ブロックチェーン技術のポイント
〔1〕エネルギー分野でのポイント
エネルギー分野でのブロックチェーンのビジネスを考えるにあたっては、ブロックチェーン技術に関して以下のポイントを押さえることにより、よりよい理解につながると考えられる。
- ブロックチェーン注1は分散型台帳技術の一種と考えられ、図1にそれぞれの特徴と両者の関係を示す。なお、本連載では便宜的に「ブロックチェーン」に統一していたが、本記事中は以後必要に応じて区別する。
- 分散型台帳技術(ブロックチェーンも含む、以下同)の主な特徴は、
①暗号化技術を駆使した、データの改ざん検出が容易なデータ構造をもっていること
②データをコンピュータ・ネットワーク上に分散保持していること
③参加者がお互いに合意することでデータの正当性を保証していること
などである。 - ビットコイン(仮想通貨)に代表される「パブリック型ブロックチェーン」では、悪意のある参加者を含め誰でも参加可能である。一方の「プライベート/コンソーシアム型」の分散型台帳技術では、管理者が信頼できると判断し許可した参加者のみが参加できる。
エネルギー分野での応用では後者を適用する可能性もある。または1つのシステムの中でブロックチェーンと分散型台帳技術の両者を、それぞれ別の機能レイヤ(例えばプラットフォームレイヤとアプリケーションレイヤ)に適用する可能性もある。 - ブロックチェーンと分散型台帳技術は区別すべきであり、これを混同すると混乱が起こりやすい。例えば、「マイニング注2による電力消費が大きい」「管理者がいない」「効率が悪い(承認が遅い)」などのブロックチェーンの特徴が、すべての分散型台帳技術の特徴であるかのように考えるのは誤りである。
- ブロックチェーンは低コストであるという主張がよくあるが、これにも注意が必要である注3。ビットコインなど仮想通貨の送金手数料が低いのは、運用コスト〔ノード(ネットワークに参加するコンピュータ)の構築費用、電気代など〕が低いためではない。ブロックチェーンの運用は、新規の仮想通貨の発行による報酬で賄われているところが大きく、運用コストの大部分がユーザーに転嫁されない仕組みになっているためと考えられる。
図1 分散型台帳とブロックチェーンの分類および特徴
出所 杉井靖典、「いちばんやさしいブロックチェーンの教本」(インプレス刊)、翁百合他、「ブロックチェーンの未来」(日本経済新聞出版社刊)をもとに著者作成※
※ブロックチェーンは主にパブリック型と書いたが、例外として「Orb1」「miyabi」などがある。
また、分散システムであるために、中央集中型で必要とされていた強固なセキュリティやバックアップが不要になるため安価になる、との主張もある。しかし、プライベート/コンソーシアム型を使用する場合、ノードの構築とその運用費用は自前で賄う必要があるため、必ずしも低コストにはならないと考えられる。さらに計測機器、通信機器、付随するアプリケーションの開発も必要なときは、それらのコストも評価に含めるべきである。
〔2〕エネルギー分野での活用のメリット
分散型台帳技術をエネルギー分野で活用するときのメリットとしては、次のことが考えられる。
- 取引記録の不正改ざんができないため、取引の正当性を確認・検証できる。
- 記録されたデータの存在を否認することができない。
- 分散システムであることから、単一障害点がなく(処理が1カ所に集中していないため)、高可用性のシステム(停止が非常に少ないシステム)を構築できる。
- 特定の組織(や個人)を信頼の基点とせず、記録の保存や価値の交換ができる。ただし、参加者間の合意の方法によっては特定のノードに信頼が寄ることはある。
- 量(例えば電力量:kWh)と同時に属性(例えば電力取引の際の電源の種類や発電地点など)も記録し、取引に含めることができる。
▼ 注1
統一された定義はない。例えば日本ブロックチェーン協会が作成・公開している定義は以下のサイトで閲覧できる。
http://jba-web.jp/
▼ 注2
マイニング:多大な計算パワーを用いるProof of Work方式などによる取引の承認作業。報酬として新規に発行された通貨が付与されるため「採掘」と呼ばれる。
▼ 注3
著者の公開記事でも解説。