圧倒的な低遅延・電力効率・大容量を実現する次世代基盤
NTTグループで開発を進めている次世代ICT基盤「IOWN」(アイオン、Innovative Optical and Wireless Network)が、AIインフラのITU-T国際標準として承認される方向である(2024年12月13日発表のニュースリリース)。
IOWN は、NTTが2019年5月に提唱し、2030年頃の実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想だ。
このIOWNは、光通信ネットワークをはじめ実世界を仮想空間上に再現するデジタルツイン、システムやサービスの自動運用管理などの技術を一段と高性能・高精度化させ統合したICT基盤構想(図1)である。低遅延かつ高効率の基盤として、ネットワーク遅延では従来の1/200を達成するほか、電力効率ではAPN注1部分・サーバ部分はともに100倍、大容量化では125倍を目指している(図2)。
図1 IOWN構想とは?
出所 NTT研究開発Webサイト、「IOWN構想とは?その社会的背景と目的」
図2 IOWNの4つの目標性能
出所 NTTグループWebサイト、「IOWN 機能と特性」
急激に増大するAIデータ分析の基盤として
現在、AIの急激な進化と普及によって処理するデータ量が増え、電力消費も急激に増加している。また人間の感覚により近いAI分析を目指して開発が進められている大規模言語モデル(LLM)注2では、さらに膨大なデータ量とそれを理解・判断するために多くの計算が必要となる。その結果、データセンターのリソースがひっ迫し、開発コストが増加している。
こうした課題解決に向けてNTTでは、既存のAI同士が議論して分析を進める新技術や、郊外のデータセンターを連携させて分散処理を行う技術の実証を行っているが、その基盤としてIOWNの活用を進めている。これによって、AI分析の大容量化やリアルタイム化、分散処理などへの柔軟な対応や省電力化を実現する。
ITU-Tの幹部クラス会議で国際標準化の策定を合意
このIOWNを世界規模で展開していくために、NTTではその国際標準化を目指している。すでにICT関連の各企業と「IOWN Global Forum」注3を設立し社会実装を進めている。
さらに、IEC注4やISO注5といった公的機関による標準化も目指しており、その一環としてITU-T注6の「CxO注7 Roundtable」(2024年12月9日にアラブ首長国連邦で開催、写真1)に出席、IOWNを含む同社技術のプレゼンテーションを行った。そこに参加した世界各国のキャリアやベンダなどの幹部から賛意が示され、公的標準策定(ITU-Tなどの国際標準化機関において策定される標準)の必要性が合意された。
今後、NTTはITU-Tとともに標準化に必要な技術仕様の策定を進めるほか、IOWN Global Forumとも連携して、仕様制定などの作業を進めたいとしている。
写真1 CxO Roundtableの参加者
出所 日本電信電話株式会社ニュースリリース、2024年12月13日、
「国連標準化機関ITU-T CxOラウンドテーブル会議においてIOWNを活用した大規模AIインフラの基本方針を合意」
注1:APN:All-Photonics Network、オールフォトニクス・ネットワーク。ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入し、これによって現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現する。
注2:大規模言語モデル:Large Language Models(LLM)。「言語モデル」の一種で、コンピュータによる「計算量」、学習に使用される「データ量」、モデルの複雑さを示す「パラメータ数」の3要素を大規模化したもの。「言語モデル」は日常生活の中で使っている言語(自然言語)をコンピュータが理解するために数値化するモデル。大規模言語モデルでは、大規模化によって従来の言語モデルとは比較にならない性能を発揮している。
注3:IOWN Global Forum:2020年1月に、インテルコーポレーション、ソニー株式会社、NTTの3社で設立。コミュニケーションの未来を目指した国際的な非営利団体。2024年10月現在、154社が加盟。
注4:IEC:International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議。電気や電子技術分野の国際規格を作成する国際標準化機関。
注5:ISO:International Organization for Standardization、国際標準化機構。製品やサービス、材料などに関する国際規格を制定する非政府機関。
注6:ITU-T:ITU(International Telecommunication Union、国際電気通信連合)における電気通信部門。Tは、Telecommunication Standardization Sectorの略。伝送方法やインタフェースなどの標準規格の策定を担当している。
注7:CxO:Chief x Officerの略。xに「E」や「T」等を対応させて、CEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)、CTO(Chief Technical Officer、最高技術責任者)など、企業の特定分野を統括する最高責任者を指す。
参考サイト
日本電信電話株式会社ニュースリリース、2024年12月13日、
「国連標準化機関ITU-T CxOラウンドテーブル会議においてIOWNを活用した大規模AIインフラの基本方針を合意」
NTT研究開発Webサイト、IOWN構想とは?その社会的背景と目的」
NTT技術ジャーナル、「IOWN Global Forumの最新動向」