[標準化動向]

デジタル放送の標準化動向(1):世界各国のデジタル放送と標準化動向

移動端末向けにワンセグ、DVB-H、DMB、MediaFLOが登場
2006/08/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

最近のトピックス

[1] 欧州のHDTV動向

デジタル放送の初期段階において、欧州(DVB)はHDTVによる高画質ではなく多チャンネル化に軸足をおいた方式を開発しサービスを進めてきたが、ここ数年、欧州でのHDTVサービスへのニーズがにわかに高まっている。2004年に、Euro1080が衛星によるHDTV放送サービスを開始し、後続サービスも続々と登場している。

さらに、高能率映像符号化方式ITU-T H.264/ AVCの登場や、DVB-S2(表2を参照)など高能率な伝送方式の確立により、技術的にも欧州HDTVサービスの今後の普及を後押ししている。

表2
表2 DVB-S2方式の仕様 (クリックで拡大)

[2] 移動端末向けサービス

日本では2006年4月から、ISDB-T方式のうち1セグメントを使用する、移動体向け地上デジタル放送「ワンセグ」サービスを開始したが、世界の他地域においても複数の方式による移動端末向けサービスの実験あるいは本放送サービスが世界的規模で行われている。

欧州では、DVB-T方式をベースにタイム・スライス(時分割による番組の多重伝送)の概念を導入した「DVB-H」が各地で試験的に放送されている。一方、韓国では欧州のデジタル音声放送DABをベースとした「DMB」方式による衛星および地上サービスが2005年から開始されている。

また米国では、ATSCが移動体受信に適した方式ではないことから、まったく新しい方式として、例えばMediaFLOといった携帯向け放送サービスの開発が進められている。

[3] ブラジルがISDB-Tベースの方式を採用

デジタル放送における最近のトピックスは、2006年6月、ブラジルの地上デジタル放送が日本のISDB-Tベースの放送方式を採用することに正式合意したことである。これまでISDB-T方式は国際標準の1つとはいえ、実際は日本にしか採用されていなかったが、これで複数の国で利用される方式に位置付けられることとなった。

デジタル放送の国際標準(勧告)

[1] デジタル放送の勧告

先に述べたとおり、デジタル放送には大きく日米欧3つの方式の系譜が存在しており、それぞれが国際標準として並存している。無線による放送および通信を担当する国際標準化組織ITU-Rでは、放送方式について少数の方式を勧告(Recommendation)化し、その中から選択できる枠組みを提供している。

例えば、地上デジタル放送に関しては、伝送方式などに関する勧告BT.1306において、システムAとしてATSC方式、システムBとしてDVB-T方式、そしてシステムCとしてISDB-T方式が記載されている。

一方、地上デジタル放送の多重化・情報源符号化に関する勧告BT.1300では、一部規定を除き、映像符号化や多重化においては各システム共通にMPEG-2(ISO/IEC 13818)等の汎用的な国際標準を使用することを勧告している。

[2] ITU-R SG6の活動

ITU-Rは国連の下部組織であり、無線通信業務全般に関する国際標準化活動(勧告の作成など)や、通常4年に1度開催されるWRC(世界無線通信会議)に向けた技術検討などの活動を行っている。このうち、無線による放送関連業務を担当しているのがSG6(第6研究委員会)である。

SG6は、テレビジョン放送/音声放送/データ放送(マルチメディア放送)、地上放送/衛星放送、スタジオ規格/伝送規格/録画・アーカイブ規格、そして品質評価など、放送全般を広範囲に扱う。SG6の傘下には分野別に表3に示すWP(作業部会)が設置されている。

SG6および傘下WPは通常半年に1回のペースで会合を開催しており、次回会合は2006年8月(ソウル)および9月(ジュネーブ)の分散開催となっている。

表3
表3 ITU-R SG6(放送サービス)傘下のWP(Working Party、作業部会) (クリックで拡大)

[3] その他の活動

ITU-R SG6が無線による放送を担当するのに対して、有線による放送を担当するのがITU-T SG9(第9研究委員会)である。無線・有線の違いを除けばITU-R SG6とITU-T SG9の活動は密接に関連していることが多く、そのため、互いに密にリエゾン(連携)関係が図られている。

また、最近ではIPTVに関する国際標準化検討の動きがあり、ITU-T内にIPTVに関するFocus Group(テーマを限定して集中的に審議するグループ)が設置された。2006年7月10日〜14日に第1回目の会合が開かれ活動を開始した。なお、ITU-T SG9およびIPTV-FGの動向については、本レポートとは別に報告を行う予定である。


【略語】
ATSC:Advanced Television System Committee、高画質テレビ・システム委員会
BS:Broadcast Satellite
CS:Communication Satellite
DAB:Digital Audio Broadcasting、欧州のデジタル・オーディオ方式
DMB:Digital Multimedia Broadcasting、韓国の移動体向け放送
DTV:Digital Television
DVB-T(S,H):Digital Video Broadcasting for Terrestrial (Satellite, Handheld)、欧州のデジタル放送に関する標準規格。「-T」は地上デジタル放送、「-S」は衛星デジタル放送、「-H」はモバイル向けデジタル放送を表す。
FLO:Forward Link Only、サーバから一方向の伝送形態(すなわち放送)
HDTV:High Definition Television、高精細テレビ。ハイビジョン
IEC:International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議
IPTV:Internet Protocol Television
ISDB-T(S):Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial (Satellite)
ISO:International Organization for Standardization、国際標準化機構
ITU-R(T):International Telecommunications Union - Radiocommunication (Telecommunication)Sector、国際電気通信連合-無線通信(電気通信)部門
MPEG :Moving Picture Experts Group、動画像圧縮符号化専門家グループ(またはこのグループで作成した標準名)
SG:Study Group、研究委員会
WP:Working Party、作業部会
WRC:World Radiocommunication Conference、世界無線通信会議

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