環境省と国が2050年を待たずに達成する脱炭素化戦略
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、環境省と国が2020年から自治体などと進めている施策の1つに「地域脱炭素」がある。この施策は、「地方創生に資する地域脱炭素の実現」を目指して、国と地方が協働・共創して行う取り組みで、特徴的なのは環境省が「脱炭素ドミノ」と呼ぶその展開方法だ。
まず、意欲と実現の可能性が高い地域を「脱炭素先行地域」として全国で少なくとも100カ所を選定し集中的に支援、そこを基点にドミノ倒しのように周辺地域にも取り組みを広げる。図1に示すように、環境省のロードマップでは、2025年までを集中期間とし、2030年には脱炭素ドミノを各地に起こし、2050年を待たずに各地方の脱炭素化を達成する戦略である。
図1 地域脱炭素ロードマップ対策・施策の全体像
出所 国・地方脱炭素実現会議「地域脱炭素【ロードマップ概要】~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」令和3(2021)年6月9日
すでに82地域が脱炭素先行地域として選定
脱炭素先行地域は、民生部門(家庭部門および業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを2030年までに実現し、かつ、その他の温室効果ガス排出削減についても国が目指す目標と2030年度目標(2013年度までに50%削減を目指す)に整合する削減を目指す地域。2022年第1回選定の同年4月26日以降、第5回選定結果(2024年9月27日)までに合計82地域が脱炭素先行地域として選定された(図2)。
選定された地域には、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金が複数年度にわたって交付されるほか、設備導入や計画策定、人材、情報などで各種支援策も用意されている。
図2 選定された脱炭素先行地域(82地域、2024年9月27日時点)
出所 環境省 脱炭素地域づくり支援サイト「脱炭素先行地域」
千葉市、大幅に前倒して2026年にCO2 排出実質ゼロを達成へ:
千葉市内約750の施設で展開
千葉市は、環境省の脱炭素先行地域として2022年11月に千葉県内で初めて選定され、これまで千葉市内約750施設の電力消費に関して CO2 排出実質ゼロを目指す取り組みを行ってきた。その目標が2026年に達成できることを2024年8月30日に発表した。実現すれば、地域脱炭素が求める2030年よりもさらに前倒しでの目標達成となる。
千葉市の電力脱炭素化の3つの手法
同市の電力脱炭素化の手法は3つ。
1つ目は自己託送注1で、2026年度に稼働予定の新清掃工場に設置する廃棄物発電による電力を、一般送配電事業者の送配電網を介して千葉市の市有施設へ供給する。
2つ目は、これまで千葉市が取り組んできた太陽光発電施設の増強、最後に電力会社や電力小売事業者などが提供する再エネ電力メニューの活用。これらを組み合わせて電力を脱炭素化する予定だ(図3)。具体的には、図3に示すように、2024年度は「CO2排出実質ゼロ電力は9%」であるが、2026年度には「CO2排出実質ゼロ電力は100%」と驚異的なスピードで一気に脱炭素化を実現する。
3つ目は、さらなる市有施設(約750施設)の電力需要と、前出の新清掃工場や太陽光施設による電力供給を一元管理する新たなシステムを構築。これによって、市全体の電力利用を最適化する(図4)。
千葉市におけるこれら施策は2026年度から本格的に稼働し、年間約6万8,000トンのCO2排出量をゼロにする。これは、一般家庭約 2万6,000 世帯の年間 CO2排出量に相当する。さらに自己託送によって電力コストが削減され、それが年間約5億円になると試算している。具体的なスケジュールは以下の通り。
(1)~2025年度:システム開発、システム運用機器の整備、各太陽光発電設備の導入
(2)2026年度:新清掃工場稼働、システム運用開始、自己託送開始、 再エネ電力メニューへの切り替え 市有施設の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロの達成
図3 千葉市が目指すCO2 排出実質ゼロ電力の電源構成
図4 千葉市の電力需給一元管理システムのイメージ
出所(図3、4とも)千葉市 記者発表資料「2026年度に市有施設の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロの実現を目指します」
注1:自己託送:一般送配電事業者(電力会社)が保有する送配電ネットワークを使用して、需要家「千葉市」が所有する発電設備(廃棄物発電)を用いて発電した電力を、別の場所にある千葉市内の需要家等の施設に送電する制度。