PRATEXO社 Blaine Mathieu氏に聞く
新プラットフォーム「エッジマイクロクラウド」とは
今日、ビジネスや産業用プラットフォームとして、クラウドシステムが幅広く利用されている。しかし、電力供給の現場においては、後述する理由により処理遅延の発生が避けられず、そのためスパイク(Spike)と呼ばれる極端な市場価格の変動を引き起こす可能性がある。これら電力供給システムに関する各種の問題(図1)に、PRATEXOが新たなコンピューティングプラットフォームとして開発したエッジマイクロクラウドの活用が、解決のソリューションとして期待できる。
図1 電力供給システムを取り巻く問題
出所 PRATEXO社提供資料より
エッジマイクロクラウドは、ネットワーク上に配置された機器でデータの処理や管理を行うクラウドコンピューティングと、電力施設等に設置されたIoT端末などネットワークエッジ(周縁部分)でデータを処理するエッジコンピューティング、それぞれの特徴を融合したプラットフォームである。
エッジコンピューティングは、IoTのゲートウェイとして以前から製造現場などで利用されてきた手法だ。ネットワーク周縁のエッジノードを接点とし、そこに各種センサーやカメラなどを接続し、収集したデータを作業の進捗管理や設備保守などに活用している。それが近年、セキュリティ強化や設備機器の故障予測などを行うために、AIによるデータ分析など複雑なデータ処理のニーズが高まってきた。そこでエッジノードを束ねてクラウド環境を構築し、より高度なデータ処理を実現したのがエッジマイクロクラウドだ(図2)。
図2 エッジマイクロクラウドのシステム概念図
センターのクラウドがネットワーク遮断されても、エッジマイクロクラウド同士の通信は保たれるため機能や動作は維持される。
出所 PRATEXO社提供資料より
電力グリッドや発電施設に優れたレジリエンス注2を実現
エッジマイクロクラウドで、何が変わるのか。まず、システム全体のレイテンシー注3が下がるため、スパイクを防ぐ効果がある。クラウドシステムの場合、ノードで取得したデータを一度クラウド上のシステムに送り処理するが、物理的な通信経路が長く処理から実行までにどうしても時間を要する。エッジマイクロクラウドであればエッジノード直近でデータを処理するため、実行までの時間が大幅に短縮され、電力の突然の需給変動にもよりリアルタイムな対応が可能となる。さらに、センターに位置するクラウドヘのデータ送信量が最小限となるため、通信量が削減でき、コスト削減も期待できる。
また、エッジノードでAIによる高度なデータ処理などができ、セキュリティ強化や設備監視、故障予知といった新たなサービスを電力供給システムネットワークに付加することが容易となる。
重要な点として、Mathieu氏は可用性の高さを挙げる。「何らかの理由でクラウドがネットワーク切断されたときでも、システム運用を続けることができます。この点は電力グリッドのようなミッションクリティカル注4なシステムのレジリエンスを高めることにつながります。」
▼ 注1
エネルギー供給強靭化法:正式名称は「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(2022年4月施行)。「電気事業法」「再エネ特別措置法」「JOGMEC法(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法)」の3つの法律改正が一度に行われた。この背景には、(1)昨今の自然災害の甚大化と被災範囲の広域化、(2)ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルスの大流行など、地政学的リスクによるエネルギー事情の変化や社会的リスク、(3)再エネの主力電源化など、日本の電力インフラシステムにおける課題がある。
▼ 注2
レジリエンス:resilience、「しなやかさ」「回復力」の意味。施設や設備においては、災害など危機的な状況ヘの対応や迅速な回復力を確保すること。
▼ 注3
レイテンシー:遅延時間。データを収集して処理し、応答するまでにかかる時間。
▼ 注4
ミッションクリティカル:業務の遂行やサービスの提供に必要不可欠で、連続的な稼働が求められること。電力システムはライフラインを支える重要な社会インフラシステムであるため、一瞬の停止も許されない。