[技術動向]

RFIDの基礎と最新動向(9):RFIDの実用化で世界をリードするEPCglobal Japan訪問レポート

2007/03/27
(火)
SmartGridニューズレター編集部

本連載「RFIDの基礎と最新動向」では、2006年から各種産業分野で本格的な運用事例が目立ちはじめたRFIDの基礎から応用例、最新動向までを取り扱います。第9回目は、第5回目で取り上げたAuto-IDラボ・ジャパンと連携して、前身であるAuto-IDセンターとAuto-IDラボの研究成果の普及促進を目的とする組織「EPCglobal Japan」の訪問レポートです。

Auto-IDセンターから発展的に機能分化

EPCglobalAuto-IDラボの前身になるAuto-IDセンターは、1999年に米ボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)に設立され、バーコードからRFIDへのスムーズな発展を目標に、関連技術の研究開発が進められました。研究拠点は、のちにMITのほか、慶應義塾大学など6カ所まで拡大されました。

2003年11月には、発展的な機能分化が行われ、Auto-IDセンターの研究成果の普及促進などを担当するEPCglobalと、関連技術の研究開発に特化したAuto-IDラボに分かれました。6カ所(2005年には7カ所)の研究拠点は、そのままAuto-IDラボに移行し、研究開発を継続しています。
※Auto-IDラボや、Auto-IDラボとEPCglobalの連携などについては、この連載の第5回目を参照してください。

EPCglobalの設立にあたっては、バーコードなどの管理を行う、国際EAN協会とUCC(Uniform Code Council)から出資を受けました。国際EAN協会(EAN International)は、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパ12カ国の業界団体とコード管理機関により1977年に設立されたEAN協会が前身です。2002年には、アメリカの流通コード管理機関であるUCCと、カナダの流通コード管理機関であるECCC(Electronic Commerce Council of Canada)が加盟し、2005年には、名称を「GS1」に変更しました。

EPCglobalの日本支部であるEPCglobal Japanが設置されている財団法人流通システム開発センター は、日本における流通コード管理機関として、1978年に国際EAN協会に加盟しています。また、国際EAN協会から「GS1」への改称に伴い、同センターの流通標準本部が「GS1 Japan」として活動していくことになりました。

今回、財団法人流通システム開発センターのRFIDを担当する部署である電子タグ事業部の前事業部長で、定年退職後の現在も特別研究員として同センターを支えるだけでなく、流通業界などへのRFID普及を推進している宮原大和氏にお話をうかがうことができたので、その内容を紹介します(以下、敬称略)。

財団法人流通システム開発センターの概要

—まずは、EPCglobal Japanの運営主体である財団法人流通システム開発センターについてお話しいただけますか

宮原大和氏

宮原 財団法人流通システム開発センターは、1972年に、流通のシステム化を促進する専門機関として、通商産業省(現経済産業省)と民間の協力のもとに設立されました。1977年には、当センター内に流通コードセンターを開設し、共通取引先コード(※1)の登録受付を開始しました。翌年の1978年には、日本を代表して国際EAN協会(現GS1)に加盟し、国コードとして「49」が決定されました。

また、国コードの決定に伴いJANメーカーコード(※2)の登録受付を開始しました。1988年には、JANコード商品情報データベース(※3)の運用を開始しました。1995年には、国コード「45」が追加されました。1997年には、通商産業省(現経済産業省)の委託を受けて流通標準EDI(※4)を開発しました。2003年には、JANコード登録企業情報検索サービス(※5)を開始しました。そして、2004年のEPCglobal Japan設置、2005年のGS1 Japanへの名称変更となりました。

当センターの組織は、会長、専務理事、常務理事のもと、GS1 Japanである流通標準本部、EPCglobal Japanが設置されている電子タグ事業部、研究開発部、流通情報センターなどの部門から構成されています(図1)

図1 財団法人流通システム開発センター組織図
図1 財団法人流通システム開発センター組織図(クリックで拡大)

当センターで付番管理や研究開発を行っている流通コードは、共通商品コードとして定着しているJANコードのほかに、企業間取引や商品管理に使われる集合包装用商品コード、国内取引でも国際取引でも相互に識別できるグローバル・ロケーション・ナンバー(GLN: Global Location Number)、国際標準の14桁の商品識別コード(GTIN: Global Trade Item Number)、新刊書籍のほぼ100%に表示され取次会社と書店で利用されている書籍JANコード、雑誌などの定期刊行物に表示され書籍JANコードと同様に使われている定期刊行物コード、クレジット企業コードや標準センターコードといった国内専用コード、納入先からの検品を自動化するSCMラベルで使用されているGS1-128(UCC/EAN-128)などです。これらのうち、GLNやGTINは、RFIDタグに書き込まれるEPCの一部となっています。

用語解説

※1 共通取引先コード
百貨店やチェーンストアなどの小売店舗が、商品を卸売業やメーカーに発注する際、その発注先となる事業者を表すコードを統一したもの。企業間の受発注や納品、代金決済処理に利用されるだけでなく、オンライン処理の際の事業所識別用コードとして利用されている。共通取引先コードの登録事業所数は、2005年12月末現在の累計で約76,000件。

※2 JANメーカーコード
日本の小売業などで使用しているバーコードである、JAN(Japan Article Number)コード13桁のうち、メーカーを表す7桁または9桁のコード。JANメーカーコードの登録事業者数は、2005年3月末現在の累計で106,242件。

※3 JANコード商品情報データベース
JICFS:JAN Item Code File Service、JANコードとその商品情報を一元的に管理するデータベース。中小企業庁の支援を受けて、財団法人流通システム開発センターが管理運営し、サービスを提供している。このデータベースには、2005年現在、メーカー2万社の約400万アイテムの商品データが登録され、年間30万件前後の追加登録がある。

※4 流通標準EDI
JEDICOS:Japan EDI for COmmerce Systems、電子商取引を促進するためには、企業間の電子データ交換(Electronic Data Interchange)の標準化が欠かせないが、流通標準EDIでは、小売業や卸売業とそれらの取引先との間の商取引、メーカーと物流事業者との間の物流の2種類の用途について、標準メッセージなどを定めている。

※5 JANコード登録企業情報検索サービス
GEPIR:Global EAN Party Information Registry、国際EAN協会(現GS1)が開発した世界共通のシステムで、GS1傘下にある各国の流通コード管理機関から企業コードの貸与を受けている企業の社名、住所、コードなどに関する情報をインターネットで提供するサービス。JAN(EAN)コードや企業名などから検索できる。

EPCglobalの組織構成と運営体制

-EPCglobalの組織構成をお話しいただけますか

宮原大和氏

宮原 18名で構成される理事会から選任されたプレジデントのもと、3つのSteering Committee(編注:運営委員会)とAuto-ID Labsなどがあります(図2)。理事は、GS1のメンバー会員3名、マサチューセッツ工科大学1名、家電部門1名、航空部門1名、一般消費財4名、国際物流1名、ヘルスケア2名、ソリューション・プロバイダ2名、公共部門(米国防総省)1名という構成になっていて、日本からは、ソニーの所眞理雄副社長が家電部門として、当センターの井上孝専務理事がGS1メンバー会員として参加しています。

Business Steering Committeeは、主要なユーザー・グループのコミュニティと各業界の代表で構成され、エンドユーザーのニーズへの対応と導入促進活動を行うインダストリー・アクション・グループとワーキング・グループ(IAG)が属しています。現在、3つのIAGがあり、Retail Supply Chainは一般消費財とアパレル、Healthcare and Life Scienceは医療、Transportation & Logistics Servicesが物流を担当しています。そして、それぞれのIAGの下にワーキング・グループがあります。さらに、家電や航空機のIAGの立ち上げも計画されています。

Technology Steering Committeeには、業務要件に基づいた技術標準の開発を支援する2つのテクニカル・アクション・グループ(TAG)が属しています。TAGには、ソフトウェアを担当するSoftware Action Groupとハードウェアを担当するHardware Action Groupがあり、それぞれのTAGの下にワーキング・グループがあります。

Public Policy Steering Committeeは、EPCglobalの活動全般にかかわる、プライバシーなどの公共政策を担当しています。

図2 EPCglobal組織図
図2 EPCglobal組織図(クリックで拡大)

例えば、新たにIAGを立ち上げる場合、できるだけ多くの関係者が参加して準備を行えるようにするため、Discussion Group(DG)が設置されます。DGには、EPCglobalの会員でなくても参加でき、IAGへの条件が検討されます。同じ業界からの参加者が集まったIAGでは、エンドユーザーが中心になって要求仕様をまとめます。また、必要に応じてエンドユーザーの要件定義や適切な仕様の開発などのためにワーキング・グループを編成することも可能です。

宮原大和氏

IAGでまとめられた要求仕様などに基づいて、Software Action Group(SAG)やHardware Action Group(HAG)で技術仕様が検討されることになりますが、各IAGからの要求には多くの共通点があります。そこで、IAGごとの違いを最小にし、共通部分をできるだけ大きくして、総合的なコストを抑えるためにJoint Requirement Group(JRG)が仕様の調整を行います。このように、EPCglobalの標準化は、ユーザーの要求仕様が起点(ユーザードリブン)となっています。

-GS1とEPCglobalはどのように連携しているのですか

宮原 2002年11月にUCCとECCCが国際EAN協会、現在のGS1に加盟したことで世界の流通標準化機関の統一が実現しました。そして、2005年から新たなGS1体制がスタートしました。GS1の本部は、ベルギーのブリュッセルに設置され、現在104の国または地域に加盟組織があり、100万社以上の企業が利用しています。

GS1が活動するのは、バーコード、電子商取引、データの同期化、そして、RFID/EPCネットワーク・システムの4分野で、RFID/EPCネットワーク・システムの推進をEPCglobalが担当します。また、GS1が対象とする標準化の分野は、識別コード、データキャリア、EDIルールになります。識別コードとは、商品や事業所を識別するためのコードで、GTINやGLNのことです。データキャリアとは、コードを記録する媒体のことで、JANなどのバーコード、二次元シンボル、RFIDなどがあります。そして、RFIDの標準化をEPCglobalが担当します。このように、GS1の活動のうち、RFIDに関する内容を担当するのがEPCglobalということになります。

財団法人流通システム開発センターとEPCglobal Japanの関係も似たようなものです。当センターの事業の柱である、流通コード整備とデータキャリアの標準化、電子商取引EDIの標準化、商品マスター同期化と流通SCM基盤整備事業のうち、RFIDに関する事業をEPCglobal Japanが担当することになります。

RFIDの研究は1997年からスタート

-EPCglobal Japanが設立される以前からRFIDに関する研究を行っていたと思いますが

宮原大和氏

宮原 1997年に行った、食品・雑貨業界における物流にRFIDを利用する研究が最初です。このときは、商品管理レベルとRFIDタグのコストが課題になり、時期尚早という結論に至りました。1999年には、アパレル業界でRFIDを利用するために、アパレルメーカー、百貨店、物流業者によるSCM(Supply Chain Management)システムでの研究を開始しました。

2003年には、新たな技術動向、利用環境のもとに、食品・雑貨業界におけるRFIDの利用研究が再開されたほか、経済産業省の平成15年度「次世代物流効率化システム研究開発事業」として、日本アパレル産業協会によるRFIDシステム開発・実証実験、RFIDロードマップの作成が行われました。

また、当センターが活動を支援する、国際的な流通標準化などを研究するグローバル・コマース・イニシアティブ研究会がRFIDの利用研究を行いました。そしてこの年、当センターは設立にあわせEPCglobalに参画しました。このあとも経済産業省の行う実証実験などに関与しています。2006年度は、6事業が採択され(表1)、家電、出版、コンビニ、スーパー、アパレル、百貨店で実証実験が行われています。

日本はRFID先進国

-最近、あちこちで日本のRFID技術は、世界一であるという意見を聞きますが

宮原 現在行われている平成18年度の実証実験では、実際に販売する本にRFIDタグを埋め込み、印刷、製本、流通の段階でトラブルが発生しないことが確認できています。また、RFIDタグを内蔵する本の紙のリサイクルが支障なく行えることも確認できています。このように、RFIDの利用だけでなく、利用後までを視野に入れて実証実験を行っているのは、日本だけです。そして、このことは、世界に誇ってよいと思います。

RFIDの利用にあたって、プライバシーの問題が取りざたされています。例えば、販売店が実施しているポイントカードは、買い物の履歴が販売店に知られてしまう可能性があります。しかし、利用者が数多くいるのは、ポイントカードにメリットがあり、そのメリットが理解されているからだと思います。

RFIDも同様で、RFIDのメリットが正しく理解されれば、RFIDの利用に反対する声も小さくなるのではないでしょうか。そのためには、一般消費者にとってRFIDがメリットのあるものになることと、そのメリットを正しく伝えることが重要だと考えています。

例えば、先にお話しした書籍の場合だと、書籍に埋め込んだRFIDタグを販売した段階で無効にしてしまうのでなく、家庭に持ち帰って蔵書管理などに使えるようにすれば、一般消費者にとっても、メリットのあるものになります。そしてまた、家電業界では、販売後のメンテナンスや、製品のリサイクル処理での利用が研究されています。このような販売後のRFIDタグの利用についても検討しているのは、日本だけです。

取材を終えて

Auto-IDラボ・ジャパンもそうでしたが、EPCglobal Japanも存在自体は感じられるものの、活動が見えにくかったというのが正直な印象でした。しかし、取材を進めるにしたがって、Auto-IDラボ・ジャパン以上に広範かつ多様な活動をしていることが判明しました。今回の取材をきっかけに、これまで見えにくかった部分をさらに紹介するとともに、今後の活動についても随時紹介してゆきたいと考えています。

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