[特集]

対談:NGNとFMCを語る(2):NGNのIMSはオープンなのか?

2006/08/23
(水)
SmartGridニューズレター編集部

IMSのアーキテクチャーとプロトコルの実装

冲中 あともうひとつ、もともとこのIMSなりMMDは、IP系の人ではなく、テルコ(電気通信)系の人が作っているのです。テルコ系の人たちは、設計するときに、最初にアーキテクチャーを作るのです。

アーキテクチャーを作って、各ノード(通信装置)とノード間インタフェースの参照点を定義して、参照点でどういうプロトコルを動作させていくか、というアプローチを取るのです。実は、IMSでは、テルコ系の人が作るのはそこまでです。

ノード間でやりとりするプロトコルは、できるだけIETF(インターネット技術標準化委員会)標準を参照するというのがコンセンサスです。すなわち、NGNの中核であるIMS内部で使う詳細プロトコルの設計は、実は自分たちではなく、かなりの部分をIETFの人たちに頼っています。

江﨑 それは方向性としてはいいと思うのですよね。つまり、インタフェースのオープン性がきちんと定義されている。したがって、仮にアーキテクチャーやシステムを変えるときにも、変更点がものすごく少なくて済むのです。

対談風景

IMSのシナリオをつくるときに、まずアーキテクチャーの定義をする。このアーキテクチャーがよいかどうかは、最終的には、マーケットが決めるわけです。そのとき、仮にアーキテクチャーがマーケットに合わない場合でも、オープンな仕組みなので、各パーツ(プロトコル等)は同じものが使えるようになっている。これは、とても価値のある戦略だと思うのです。

冲中 それと通信事業者の本音としては、技術に関して二番手でありたいのですよ。要するに、技術の先頭を走りたくない。それは何故かというと、先頭を走ると、標準化が間に合わないのです。

標準ができる前にシステムに実装しなければならないので、常に投資リスクを負うのです。例えば、携帯系のほうは、ほとんど日本や韓国が先を走っているので、常に日本か韓国がリスクを背負っているわけです。

ですから私は、携帯系の標準化に関する活動のひとつの目的は、自分たちが莫大な投資をして構築したシステムが標準に準拠できなくて、仲間はずれにならないように防御することだと考えています。NGNについては、標準化のほうが若干先に進んでいますから、そのリスクは少ないとは思うのです。

江﨑 そうでしょうね。それは本当に心配ごとだと思います。(つづく)

用語解説

ETSI:European Telecommunications Standards Institute
欧州電気通信標準化機構。欧州の電気通信主管庁、電気通信事業者、メーカー、ユーザー、研究機関などで構成される標準化組織。

TISPAN:Telecoms & Internet converged Services & Protocols for Advanced Networks
ESTI内の次世代ネットワーク関連技術の標準化めざすプロジェクトの一つ。

プロフィール

江﨑浩氏

江﨑 浩

東京大学 大学院
情報理工学系研究科 教授
WIDEプロジェクト
ボードメンバー
MPLS-JAPAN代表
IPv6普及・高度化推進協議会
専務理事

略歴
1987年 九州大学 工学部電子工学科 修士課程了。工学博士(東京大学)。
1987年 (株)東芝入社 総合研究所にてATMネットワーク制御技術の研究に従事。
1990年より2年間 米国ニュージャージ州 ベルコア社客員研究員
1994年より2年間米国ニューヨーク市 コロンビア大学客員研究員。高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。
1994年 MPLSのもととなるCSR(セルスイッチルータ)技術を IETFに提案。その後、セルスイッチルータの研究・開発・マーケティングに従事。IETFのMPLS分科会、IPv6分科会で標準化活動に貢献。
1998年10月より東京大学大型計算機センター助教授、2001年4月より東京大学 情報理工学系研究科 助教授。
2005年4月より現職(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)


冲中秀夫氏

冲中 秀夫

KDDI株式会社
執行役員 技術渉外室長

略歴
1977年 早稲田大学大学院修士課程修了(物理学および応用物理学)
同年 国際電信電話(株)入社
1991年まで研究所にてディジタル移動衛星通信システムの研究開発
1986~1988年 インマルサット事務局にてInmarsat-M/Bシステム開発
1991~1994年 DDIにてPDCシステム開発
1994~1999年 KDDにて海外移動通信事業開発、IMT-2000事業企画等
1999年 DDI入社、移動体通信本部事業戦略部長
2003年 執行役員 au事業本部 au事業企画本部長
執行役員 技術統轄本部技術企画本部長
執行役員 技術企画本部長(組織変更)
執行役員 技術渉外室長

工学博士(早大、1986年)。1999年電子情報通信学会森田賞、業績賞受賞。2005年日本ITU協会功績賞受賞。現在WiMAX Forumボードメンバー。3GPP2 Steering Committee議長、3GPP2 Services and Systems TSG議長、MWIF Board of Directors、早大非常勤講師等歴任。

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