電力の需給で重要な「同時同量」の実現
再生可能エネルギー(以下、再エネ)普及の課題の1つに、電力供給の安定性の確保がある。電力は貯蔵が困難なため注1、電力供給は、発電量と消費量が常時一致(同時同量。コラムを参照)している必要がある。これができないと電力系統の電圧や周波数などの品質の低下が発生してしまい、最悪の場合は停電につながるケースもある。
現在は火力、水力、原子力それぞれの発電所で需要に応じて発電量を調整しているが、太陽光や風力などの再エネでは、現時点では発電量の調整が難しい面がある。さらに天候などで発電量が左右されるため、需給バランスが大きく狂ってしまう可能性もある。
《コラム》同時同量とは
電力は、発電量と消費量が常時一致する(電力の需要と供給のバランスをとる)ように提供されており、これは「同時同量」といわれる。
2016年4月以前は、旧一般電気事業者(旧電力会社10社)が、各事業者の供給エリア全体の電力の需要量と供給量を、時々刻々(瞬時瞬時)に一致させ(瞬時瞬時に同時同量:実需同時同量という)、電力の需給バランスを実現してきた。その後、多くの新電力(小売電気事業者)が登場してきたが、新電力は旧一般電気事業者に比べて取り扱う電力量が少ないため、瞬時瞬時に同時同量を達成することが技術的に難しい。そのため、「30分間に消費される電力量」と「30分間に発電する電力量」を一致させるルール「30分実需同時同量」(発電側だけ計画値を策定し実施)が運用されるようになった。
しかし、2016年4月からスタートした「電力小売全面自由化」以降は、新制度である「計画値同時同量」(30分計画値同時同量)という「発電側と需要側の双方において計画値を策定」する同時同量が義務付けられた。現在、供給エリアの電力の周波数制御や需給バランスの調整の責任は、一般送配電事業者(10者)が担っている。
急速に注目されるデマンド・レスポンス(DR)
そこで注目されているのがデマンド・レスポンス(Demand Response、電力の需要側応答。以下、DR)だ。DRとは、電力需給バランスの維持を発電側だけでなく、企業や家庭などの需要側にも担ってもらおうという考え。電力需要の増大が見込まれるときは、需要側(例:家庭)で電力の使用量を抑制する(「下げDR」と呼ばれる)。また気象条件が良好で再エネの発電量増大が見込まれる場合は、需要側(例:家庭)の使用量を増やす(「上げDR」と呼ばれる)。
これまでは、エアコンや照明などの設備利用や、工場操業などで調整を行ってきたが、最近は企業や家庭用の定置型蓄電池やEV(電気自動車)対応型蓄電池の活用も見込まれている。
すでに政府の省エネルギー小委員会において、エアコンやヒートポンプ給湯器(エコキュート)、蓄電池・EV充放電器などのDR対応化促進(DRready)の検討が開始されている注2。
京セラ製家庭用蓄電池を遠隔制御し、電力需給の調整力を創出
東京電力エナジーパートナー株式会社(以下、東京電力EP)、京セラ株式会社(以下、京セラ)、TEPCOホームテック株式会社(以下、THT) 、株式会社エナリス(以下、エナリス)の4社共同で、蓄電池によるDRの新たな実証が開始された。実証は「京セラ製家庭用蓄電池」(図1)を遠隔制御することで行われる。
図1 京セラの蓄電システム「Enerezza」(エネレッツァ)の外観と特徴
出所 京セラ株式会社 ニュースリリース2024年9月3日、「家庭用蓄電池を遠隔制御するDRの実証を開始」
4社のそれぞれの役割は次の通り。
(1)電力サービスを提供している東京電力EPが、電力の需給状況の見通しなどを策定する。
(2)(1)を受けて、電力の需給管理・卸・小売りを行っているエナリスが、電力市場の取引価格を予測し、日々の蓄電池制御計画を立案する。
(3)京セラは、制御計画に基づいて各家庭の蓄電池の遠隔制御を行う。
(4)蓄電池の設置を担当しているTHTが、実証に参加するモニター家庭の募集を行う(図2)。
(5)運用にあたっては、エナリスのエネルギー管理システムと、京セラの機器制御システムを使用する。
図2 4社による家庭用蓄電池のDR実証のイメージ
出所 京セラ株式会社 ニュースリリース2024年9月3日、「家庭用蓄電池を遠隔制御するDRの実証を開始」
家庭用蓄電池が電力需給の“調整弁”として機能するか
一般的に蓄電池を使ったDRは、電力需給のひっ迫時に放電して供給量を補い(図3、「下げDR」という)、逆に余剰時は充電を行い需要を増やす(図4、上げDRという)。蓄電池を電力需給のいわば“調整弁”として使うが、今回の実証でも同様のことが行われる予定だ。
具体的な実証は、2024年9月3日~12月31日を予定している。この期間で得たデータをもとに、電力需給のバランス維持に家庭用蓄電池がどの程度の調整力(電力の需給バランスが崩れそうなときに用いられる電力)を発揮するかといった検証のほか、遠隔操作の追従性や制御状況などの確認、また供給側の電力調達コストや各家庭における電気代ヘの影響についても検証を行う。
現在、家庭用蓄電池は、災害時のバックアップ電源として認知や普及が進んでいる。また、例えば、東京都における2024年度における蓄電池に関する補助金は「最大120万円」の支援を受けることが可能注3であるなど、各地の自治体が設定している蓄電池の購入補助制度も追い風となっている。これらによって蓄電池の普及が広がれば、DRの手法の1つとして期待できる。
図3(左)蓄電池によるDR:放電(下げDR)、図4(右)蓄電池によるDR:充電(上げDR)
図3:蓄電池から放電した電気を使うことによって、その時間帯における電力会社からの電力供給を抑制(電気の需要量を減らすDR)。
図4:蓄電池を充電することで、その時間帯の電力需要を創出(電力の需要量を増やすDR)。
出所(図3、図4とも) 資源エネルギー庁Webサイト、「ディマンド・リスポンスってなに?」
注1:貯蔵は可能であるが蓄電池などが高価なためコスト的に困難が伴う。大規模な電力貯蔵としては、日本では揚水発電所が活躍している。需要の少ない夜間の電気を有効に活用して揚水ポンプでダムに水を汲み上げ、需要が多い昼間などにその汲み上げた水をダムから落下させることによって水車を回し、発電する。
注2:資源エネルギー庁「機器のDRready要件に係る方向性」、2024年6月4日
注3:東京都『令和6年度補助メニュー一覧「家庭における蓄電池導入促進事業」』
参考サイト
資源エネルギー庁Webサイト、「ディマンド・リスポンスってなに?」
京セラ株式会社 ニュースリリース2024年09月03日、「家庭用蓄電池を遠隔制御するDRの実証を開始」
東京電力エナジーパートナー株式会社 プレスリリース 2024年9月3日、「家庭用蓄電池を遠隔制御するDRの実証を開始」