[技術動向]

RFIDの基礎と最新動向(1):国内外におけるRFIDの標準化の動き

2006/07/10
(月)
SmartGridニューズレター編集部

この連載では、2006年からいろいろな産業分野で本格的な運用事例が目立ちはじめたRFIDについて、その標準化動向や、基本的な仕組み、さらには次々に発表される応用例や、最新の技術動向までを解説します。第1回目は、国内外におけるRFID関連の標準化の動きをレポートします。

RFID標準化の現在

RFID(Radio Frequency Identification)は、2003年頃から注目を浴びはじめ、2004年から2005年にかけて多くの実証実験が行われ、大きな話題になりました。このRFIDは、小さな半導体のICチップにアンテナを内蔵させ、無線でデータ(情報)を送受信するタグ(荷札)のことで、RFIDタグ、あるいは無線ICタグ、電子タグなどとも呼ばれます。

2006年も半ばを過ぎた現在、かつてのように注目されることは少なくなりましたが、RFIDの技術は確実に進歩しています。また、一部の先進的なユーザーは、すでにRFIDを利用したシステムの導入を行い、相応の成果を上げているケースも出てきました。

RFIDを閉じた世界だけで利用するのであれば、標準化のメリットはそれほど大きくありませんが、たとえば、製造業者がRFIDタグを取り付けた製品を出荷し、流通業者がそのRFIDタグを利用する場合には、RFIDタグやRFIDリーダー/ライター(読み取り器/書き込み器)の標準化が不可欠であり、複数の業者にわたって利用できることが求められています。このようなことから、RFIDの本格普及において、標準化は重要な条件と言えます。

しかし、RFIDは技術自体がまだ完成しておらず、現在も標準化が進められている最中であり、標準化の完了にはまだ時間が必要です。そこで、第1回目の今回は、RFIDの標準化状況について、ISO/IEC で規定されている内容の概略とともに、RFIDの標準化や普及を推進する2つの団体のプロフィールと、主な仕様の違いなどを紹介します。なお、RFIDについての詳しい解説は、次回以降で行う予定です。

ISO/IECにおける仕様と標準化

ISO/IECにおいてすでに規定されているRFIDに関する仕様は表1の通りです。

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表1 RFIDに関するISO/IECの規定 (クリックで拡大)

この中でも特に重要なのが、ISO/IEC 18000シリーズですが、そのPart 1である18000-1では、18000シリーズで扱うRFIDタグの基本概念や通信方式などが規定されています。18000-2〜4と18000-6〜7は、使用する周波数帯ごとに変調方式、符号化方式、通信プロトコル、アンチコリジョン(複数のRFIDタグを読み取るための衝突防止法)などが規定されています。18000-5については、5.8GHz帯を使用する場合の変調方式などを規定する予定でしたが、必要な支持を得られず審議中止となっています。

RFIDにとって、もう1つ重要なのがRFIDタグに記録するID(コード体系、識別子)ですが、これは15963で規定されています。ただし、現実には15963で規定されている以外のIDも利用されており、標準化はまだ進行中であるといえるでしょう。

米国では製造・流通分野での応用が主流か
EPCglobalにおける仕様と標準化

米マサチューセッツ工科大学(MIT)に本部のあるAuto-ID Centerが開発したRFIDシステムを活用し、RFIDの標準化や普及などを行うのが、EPCglobal です。Auto-ID Centerは2003年、標準化や普及促進などを行うEPCglobalと、RFID関連技術の研究開発を専門に行うAuto-ID Lab とに分割されました。EPCglobalは、国際EAN(European Article Number)協会 (バーコード管理団体の集まり)とUCC(Uniform Commercial Code、アメリカのバーコード管理団体)が共同出資して設立した非営利団体です。また、国際EAN協会とUCCは、2005年に統合され、GS1(Global Standard 1)となりました。

設立の経緯から想像できるように、EPCglobalの現在の活動は、製造や流通の世界でRFIDを活用することが中心のテーマになっています。このため、EPCglobalの活動だけをみると、RFIDがバーコードの次を担うものであるという印象を受けることがあるかもしれません。Auto-ID Centerの設立には、ウォルマート、プロクター&ギャンブル、ジレットといった流通大手や日用品メーカーなどが関与していることからも、この傾向は避けがたいことでしょう。

なお、日本からは財団法人流通システム開発センターが参加し、日本におけるEPCglobalの窓口になっています。EPCglobalは、ISO/IECに対して提案者という立場であり、ISO/IECに対して積極的な提案を行っています。また、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスには、Auto-ID Labs Japan (所長:慶應義塾大学 村井純教授)が設置されています。

TRONのノウハウ生かした"ucode"
T-Engineフォーラムで標準化進む

ITRONをベースにした組込み機器のプラットフォームであるT-Engine、オープンソース・カーネルであるT-Kernel、ucode(ユーコード)(※1)によってモノや場所の情報を提供するユビキタスIDの標準化や普及などを行うのが、T-Engineフォーラム です。同フォーラム内には、ユビキタスIDセンターが設置され、『「モノ」や「場所」を自動認識するための基盤技術の確立と普及、さらに最終的にはユビキタス・コンピューティングの実現』(同センターWebサイトより引用)を目標に活動しています。

具体的な活動内容としては、モノや場所に付与するIDであるucodeの構築、ucodeを利用するための基盤技術の確立、ucode解決データベースの運用などが挙げられます。T-Engineフォーラムの会長が東京大学大学院の坂村健教授であることからも想像できるように、TRONで培ったノウハウが生かされています。T-EngineフォーラムもISO/IECに対して提案者となりえますが、RFIDに関しては、EPCglobalとは異なり、ISO/IECへの提案は行っていません。また、坂村教授は、RFIDに関してISOへの提案は行わないことを明言しています。

EPCglobalとT-Engineフォーラムにおける仕様の違い

EPCglobalとT-Engineフォーラムそれぞれが掲げる仕様の違いはいくつか挙げられます。ただし、それぞれが現在の活動の中心としている適用領域が異なっている点は、頭の隅に置いておいたほうがよいでしょう。EPCglobalが「モノ」中心であるのに対し、T-Engineフォーラムは、「モノ」や「場所」としています。もちろん、将来的に領域の差がなくなることも十分に予想されます。

T-Engineフォーラムのいう「場所」とは、観光施設であったり、動物園の動物のオリの前であったり、デパートの屋上庭園の植物の前であったりします(写真1)。また、国土交通省の推進する自律移動支援プロジェクト(※2)では、推進委員会の委員長を坂村教授が務め、神戸、青森、荒川(東京都北区)などの地域で実証実験を重ねています。

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写真1 伊勢丹 新宿本店の屋上庭園

(RFIDタグ(写真中央手前)に携帯端末をかざし、植物についての情報を閲覧する小学生)

一方、EPCglobalのRFIDシステムは、RFIDタグにEPC(Electronic Product Code)というIDだけを記録し、ネットワーク(インターネットなど)を利用して、そのEPCに該当する情報を取得する仕組みになっており、これを「EPC Network」と呼びます。EPC Networkは、インターネットの仕組みを模しており、EPCがURL、EPCとEPCに関連する情報の所在を結びつけるONS(Object Name Service)がDNS(Domain Name System)、EPCに関連する情報を提供するEPCIS(EPC Information Service)がWebサーバに、それぞれ対応しています。

T-EngineフォーラムのRFIDシステムもEPCglobalと同様、RFIDタグには、ucodeと呼ばれるIDだけを記録し、ネットワークを利用して、そのucodeに該当する情報を取得するという基本的考え方は同じですが、eTRONによるセキュアな通信環境がすでに用意されている点が大きく異なります。EPCglobalでもセキュリティの強化は検討されていますが、後付けのような形になるので、容易ではないことが予想されます。

このほか、EPCの場合は、バーコードと同様に企業や品目を表すコードが定義されており、EPCを読み取れば、そのEPCが表す情報を、ある程度推測できてしまいます。一方、ucodeの場合は、原則として意味のない一意のシリアル番号となっているため、使用するucodeに連続性がなければ、ucodeから内容を推測することは困難です。そして、このようなEPCglobalとT-Engineフォーラムの仕様の違いが、そのまま標準化における問題点となりえます。とくにID体系の違いは、早急に解決すべき課題です。

国ごとに異なるRFIDの電波政策

RFIDにとって仕様の違い以上に困難な課題となるのが、国ごとに電波政策、つまり周波数の割り当てなどが異なっている点です。例えば、日本ではRFIDに使えるUHF帯の帯域が非常に狭い、RFIDは433MHz帯を使用できない、といった問題があります。

そのうえ、周波数の割り当て変更は、膨大な費用と時間がかかることが予想されます。ただし、これに対する1つの解決策として、複数の周波数帯に対応したRFIDタグも登場しており、別な方法で解決策が図られる可能性も考えられます。

用語解説

ucode
モノや場所を識別するため、これらに振るID番号。128ビットを基本とし、意味のない一意の番号である。

自律移動支援プロジェクト
同プロジェクトでは、『すべての人が持てる力を発揮し、支え合って構築する「ユニバーサル社会」の実現に向けた取り組みの一環として、社会参画や就労などにあたって必要となる「移動経路」、「交通手段」、「目的地」などの情報について、「いつでも、どこでも、だれでも」アクセスできる環境をつくっていくための検討』を行っている。RFIDなどがその目的に活用されている。
(自律移動支援プロジェクト推進委員会Webサイトより)

▽第2回 RFIDのしくみ

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