[創刊10周年記念:座談会]

電力・エネルギー危機で、持続可能なエネルギーをどう選択・構築していくか!【前編】

― 脱炭素への短期/中期/長期的なエネルギー政策の行方 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

VPPの環境における蓄電池の普及と課題

〔1〕8千台の蓄電池のVPP環境で実証中

江﨑:齋藤さんのおっしゃったことを解決するには、現場の声として、構成部品や装置、実際のゲートウェイの数などの数字が欲しいですね。具体的な数値があると議論や政府の予算がつけやすくなります。ぜひ、インプレスさんには、具体的な数値を掲載した記事をまとめていただきたいですね。では、類家さん、関連してご意見はありませんか?

類家:当社はNTTグループでアグリケーターを行っていますが、特に住宅やスモールオフィスなど小型の法人を中心にビジネスを展開しています。現在、アグリケーターとして、住宅やスモールオフィスに蓄電池を約8千台設置し、VPP環境でそれらコントロールをしていますが、蓄電池を普及させていく中で、2つ課題があります。

 1つ目は、日本国内の低圧用の蓄電池の販売チャネルは、大きく新築住宅向けと既築住宅向けに別れていて、新築時に蓄電池(と太陽光)を購入したり、PPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)で蓄電池を設置できるサービスなどは、まだ完全に普及しているとはいえません。このため、既築住宅に住まわれている方が蓄電池を購入する場合は、地域の工事店やリフォーム会社を自分で探したり選んだりする必要があり、購入までの情報収集のハードルが少し上がります。

 また、商品の特性上(原材料価格、流通段階でのコスト増など)どうしても値段が高くなってしまい、蓄電池の購入を躊躇されるケースもあるかと思います。

〔2〕ECHONET LiteとIoTゲートウェイの開発

類家:2つ目は、ECHONET Lite注27についてです。基本的には、ECHONET Liteによって、通信品質が担保されるため、すばらしい仕組みですし、うまく作られていると思います。

 しかし、各メーカーの対応状況には多少のばらつきがあり、各社の微妙な解釈の違いなどによる仕様の差分を埋めて、安全に相互接続ができように、IoTゲートウェイを開発していくことに苦労しているアグリゲーターも多いのではないかと思います。

 また、各メーカーの仕様変更も頻繁に発生しますが、わずかな変更であっても相互接続ができなくなることもありますので、接続機器の維持管理にも気を配っています。

 さらに、蓄電池メーカーによって、充放電サイクル回数などの保証規定の考え方が異なるため、蓄電池の寿命と制御頻度については、各社との協議が必要となります。

 このため、現在、当社で8千台近い蓄電池とつながっていても、実際にアクティブに常時動かせる蓄電池は、どうしても少なくなってしまいます。昨今の電力ひっ迫状況に対して、分散型の小型蓄電池で系統の安定化に貢献していくためにも、このような環境が改善されるよう期待しています。

〔3〕蓄電池やエアコンなどにも課題が

平松:私の場合、今、類家さんからお話のあった、蓄電池とECHONET Liteの両方にかかわっています。蓄電池に関しては新しい普及期を迎え、今までになかったいくつか新しい課題もでてきています。

 例えば、蓄電池の寿命サイクル数の件では、蓄電池を作っている部署と蓄電池を使う部署の間で、製品保証の責任について、製造部署ではなく使用する部署が担当すべきというように、本来の蓄電池をつくっている部署から製品保証の責任がシフトしてしまうような食い違いが発生しています。

 また、ECHONET Liteについても苦労していまして、例えば、エアコンでは設定値を書き換えると、エアコン内に搭載されているアルゴリズム(処理手順)によって自動的に動作が変わる場合があります(例えば、エアコンに「自動」や「風量自動設定」などのモードがあり、温度設定値や風量設定値が変更されます。この動作はメーカーによって異なります注28)。

 さらに、各社がホワイトリストを公開しています。これは、JEMAガイドライン(JEMA:一般社団法人 日本電機工業会)に基づいて相互接続接続品質を担保する取り決めや、相互接続時の市場対応などをメーカー間で検討しています注29。システムを構築する方には,個別の機器の動作や相互接続の点でわかりにくいところがあるかもしれませんので、さらに周知を図る取り組みが必要だと思います。

〔4〕標準仕様と個別仕様のジレンマ

田邊:私も、メーカーの立場から、先ほど話題に上ったIEC 61850も含めたオープン化について発言します。

 標準化については、お客様(例:電力会社)からIEC 61850標準を搭載することが求められると同時に、お客様の個別仕様も搭載することを求められることもあります。その結果、複雑化してしまって使えないケースが結構多いのです。そこで、できるだけ、標準化された機能で収まる範囲で使用していただくように交渉しています。

 しかし、このようなことはメーカーの立場からすると、「個別仕様であったほうが、顧客を囲い込みできる」という観点から考えてしまう傾向もあります。これは悩ましいところですが、この辺は改善していく必要があります。

 また、先ほどのERABの話がありましたが、ERABの場合、システムを構築する際に「標準化すべきところ」と「競争領域のところ」を区分けしています。競争領域というのは、メーカーが囲い込みできる余力を残しておくという観点なのですが、結局、長期的に見ると、それが問題になってきているように思います。メーカーからすると、標準化といいつつ、その中で囲い込みの部分を残していくことになります。これは、当面のビジネスを最優先してしまうことです。このジレンマは、長期的に見ると、オープン化のすばらしさをあまり考えないで、ビジネスを展開し続けてしまいがちな傾向に原因があると感じています。

江﨑:すると、現状は、顧客とベンダの双方で、オープン化や標準化への取り組みを阻害している環境となっているということですね。

田邊:そうですね。IEC標準なども、究極はユーザーの利便性の向上に役立つことを目指して作られているはずなのです。しかし、日本の現状を見ると、標準化戦略というと、製品をうまく販売していくために標準技術を前面に押し出しながら、個別仕様を組み込んで製品を作っていこうというような議論になりがちなのです。その辺は、一見、企業側からすると正しいようにも見えてしまうので、本気でオープン化や標準化をしていく議論になかなかならない面があるのです。ですから、この辺の思考回路を変えていく必要があると思っています。

〔5〕NTT:大量の蓄電池をERABビジネスに使う!

江﨑:この標準化やオープン化について、政府は、国策として日本の産業を守るとか、産業を保護しなくてはいけないという強いロジックがあるので、そのようなロジックが反映しているところもあると思います。この辺の取り組みについて、経験豊富なNTTの杉田さんはいかがでしょうか。

杉田:以前、NTTファシリティーズ(NTTグループの建築および通信用電力を担う会社)にいたときに、政府が推進するVPP構築実証事業(2016~2020年度)に参加して、再エネの有効活用などに取り組んできました。

 その仕事を、NTTアノードエナジー(NTTグループのグリーン発電事業や地域グリッド事業を担当する会社。設立:2019年6月)に移すときに、継続しにくかった。その理由は、VPPやそれらをビジネスとして展開するERABのようなテーマは、電力会社の人しか理解できないことがたくさんあるので、そのときの状況では将来の事業化まで見通すことが困難だと感じたからでした。

 現在もNTTでは、通信局舎(電話交換機や蓄電池設備などが設置されている通信ビル)を含め、様々な場所に設置される蓄電池を、ERABのようなビジネスに使うことは引き続き考えていますが、現状分析も含め、明解な見通しを得られたとはいいにくい状況です。

 今回の座談会のテーマである需給ひっ迫に関しても、例えば、2022年6月末の需給ひっ迫の時も、国民に「需給ひっ迫注意報」などの発令で呼びかけずに、もう少し正確な状況を共有し電力を調整できる環境ができていれば、調整できる人にだけターゲットを絞って呼びかける対応のほうが良かったのではないか。日本全体として危機感をあおらないほうがよかったのではないか、と思ったりもしましたが、そのあたりはどうなのでしょうか。

〔6〕重要なことは費用対効果の問題

浅野:先ほど私がいいたかったことは、技術は活用できる状態にある、しかし、要するに費用対効果がないことが問題なのです。

 例えば、ガスを買ってきて火力発電を焚いて発電する場合のコスト、あるいはNTTファシリティーズがVPP事業で、「上げDR」や「下げDR」を行うときに、「kWh(電力量)当たりいくらの費用でできるか」「kW(供給力)当たりいくらでできるか」「ΔkW(デルタキロワット、調整力)はいくらでできるか」というコスト、そこだけの問題なのです(図6)。

図6 DRによる発電コストの削減効果(電力市場価格の低下)

図6 DRによる発電コストの削減効果(電力市場価格の低下)

出所 浅野、「インプレスSmartGridニューズレター座談会」、2022年8月3日

 要は、先述した需給調整契約の場合は、火力発電を焚き増し(発電量を増やす)するよりも、安く電力の需給調整ができるのです。それを、蓄電池を使ってまで行うかといわれると、系統事業者の立場からすると、安くなったら使いますよ、ということになると思うのです。ですから、純粋にビジネスに乗るか、インセンティブが自分のコストに合っているか、そういう判断で決めることだと思います。

デジタル時代の電力システムに求められるもの

〔1〕発電から需要までの一気通貫をどう実現するか

勝又:ただ、ここで考えておく必要があるのは、電力の供給システムというのは、発電から需要まで連続してつながっていたという点で、一気通貫だったのです。しかし、今の国内の議論は、システムの経済合理性から、「アグリゲーターと契約した営業上の最後の地点(需要家のDR)」と「DRを勘案した発電」というのは、本当は一気通貫(1つの電力会社ですべて完結すること)だったのですが、今は「DR」と「発電」が別々に区切られて処理されていくのです。そこに問題があると思うし、そこをこれからどうするかが課題と思っています。単純に、そのように切り離して議論ができるのかどうか、ということです。

江﨑:そうですね。今までは、基本的にアナログの世界で、電力システムを一気通貫で作ってきた。その電力システムがポリティカル(政策的)に分割されて、個別のデジタル化によって電力システムをうまく動かすよういわれている。このとき、デジタルによる新しい電力システムになっても、区切られた個々の間をつながないといけないんですよね。そうすると、今後、「①デジタルで、②一気通貫で、③個々に違う会社で」という電力システムになるが、うまく制御できるようにしないといけない、ということだと思います。

〔2〕電力ネットワークの電圧が多すぎる!

勝又:はい、おっしゃる通りです。それから、日本の電力系統においてシステムをつなぐ電力ネットワーク(送配電網)の電圧については、現在は、図7に示すように100V~50万Vの間に、電圧の種類があり過ぎだと思います。これを、例えば6.6kVを2万Vに格上げするとか、6.6万Vを15万Vあたりに整理する必要があるのではないかと思います。

図7 日本における送電系統と配電系統の電圧と接続電源の関係

図7 日本における送電系統と配電系統の電圧と接続電源の関係

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)、第1回 地内系統の混雑管理に関する勉強会 配布資料、「地内系統の混雑管理について」、2020年 7月27日

 また、直流(DC)送電については、昔から議論されていますが、最近、大規模な洋上風力発電の導入計画などを背景に、地域間連系線や基幹系統の増強方針とともに、海底直流送電を含む電力ネットワークの次世代化に向けて「マスタープラン」が策定注30されているので大いに期待しています。

 同時に、パソコンやスマホ、デジカメの充電器(家庭は充電アダプタだらけ)など、家庭において直流で動作する半導体製品が多くなってきていますので、家庭内における直流配電の具体的な議論も必要ではないかと思います。

 いずれにしても、電力自由化・脱炭素化時代を迎えて、エネルギー危機やそれと連動した需給ひっ迫が重なっていますが、これらを乗り越えて、ビジネスが大きく発展するような次世代の電力システムをつくり、電力事業が今後も発展していくことを願っています。(後編に続く)

写真1  座談会参加メンバー

写真1  座談会参加メンバー

出所 編集部撮影


▼ 注26
https://www.meti.go.jp/press/2021/02/20220203002/20220203002.html

▼ 注27
ECHONET Lite:エコーネットコンソーシアムが策定した、日本国内のスマートハウスやセンサーネットワーク向けの通信プロトコル。ISO規格およびIEC規格として国際標準化。
経産省が、HEMS標準プロトコルとして2011年12月に認定し、スマートメーターとHEMSをつなぐ標準プロトコルとして2012年2月に認定した。最新バージョンは、ECHONET Lite 規格 Version 1.14(2022年9月30日発表)。

▼ 注28
ECHONET Lite規格書 アプリケーション通信インターフェース仕様書 家庭用エアコン・HEMSコントローラ間の第5章等に掲載されている。

▼ 注29
JEMA相互接続における情報公開のためのガイドラインの第3章や第4章等に掲載されている。

▼ 注30
資源エネルギー庁「電力ネットワークの次世代化」、2022年4月26日

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