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日本の「蓄電池関連産業」標準化等を加速

NITE(製品評価技術基盤機構)とJARI(日本自動車研究所)が協定
2024/08/13
(火)

世界の蓄電池市場は2050年に100兆円市場に拡大

 2050年カーボンニュートラルの実現に不可欠な産業の1つとして、蓄電池(二次電池)の重要性が急速に高まっている。経済産業省では、世界の蓄電池市場は2050年に100兆円産業規模の巨大市場に成長すると試算している(図1)。
 蓄電池はBEV(バッテリーEV。単にEVと呼称する場合もある)やPHV・HEV(プラグインハイブリッドEV・ハイブリッドEV)などの車載用のほか、ビルや家庭における太陽光発電向け定置用として大きなニーズが見込まれている。さらに近年は、より高性能な全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池注1、図2を参照)や革新型蓄電池注2(後出の図4参照)などの「次世代二次電池」が開発され、その実用化が急がれている。 
 一方で、廃車となったBEVなどから取り出した中古蓄電池に関して、資源の有効活用や循環型経済を確立する観点から、再利用やリサイクルの促進も開始されている。

図1 拡大する世界の蓄電池市場

出所 経済産業省「参考資料(蓄電池)」

図2 リチウムイオン二次電池(液体LIB)と全固体リチウムイオン二次電池(全固体LIB)との違い

LIB:Lithium Ion Battery
出所 蓄電池産業戦略検討官民協議会「蓄電池産業戦略」、2022年8月31日

NITEとJARIの2研究機関が協定を結んで推進

 このような背景のもと、蓄電池産業の更なる強化に向けた施策が、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(以下、NITE注3)と一般財団法人 日本自動車研究所(以下、JARI注4)から発表された。両機関では包括的相互協力の協定を2024年7月26日に締結、蓄電池の安全利用に関わる基準策定を進める(図3)。
 NITEは、工業製品の安全性や性能の評価や認定、それらの情報発信などを行う経済産業省の独立行政法人。大型蓄電池システムに関する安全性試験や検証なども行っている(写真左)。
 JARIは、自動車や道路交通に関連する研究、試験を目的に1969年に発足。近年はBEVなど2050年の脱炭素化に向けた自動車技術開発や、自動運転技術の研究、その技術標準化の支援などを展開している(写真右)。

図3 NITE(製品評価技術基盤機構)とJARI(日本自動車研究所)の協力関係イメージ

出所 独立行政法人製品評価技術基盤機構、「NITEとJARIが蓄電池分野の協力協定を締結」

写真 NITE(左:大阪事業所 先端技術評価実験棟、大阪市住之江区)とJARI(右:耐爆火災試験設備、茨城県東茨城郡城里町)の外観

出所 ともに、独立行政法人製品評価技術基盤機構「NITEとJARIが蓄電池分野の協力協定を締結」

技術革新に対応した安全性や各種基準の確立へ

 蓄電池は、自動車を電動化し走行時のCO2排出量をゼロにする。現在主流となっているリチウムイオン電池(LIB:Lithium Ion Battery)は性能や容量、重量などで改良の余地があり、かつ使用材料には国家間などでの緊張の高まりや不安定な政治体制、 紛争・テロなどによる「地政学的リスク」をもつものもある。このため、それらの課題のクリアを目指して、前述した全固体電池や革新型蓄電池といった次世代二次電池の開発が活発化している(図4)。
 これらの新技術は従来とは異なる材料で構成されているため、その性質に応じて適切な評価方法を確立し、安全性などの性能を評価する必要が生じている。
 また、BEVが普及すれば従来の自動車の廃車も増える。それらの廃車に搭載されていた車載用蓄電池の再利用策として、ビルなどの施設や一般家庭向けの定置用蓄電池システムへの転用も進められている。しかし、中古蓄電池の内部状態は新品時とは性能が異なるため、再利用時の安全性に関する基準や評価方法の確立を望む声が高まっている。
 NITEとJARIは今回の協定によって協力関係を深め、BEV用・定置用など幅広い種類の蓄電池に関して、その安全製評価や技術の標準化を加速させる。これによって蓄電池システムの安全運用や、中古の車載用蓄電池の二次利用を広げていく予定だ。

図4 車載用蓄電池の中長期的な次世代蓄電池技術への移行イメージ

出所 経済産業省「参考資料(蓄電池)」


注1:全固体電池:全固体リチウムイオン二次電池。電池の正極と負極の間でリチウムイオンの移動を媒介する電解液を固体にした電池(後出の図3参照)。
注2:革新型蓄電池:安価で供給リスクの少ない銅や鉄、亜鉛、炭素などの材料を使用し、高エネルギー密度化と安全性の両立を実現可能な蓄電池。フッ化物や塩化物などのハロゲン化物蓄電池や亜鉛負極蓄電池など。
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2022/pr/en/sangi_taka_16.pdf
注3:NITE:National Institute of Technology and Evaluation、呼称は「ナイト」。
注4:JARI:Japan Automobile Research Institute、呼称は「ジャリ」。

参考サイト

独立行政法人製品評価技術基盤機構、「NITEとJARIが蓄電池分野の協力協定を締結」

一般財団法人 日本自動車研究所 プレスリリース、「JARIとNITEが蓄電池分野の協力協定を締結しました」、2024年7月26日

経済産業省「参考資料(蓄電池)」

国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研マガジン、「“次世代二次電池”とは?」、2023年10月25日

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