カーボンニュートラル/脱炭素
[スペシャルインタビュー]

マクニカ イノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 主席 阿部 博氏に聞く! 「ペロブスカイト太陽電池」が拓く自家発電・自家消費による脱炭素戦略

2024/08/30
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

脱炭素実現のための次世代技術である「ペロブスカイト太陽電池」(PSC:Perovskite Solar Cell)。今年(2024年)5月に、経済産業省による産業競争力強化に向けた「官民協議会」が発足(記事末のコラム参照)するなど、次世代の太陽電池として各界から大きな注目と期待を集めている。現在普及しているシリコン型太陽電池(SSC:Silicon Solar Cell)に比べて、より多様な場所に設置でき、再エネ発電の可能性を大きく広げる。さらに日本発の技術であり、主原料となるヨウ素が世界第2位の生産量を誇り、製造技術などの優位性が数多くあり、シリコン型太陽電池で日本が失ってしまったマーケットを奪還する次世代技術でもある。
現在、多くの企業や自治体で社会実装に向けて多様な実証実験が進められているが、ペロブスカイト太陽電池は、どのようなポテンシャルをもつのか。株式会社マクニカ(以下、マクニカ)のイノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 第1課 主席 阿部 博(あべ ひろし)氏(写真)に、同社のビジネス戦略をお聞きした(文中敬称略)。

写真 株式会社マクニカ イノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 第1課 主席 阿部 博(あべ ひろし)氏

写真 株式会社マクニカ イノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 第1課 主席 阿部 博(あべ ひろし)氏

撮影 松本 裕之

 

「電気の自家発電・自家消費」をペロブスカイト太陽光発電で実現したい

編集部 今回、マクニカがペロブスカイト太陽電池の実証事業を始めた経緯をお聞かせください。

阿部 この新しいペロブスカイト太陽電池が発明(2009年)されたのは、桐蔭横浜大学特任教授の宮坂 力(みやさか つとむ)先生ですが、その宮坂先生と、あるプロジェクトでご一緒させていただく機会がありました。そこでペロブスカイト太陽電池の今までにない可能性や、宮坂先生がその社会実装の方法を模索されていることを詳しくお聞きすることができました。
 当社(マクニカ)は、表1に示すように、エネルギーマネジメントなど環境問題の解決に関連する事業にも積極的に取り組んでいますので、その案件の1つとして大変興味をもちました。また政府でも2020年に立ち上げた「グリーンイノベーション(GI)基金」注1の中で「次世代型太陽電池の開発」プロジェクト注2(NEDO注3)をスタートさせるなど、開発の動きが活発化しています。こうした流れもあり、宮坂先生を中心にペロブスカイト太陽電池の社会実装のためのプロジェクトを立ち上げました。

表1 マクニカのプロフィール(敬称略)

出所 「マクニカ企業概要」をもとに編集部で作成

編集部 御社として、ペロブスカイト太陽電池に可能性を感じているのはどのような点でしょうか。

阿部 現在、広く普及しているシリコン型太陽電池は構造上、太陽光パネルが厚く、重量があるため、その設置場所が制限されます。それに対してペロブスカイト太陽電池の厚さはシリコン型太陽電池の100分の1以下と圧倒的に薄く、軽く、また柔軟性があります。さらには、日陰などの少ない光量でも発電できるので、日照状態が良好でない都市のビル壁面や湾曲した部分、さらに室内の蛍光灯の光程度でも発電できます。
 そうなると、よりいっそう身近なレベルでの「電気の自家発電・自家消費」ができるようになります。これは野菜を自家栽培・自家消費するような感覚で、電気が使えるようになりますので、電気の消費スタイルをこれまでとガラッと変えることが可能になります。ペロブスカイト太陽電池はそのようなエネルギー利用の大きな転換、まさにゲームチェンジャーとなりうる次世代技術だと考えています。

塩害などの過酷な環境下でも発電可能なモジュールを開発中

編集部 御社が開発しているペロブスカイト太陽電池の特徴について教えてください。

阿部 ペロブスカイト太陽電池は、大きく分けるとフィルム型とガラスに挟むタイプに分けられ、今、当社が開発しているのはフィルム型です(図1)。従来の厚くて重いシリコン型が貼れない(設置できない)ような場所で発電ができる点に大きな優位性がありますので、そういった環境下で発電できるモジュールの開発を目指しています。
 具体的には自動車や鉄道車両、さらに衣服などにも貼ることを想定し、簡単に貼れたり交換できたりする交換容易性を実証事業のテーマの1つとしています。また、PSCフィルムを貼る場所として海の周辺も考えられますので、光や温度、風はもちろん、塩害への耐性も重視しています。

図1 フィルム型ペロブスカイト太陽電池(PSC)の構造例

出所 資源エネルギー庁「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)」(2024年2月9日)をもとに一部加筆して掲載

編集部 ペロブスカイト太陽電池の発電効率などの数値目標はどうでしょうか。 

阿部 具体的な数値目標はまだ出していません。モジュールのサイズなどの要件でも変わってきますので。当社と同様にこの開発に携わっている各社さんは、2030年に発電効率15〜16%(編注:現状のシリコンの場合は18%~23%程度)という目標値を発表されていますが、当社もほぼ同等の数値になると思います。

編集部 製造面でも大きな特徴があるようですが、その方法やメリットを教えてください。

阿部 フィルム型のペロブスカイト太陽電池は「ロール to ロール」(Roll-to-Roll)という製造方式によって、大量かつ低コストに生産可能です(図2)。この製造方式は液晶パネルに使うフィルムや二次電池材料などで幅広く使われているもので、ロール状(円筒状)に巻いたフィルムなどの基材を巻き出し、加工し、再びロール状に巻き戻します。
 製造工程では、フィルム状の基材に発電層となるペロブスカイト結晶構造(前出の図1)などの化合物を塗布・乾燥させ、それを何工程か繰り返すことで完成させます。製造サイズは加工機械に依存しますが、最大で幅2m、長さは5m程度まで可能だということです。ただし、サイズを大きくするほど発電効率が下がるため、そこは開発課題の1つです。

図2 連続工程(Roll to Roll 製法)による低コスト大量生産のイメージ図

出所 国立大学55工学系学部ホームページ、「環境にやさしい太陽電池の開発」、静岡大学 工学部、2021年12月17日


注1https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/gifund/index.html
注2:「次世代型太陽電池の開発」プロジェクト。
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-solar-cells/
注3:NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構。

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