[特集]

Q&Aで学ぶデジタル放送(24:最終回):デジタル放送のサービスを実現するための技術要素

2008/09/03
(水)
SmartGridニューズレター編集部

このコーナーでは、最新のICT(情報通信技術)のキーワードをQ&A形式でわかりやすく解説していきます。
現在、地上デジタル放送から、BSデジタル放送、CSデジタル、CS110°デジタル放送に至るまで、さまざまなデジタル放送が利用でき、多彩な放送を受信できるようになりました。ここでは、これらのデジタル放送と、今までのアナログ放送やインターネットとの相違点から、デジタル放送時代の法制度までを解説していきます。
最終回は、デジタル放送のサービスを実現するための技術要素について説明します。

Q&Aで学ぶデジタル放送(24:最終回):デジタル放送のサービスを実現するための技術要素とは?
亀山 渉 早稲田大学大学院国際情報通信研究科 教授

 

Q24

Q24:デジタル放送のサービスを実現するための技術要素とは?

メタデータ、コンテンツID、コンテンツ参照ID、MPEG-7、MPEG-21、TV-Anytimeなどの技術要素がたくさん登場していますが、これらの概要とその相互関係を教えてください。

A24

ここでは、デジタル放送がもたらす新しいビジネス・モデル、モバイル端末への放送とサービスなどを見ていきながら、このような新しいサービスを実現するための技術要素について学んでいきます。

図1-8に、それらの技術要素間の関係を示しました。この図は、ユーザーが所望のコンテンツを検索して視聴するまでの典型的な処理を示しています。

Q18 メタデータ(Metadata)とは?」でも述べたように、私達のまわりには膨大な量のコンテンツが存在しますが、これを直接使用して見たいコンテンツを探すことは現実的ではありません。つまり、コンテンツから何らかの方法でメタデータを抽出し(図1-8①)、抽出されたメタデータをメタデータ・データベースにMPEG-7やTV-Anytimeメタデータのフォーマットで蓄えます。

見たいコンテンツを探しているユーザー(あるいはコンテンツ消費者と言ってもいいでしょう)は、映画のタイトル、出演者名、ジャンル、キーワードなどを入力して、コンテンツ検索エンジンにコンテンツを検索するように依頼します(図1-8②)。

依頼を受けた検索エンジンは、メタデータ・データベースに蓄積されたメタデータを利用して、ユーザーの要求を満たすコンテンツを検索します(図1-8③、④)。

このコンテンツの検索結果は、対応するコンテンツのメタデータと対応するコンテンツID(例えばTV-Anytimeフォーラムのコンテンツ参照ID)としてユーザーに返されます(図1-8⑤)。

検索結果のメタデータには、コンテンツに関するより詳しい情報(例えば、あらすじ、批評情報、料金などのメタデータ)が記述されていますから、それを吟味した結果、確かに見たいコンテンツであるとユーザーが判断できれば、それを配信してくれるコンテンツ配信者に所望のコンテンツを指すコンテンツIDを渡し、コンテンツの配信を要求します。特にTV-Anytimeフォーラムのコンテンツ参照IDからは、どこにコンテンツがあるのか、つまりどのコンテンツ配信者がそのコンテンツを配信してくれるのか、についての情報を引き出す機能がありますので、コンテンツ配信者を自動的に見つけ出すことができます。

また、コンテンツ配信者は、さまざまな伝送メディアを使用してコンテンツを配信しますので、例えばユーザーは、デジタル放送で配信して欲しい場合はその配信者に要求し(図1-8⑥1)、インターネットで配信して欲しい場合はその配信者に要求し(図1-8⑥2)、モバイル端末に配信して欲しい場合はその配信者に要求し(図1-8⑥3)、それぞれの伝送メディアで配信してもらいます。

各々のコンテンツ配信者は、あらかじめコンテンツを所有しているコンテンツ・ホルダーからコンテンツの配信権を受け(図1-8⑦1、⑦2、⑦3)、ユーザーの要求に応じてコンテンツを配信します。

そして、このような処理のすべてが、MPEG-21やTV-Anytime RMP(Rights Management and Protection、権利管理と保護)の機能を使ったコンテンツの権利が管理され保護された環境で実現されています。つまり、図中の矢印は情報交換をすることを示していますから、それらの情報交換に伴って権利処理が必要な場合は、適切な処理がなされることになります。

そして、このような技術の組み合わせによって、蓄積型/サーバー型放送、ワンセグ放送などの携帯端末向け放送、個人の好みに合わせたコマーシャルの差し替え、放送と連動する情報家電などの、新しいサービスを提供することができるのです(図1-9)。つまり、新しいデジタル放送サービスは、このようなさまざまな技術の複合として生み出されることになります。


図1-8 権利が管理され保護された環境(クリックで拡大)



図1-9 デジタル放送が繰り広げる新しいサービス(クリックで拡大)


※この「Q&Aで学ぶ基礎技術:デジタル放送編」は、著者の承諾を得て、好評発売中の「改訂版 デジタル放送教科書(下)」の第1章に最新情報を加えて一部修正し、転載したものです。ご了承ください。

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