[創刊10周年記念:座談会]

電力・エネルギー危機で、持続可能なエネルギーをどう選択・構築していくか!【前編】

― 脱炭素への短期/中期/長期的なエネルギー政策の行方 ―
2022/11/13
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部
【第3部】

ビジネス現場における「標準仕様」と「個別仕様」の課題

― VPP・DRを含めたERABビジネス拡大のためのジレンマ ―

大きくなるアグリゲーターの役割

〔1〕ACとRC間はオープンな国際標準OpenADRを使用

江﨑:4地区実証の際の教訓として、きちんと安い蓄電池をつくっておけば良かったということですね。その他、茂手木さんはいかがでしょうか?

茂手木:建設会社の立場から申しますと、最近、先ほどお話のあった中小規模の建物でもDRを行いたいというお客様が徐々に増えつつあります。しかし、DRの実行を自動化しようとすると、電力会社やアグリゲーターが、API(Application Programming Interface)の開示およびアクセス許可をしてくれないので、自動化が非常に困難であるのが現状です。

 例えば、図4に示すように、アグリゲーションコーディネーター(AC)とリソースアグリゲーター(RC)の間の通信には、OpenADR注21という国際標準プロトコルが使用されています。しかし、RCとその下の需要家側との通信は独自プロトコルとなっており、需要家側の設備としては接続が困難です。ここが標準化されると、非常に接続しやすく利用しやすくなると思っています。

図4 VPPにおけるDER(分散型エネルギー資源)を活用するイメージ

図4 VPPにおけるDER(分散型エネルギー資源)を活用するイメージ

【出典】資源エネルギー庁「VPPのイメージ」を一部加筆・修正して作成

リソースアグリゲーター(RA):Resource Aggregator、需要家とVPPサービス契約を直接締結してリソース制御を行う事業者
アグリゲーションコーディネーター(AC):Aggregation Coordinator、リソースアグリゲーターが制御した電力量を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接電力取引を行う事業者
DER:Distributed Energy Resources、分散型エネルギー資源。①太陽光パネルや風力発電、蓄電池、電気自動車などの分散型電源や、②需要家にある空調・照明、工場の生産設備などの電力消費機器など、電気の需要量などを制御するDR(デマンドレスポンス、需要家側応答)などがある。電気の需要量を増やす(例:EVを充電する)指令の場合は「上げDR」、需要量を減らす(例:照明を暗くする)指令の場合は「下げDR」という。
VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所。IoTを活用して、複数の小規模なDER(分散型エネルギー資源)を束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することによって、あたかも1つの発電所であるかのように機能させる仕組み。
出所 茂手木、「インプレスSmartGridニューズレター座談会」、2022年8月3日

〔2〕オープンなAPIでDRを導入しやすく!

茂手木:さらに、DRのアカウントを1つ作ろうとすると、電力会社やアグリゲーターの側にシステムコストがかかり、利益にならない。すなわち、お客様の利益どころか、自分たちの利益にもならないので、やりたくないといわれてしまうのです。加えて、DRの電力量が100kWh以上ないと駄目です(採算に合わない)といわれてしまうのです。

 最近は、小さい出力でも認めてくれる電力会社やアグリゲーターも出てきましたが、地域によっては、10kWh程度の少ない電力量で参加したいといっても、なかなか参加できないところもあります。そこで、標準的でオープンな共通APIを作っていただければ、それに対応したシステムを開発して、どのアグリゲーターとも容易に接続できるようになるのです。

浅野:今のお話はとてもうれしい話で、「中・小規模の需要家もDRに積極的に参加したいので、そのAPIなどを標準化して欲しい」というのは、まさに政府の課題です。例えば、政府のエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)検討会注22でそういうのを取り上げていただき、日本にはこういう建物が何万軒あって、それ向けにAPIの標準化作業に予算はどれくらいかかるか、その費用分やどういうプロフィットシェアリング(利益配分)をするかなどをERAB検討会で、具体的に議論してほしいなと思っています。

茂手木:もう1点あります。すでに2020年7月から開設されている容量市場〔電力量(kWh)ではなく、4年後の電力の供給力(kW)を確保し取引する市場〕では、図5に示すように、メインオークション(メイン入札)が、4年も前から始まります。

図5 容量市場:追加オークションについて

図5 容量市場:追加オークションについて

出所 電力広域的運営推進機関(OCCTO)、「容量市場かいせつスペシャルサイト」、<メインオークション実施時期のイメージ>より

 これは、発電所の新設などを考慮した場合に必要な期間を考慮してのことだと思いますが、新築の建物において発電機や蓄電池などを用いて容量市場に参加する場合、建物の運用が開始される4年も前の時点でDRの運用を決めてアグリゲーターと契約するのは難しいのです。ですから、普通に考えると竣工後に、初めて容量市場への参加について契約することとなり、竣工後4年間は参加できない状態となってしまうのです。したがって、オークションから市場参加までの期間が、もう少し短くなると良いと思っています。

 現在、図5に示すように、需要や供給力の変動などを考慮して前年(1年前)からでも容量市場のリソースとして参加できるように、枠組みを広げる議論がなされています。このようなことを通して、アグリゲーターが需要家側から集める需要家設備(DER:分散エネルギー資源)に対しても、より参加しやすいような形になってくれるといいと期待しています。

〔3〕IEC(国際電気標準会議)標準の「IEC 61850」を

江﨑:今の茂手木さんのERABやDRについてのご意見ですが、現在、政府(内閣府)では経済安全保障について大きなトピックになっています注23ので、ERABやDRを普及させるために、オープンな共通テクノロジー開発として予算をつけて検討し、具体化してもらうことが重要ですね。

齋藤:茂手木さんのオープンテクノロジーに関連するお話で、現在、当社(東光高岳)は政府が2020年度から推進している「地域マイクログリッド」注24に取り組んでいますが、各地域の配電用変電所以下のローカル配電網に実装されている資機材の仕様がまちまちであったり、各電力会社が長年にわたって各社固有の技術でメンテナンスをしたりしてきましたので、世界標準からは遠のいています。

 これまでは、各電力会社系の電気機器製造会社しかわからない技術を標準化と称して、入札し設置されてきました。もし、IEC(国際電気標準会議)の国際標準「IEC 61850」注25に準拠したり、IECが推進するSGAM(スマートグリッド・アーキテクチャ・モデル)注26という整理された階層構造モデルに則って、あらゆるソフトウェアやハードウェアを関連機器メーカーが作っていれば、現在のような機器仕様が統一されないという問題は簡単に解決するのですが、現状はそうではありません。

〔4〕このままではゲートウェイだらけになってしまう

齋藤:現場で、具体的に何が起こっているかというと、すべての部材(構成部品や装置)が独自に作られているため、それらを相互接続するためのゲートウェイ(相互接続装置)が必要になります。そのため、現在設置されている部材を一気にIEC 61850に準拠させようとしますと、現場はゲートウェイだらけなってしまうのです。

 このようなところをいかに効率的に、標準化の環境に変えていくかという点が、国の指導力に期待されていると思います。


▼ 注21
OpenADR:Open Automated Demand Response、電気の要給バランスをとるために、リソースアグリゲーターが自動的に需要家側のエネルギー関連機器を制御する自動デマンドレスポンス(ADR:Automated Demand Response)のための国際標準の通信プロトコル。現在普及しているOpenADR2.0b(バージョン2.0b)※はOpenADRアライアンス(2010年10月設立)が2013年7月に策定した。
※OpenADR2.0b:電力の需給制御用プロトコルのバージョン2.0b。OpenADRアライアンスで策定され広く普及しているプロトコル。OpenADR2.0bは、経済産業省のVPP構築実証事業(2016〜2020年度)において、中核的な通信プロトコルとして採用された。

▼ 注22
ERAB検討会:Energy Resource Aggregation Business検討会、第1回:2016年1月。最新は第17回2022年1月
・ERAB(イーラブ):Energy Resource Aggregation Businesses、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス。工場や家庭など(需要家)が保有しているエネルギー機器(太陽光発電や蓄電池等)と電力の消費量(空調・照明等の消費量)などをエネルギーリソース(資源)として束ねて行うビジネスのこと。具体的には、VPPやDRを用いて、図4の最上段に示す一般送配電事業者、小売電気事業者、再エネ発電事業者、需要家などの契約先に対して、調整力、インバランス回避(インバランス:電力の需要量と供給量の差分のこと)、電力料金削減、出力抑制回避等の各種サービスを提供する事業のこと。

▼ 注23
経済安全保障重要技術育成プログラム 研究開発ビジョン(第一次):令和4(2022)年9月16日、経済安全保障推進会議 統合イノベーション戦略推進会議

▼ 注24
地域マイクログリッド:一般送配電事業者が所有する既存の送配電線(電力系統)を利用し、停電などの非常時でも、電力系統とは独立して運用が可能なマイクログリッド(限定された地域の小規模な太陽光や自家発電装置などで構成される電力網)のこと。政府は2020〜2022年の3カ年計画で系統線を利用する「地域マイクログリッド」の構築支援事業を開始している(電力系統ではなく、自営線を敷設して構築するマイクログリッドもある)。
経済産業省・資源エネルギー庁「地域マイクログリッド構築のてびき」、2021年4月16日

▼ 注25
IEC 61850:IEC(International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議)によって策定された電力設備の自動化に必要な通信ネットワークとシステムについて規定した国際標準規格。IEC 61850は複数のパートで構成され、国際規格(IS:International Standard)、技術仕様書(TS:Technical Specification)、および技術報告書(TR:Technical Report)に分類されている。

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