性があるが、このようなケースは、「下げ代不足」と呼ばれる

▼ 注3
例えば、http://www.irena.org/newsroom/pressreleases/2018/Jan/Onshore-Wind-Power-Now-as-Affordable-as-Any-Other-Source

▼ 注4
http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/shuryokudengen.html

▼ 注5
http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001.html

▼ 注6
https://www.env.go.jp/press/105221.html

▼ 注7
トラッキング:電源の由来を特定し、需要家が特定の電源由来の電気を消費したことを確認できる仕組み。

▼ 注8
広義には、電力システムが需給の変動に応答する能力とされるが、狭義には、発電設備および需要が数分から数時間の時間軸で増減できる範囲とされる。エレクトロンが対象とするフレキシビリティがどちらかは不明。
https://webstore.iea.org/download/direct/1041?fileName=Status_of_Power_System_ransformation_2018.pdf 18ページ

▼ 注9
https://www.greentechmedia.com/articles/read/how-peer-to-peer-energy-tra...

▼ 注10
https://www.youtube.com/watch?v=pee0kixUN2Q

▼ 注11
Gridwise Transactive Energy Framework Version 1.0によると、「価格シグナルで表現される価値を鍵となる運用パラメータとして用い、電力システム全体の動的な需給バランスを達成する経済最適および制御メカニズムが備わったシステム」(著者意訳)と定義されている。

▼ 注12
Gridwise Transactive Energy Framework Version 1.0では、トランザクティブエネルギーの枠組みの提案の背景として、多くの太陽光や風力のような変動再エネが系統に接続されると、従来の計画経済的な系統運用方法では困難であることを挙げている。

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