[創刊10周年記念:座談会]

電力・エネルギー危機で、持続可能なエネルギーをどう選択・構築していくか!【前編】

― 脱炭素への短期/中期/長期的なエネルギー政策の行方 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部
【第2部】

政府が「次の電力市場制度を検討する会」をスタート

― 広域機関(OCCTO)が「kWhモニタリング」の検討を開始 ―

需給ひっ迫は「厳寒や猛暑」期だけではなくなった!

〔1〕重要な「需給一体」となったバランシング技術

江﨑:それは、グリッドフォーミング技術(電力システムを構成する技術)の問題ともいわれますが、辻先生の専門分野だと思いますので、専門家のお立場から解説していただけますか。

:今、電圧崩壊のお話をいただきました。この事例では、需給バランスの問題に加えて、電圧を支えるための調相設備注13を十分に投入できなかった側面もありました。このように、電圧や周波数などの観点から、電力システムを安定化する技術は今後も依然として非常に重要で、過去の教訓を活かしながら一層の進展が必要だと思います。

 これからの新しい電力システムでは、太陽光発電(PV)や電気自動車(EV)、蓄電池のような分散電源がさらに増えてきます。また、先ほどから話題のDRも一層の拡大が期待されます。ICTを駆使して多様なリソースを束ねて調整力などとして活用し、需給一体となってバランシングする技術を、いっそう高めていかないといけない時代が来たと常々思っています。

〔2〕電力システムの信頼度の再検討を

:一方で、電力システムの供給信頼性を確保するために、その信頼性評価の考え方の見直しが、電力広域的運営推進機関(略称:広域機関、OCCTO)注14で検討されています。これまでは、冬期(厳寒)や夏期(猛暑)の需要ピーク期における供給予備率の確保が中心的な課題でしたが、最近では、気候変動や電源の計画外停止などのさまざまな要因から、2022年3月下旬あるいは6月末などの端境期(はざかいき)でも、需給ひっ迫が起こっています。

 このようなことから、電力システムの信頼性評価のあり方もしっかりと見直して、全体として合理的なシステムに向かっていくことが必要かと思います。

停電を避けるため予備率は5~6%欲しい

〔1〕重要なのは「需給調整契約の量」

江﨑:需要者すべてが協力しなくても、協力できる人が何割かいれば電力システムが停電せずに動くというお話ですよね。その場合、具体的に何%くらいの予備率があればいいのでしょうか。

浅野:そうですね。現在、予備率の下限を3%に下げてしまったのですが、実際は変動再エネが増えた状況では5〜6%欲しいところです。例えば、系統電力需要が5,000万kWだったら、250万kW(=5,000万kW×0.05)の需給調整の能力があればいいと思います。

江﨑:要は、全体の需要者のうち、5~6%くらいの人が協力してくれれば、なんとか停電せずに済むことになるのですね。

浅野:それがまさに、先ほど勝又さんがおっしゃっていた、大口需要家の「需給調整契約の調整能力」が250万〜300万kWに達していた、ということです。具体的には、例えば大規模な工場で節電したり、自家発電を増やしたり、ホテルなどの中規模の事業者の節電、さらに将来は家庭用の蓄電池や電気自動車(EV)などの充放電などもかき集めれば、1,000万kW程度に届くのです。

 問題なのは、現在、そのためのインセンティブ設計だとか、アグリゲーション事業者や小売電気事業者などの取り組みが、そこに追いついていないという点です。ただ、もう少ししたら可能になると思いますが。

江﨑:でも、日本には協力的な家庭や企業が多いので、例えば、「照明を5%ほど暗くして」とお願いしたら協力してくれそうですよね。

浅野:そう思いますし、そのようなことは、本当はスマートメーターを活用すればある程度できるのです。

〔2〕「需給ひっ迫警報」が連続(毎日)発令されたらどうなる

江﨑:ありがとうございました。短期的な対応策について、澤さんはいかがですか。

:先ほど浅野さんが、先行的にDRの実証研究を4カ所で行われた十数年前というのは、電力の供給量も余裕があって、再エネもそれほど導入されていない時代だったと思うのです。それでも効果があった点は、重要なことと思います。

 その当時、私は、米国にはいくらでも調整のために停止できる電気があるから、米国ではうまくいっているんだと思っていました。

 日本の場合、需要家がすでに多くを節電してしまっていて、これ以上、節電要請(DR)に対して余裕はないのではないかと思っていました。ところが、先ほどのお話のように、最近の2022年6月の政府からの「需給ひっ迫警報」の発令に対して、需要家が節電に協力して消費電力を削減したため、停電を回避できました。

 日本の国民性もあると思いますが、それが1回や2回ならいいのですが、冬場になって万一、「需給ひっ迫警報」が連続(毎日)で出てくるような場合に、国民がほんとうに協力して削減してくれるのかどうか。もしかすると「狼少年」のように思ってしまい、「自分が節電しなくてもよいのではないか」と考える人が出てくると、思ったほど節電できない可能性もあるかなと危惧しています。

需給ひっ迫時に各家庭の電気を5%削減する方法

〔1〕短期的:可能な限り一般家庭の電力需給を調整

江﨑:そうですね。各家庭が電気を5%削減するには、どの程度の節電をすればよいかがわかっていれば、つまり、テレビを何時間消せばよいのか、エアコン(冷房)の温度を2℃上げればいいのかなど、節電の目安がわかっていれば協力しやすくなりますね。それがわかっていないから、いきなり冷房を切れといわれたら「暑くて死んじゃうっ!」ってことになるのです。

 この点について、西さん、いかがでしょうか?

西:日本の2020年度における家庭部門の最終エネルギー消費量の比率は、15.8%でした(運輸部門22.3%、企業・事務所等61.9%、エネルギー白書2022)。

 家庭用のエネルギー消費は、用途別に、「冷房」「暖房」「給湯」「ちゅう房」「動力・照明他」の5用途に分類してみると、2020年度におけるシェアは、図2に示すように、トップの動力・照明他(34.0%)から、給湯(27.8%)、暖房(25.1%)、ちゅう房(10.7%)、冷房(2.4%)の順となりました。

図2 世帯当たりのエネルギー消費原単位〔世帯当たりエネルギー消費量:MJ(メガジュール)〕と用途別エネルギー消費の推移

図2 世帯当たりのエネルギー消費原単位〔世帯当たりエネルギー消費量:MJ(メガジュール)〕と用途別エネルギー消費の推移

給湯:台所や浴室などに湯を供給すること(電気式やガス式などがある)
動力:200Vで動くような大型冷蔵庫など(通常、家庭用冷蔵庫は100Vで使用される)
(注1)「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。
(注2)構成比は端数処理(四捨五入)の関係で合計が100%とならないことがある。
資料:日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」、資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成
出所 資源エネルギー庁、「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」、第2部第1章「国内エネルギー動向

 そこで、需給ひっ迫時に、企業活動を必要以上に阻害することなく(特別需給調整の対象を拡大して経済活動に大きな影響を与えることなく)、5%の調整は可能と思います。そもそも、需給ひっ迫時とは電力消費のピーク時(昼間)のことですから、可能な限り、一般家庭の電力需給を調整するのがよいと思います。

 テレビの場合は切ることもできますが、省エネモード(画面サイズをデマンドコントロールで小さくするなど)に対応したテレビ受像機で対応することも可能です。

〔2〕長期的:高い断熱性能を備えた住宅を作ること

西:もう1つ、長期的な視点からより重要なのは、高断熱住宅の基準「HEAT20」注15よりもさらに高い断熱性能を備えた住宅を作ることを、(耐震性能住宅を法定化しているのと同様に)法定化し、空調電力の需要を削減することが重要と思います。このような住宅は、建て替え需要でしか回ってこないため、50年といった長期的な取り組みになるかもしれませんが、ぜひとも必要と考えています。

日本でも「kWhモニタリング」の検討を開始へ

〔1〕正直に市場の価格を反映:ネガティブプライスも

岡村:浅野さんに質問です。実は私は先ほどの4地区実証のときに北九州においてA社の責任者として参加していました。DRの仕組み(ロジック)をA社が作り、200世帯に協力してもらいました。電気料金は、ピーク時でも最大70円/kWhくらいで収まるだろうと思っていたら、実際には、夏期のピーク時になんと200円/kWhまで上がってしまい、ひどいことになってしまいました。最終的には、200世帯が全部やめさせてほしいということになりました。

 そこで、九州電力から供給されていた電力を、北九州市の新日鉄八幡からの電力に切り替えて、実証実験を行いました。現在、その仕組みについては誰が作っているのでしょうか。

浅野:この問題は、短期的ではなく、中・長期的な課題になると思います。最後はLocational Marginal Price(LMP、ロケーショナル・マージナル・プライス、地点別限界価格)注16といって、地点別、時間帯別に、その時の需給状況に応じてkWh当たり200円、ひどいときは1,000円になります。ただし、太陽光が正味負荷(net load)を超えて過剰発電するときは0(ゼロ)円にする、あるいはネガティブプライス(マイナス価格)注17にするというように、正直に市場の価格を反映させればいいのです。

〔2〕政府内に「次の電力市場制度を検討する会」が立ち上がる

浅野:実は、このような課題について、次の電力市場制度をどうすべきかを検討する検討会注18が、経済産業省主導で、2022年7月29日に立ち上がりました。この検討会では、中央給電指令所注19システムを次世代システムに更新するときにどうすべきか、なども検討されています。

 岡村さんからご質問のピーク料金の課題の検討のほか、図3に示すように、

図3 広域機関(OCCTO)におけるkWhモニタリングの仕組み

図3 広域機関(OCCTO)におけるkWhモニタリングの仕組み

【出典】電力広域的運営推進機関(OCCTO)
出所 経済産業省「第2回 あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」2022年10月4日、「参考資料1」(電力広域的運営推進機関)、「kWhモニタリングについて」2022年10月4日

 ①例えば、広域機関(OCCTO)が一定規模の電気事業者から情報収集し、2カ月先までの燃料に基づく供給力(kWh)の確保状況などを日本全体の合計としてモニタリング(これは「kWhモニタリング」といわれる。図3)すること

 ②2週間先(図3の左)までの想定需要に対する余力(kWh)の割合を管理すること

などによって、需給ひっ迫の発生が予見される場合には、至近(2週間程度)で実施可能な需給対策を講じる(kWh余力率管理、図3の左)ことなども検討されています。ですから、もちろんA社でもB社でも設計できると思います。

〔3〕米国のISOではkWhモニタリングを実施

浅野:このようなkWhモニタリングについて、現在、米国のISO(Independent System Operator、独立系統運用機関)である、PJM(米国東海岸の独立系統運用機関)やニューヨークISOは、SCED注20という、送電系統の制約を考慮した地点別の限界エネルギー費用を最小化するソフトを用いて、5分ごと、地点別に、すなわち変電所別の価格を実際に提示して、電力需給を時間的にも空間的にも最適化しています。

 発電事業者は、それを見て発電所を動かしたり、あるいは負荷を制限したりしているので、理論的には誰でも作れるはずなのです。このとき、需要家における消費電力量のデータの収集が重要となります。

岡村:前述の4地区実証の際の一番の問題は、電力価格が一番安いときに、誰も使わなかったということでしたね。

浅野:そうです。当時は、まだ家庭に電気を貯める蓄電池や電気自動車(EV)、エコキュートも普及していなかったのです。電力消費(需要)のピーク時刻をタイムシフトするには、基本的にエネルギーバッファ(エネルギーの貯蔵。蓄電池やEVのこと)を、やはり需要家側(家庭側)に置くしかないのです。


▼ 注13
調相設備:需要家側の負荷が変動(猛暑でエアコンの使用が急増する等)しても系統(電力システム)の電圧値をほぼ一定に保つために調整する装置のこと(調相設備としては、例えば、電力用コンデンサや同期調相機などがある)。

▼ 注14
電力広域的運営推進機関:略称「広域機関」。OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN、設立は2015年4月1日。

▼ 注15
HEAT20:一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会、設立年月日:2020(令和2)年7月22日、所在地:東京都千代田区。
Society of Hyper-Enhanced insulation and Advanced Technology houses for the next 20 years、

▼ 注16
地点別限界価格(LMP):系統内の各ノード(または地域)において「電力の発電・送電に関わる費用」および「系統内に発生する機会費用」を反映した短期限界費用の考え方に基づき設定される価格。

▼ 注17
ネガティブプライス(Negative Price):発電事業者は、発電機の稼働を止めることのほうが、ネガティブプライスを支払う(通常とは逆の発電事業者が需要家に支払う)よりもコスト高になることもあるため、需要家にネガティブプライスを払ってでも発電する事業者もある。https://www.jstage.jst.go.jp/article/sisj/2014/29/2014_13/_pdf/-char/ja

▼ 注18
経済産業省「第1回 あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」、2022年7月29日、

▼ 注19
中央給電指令所:一般送配電事業者10社に各中央給電指令所システムが設置されている。日々刻々と変化する電気の流れを24時間365日、常に監視し、変化に合わせて各発電所における発電量を調整する司令塔となっている。これによって、各エリアの電気の使用量と発電量のバランスを保つ役割(需給運用)を担っている。広域機関は、これらの一般送配電事業者とデータ連携することで、各供給エリアの中央給電指令所にて監視している需給状況等の情報を、広域機関でもリアルタイムに把握し、全国的な調整・監視を行っている。

▼ 注20
SCED:Security-Constrained Economic Dispatch(セキュリティコストレインド・エコノミック・ディスパッチ)、送電制約付きの短期エネルギー費用を最小化するソフトウェア。

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