[標準化動向]

IPTVの標準化動向(1):NGNと連動してIPTVの標準化スタート!

2006/09/04
(月)
SmartGridニューズレター編集部

IPTVの互換性の確保と要求条件

互換性の確保は標準化の最大かつ最も分かりやすい目的である。IPTVにおいても互換性は重要である。しかしながらIPTVはすでに一部で実用化が始まっており、デファクト(市場における事実上の標準)を狙った企業独自の製品や、地域標準化機関(米ATISなど)による規格などが存在している。それらとの整合性をいかに取るかが課題とも言えるが、標準化にあたっては、すでに実用化されている採用済みのデファクトな技術を取り込んでいく必要もあろう。

このほか、当然のことながら、豊富なコンテンツの円滑な流通という観点からは、既存放送技術との整合性をいかにとるかも問題となる。これについては、図1に示すように、現行の放送システムの物理層を変えるだけで、IPTVとして利用できる技術の検討も進んでいる。

具体的には、上位層は同じで、現状の無線系(電波)を基本とした伝送機能を、FTTHやDSLなどの有線系の物理層を含めたIP系の伝送機能に置き換えるという形である。

図1 現行の放送とIPTVのプロトコル・スタックの比較
図1 現行の放送とIPTVのプロトコル・スタックの比較 (クリックで拡大)

また、日本では、総務省の情報通信審議会において、IP網などを利用した地上デジタル放送の再送信を検討しているが、その中で、放送事業者側からはIPによる再送信実現のための課題として、

(1)再送信信号/サービスの同一性確保

※IP上での再送信でも電波による直接受信と同等のサービスや機能を提供すること。

(2)地域限定配信が可能

※IPネットワーク上では、原理的には遠隔地(海外など)への番組配信も不可能ではないが、既存の放送ビジネスへのインパクトを最小にするために、配信範囲の制限が求められている。物理的/論理的な経路制御、フィルタリングなどさまざまな手法が想定される。

(3)匿名性の確保

※元々放送は受信者を特定することなく、放送局が発信する信号を所定の設備で受信するだけでサービスを享受できるようになっている。放送の機能を忠実に再現するのであれば検討に値する項目だろう。また、近年関心が高まっているユーザーのプライバシー保護の観点でも重要な項目といえるだろう。

(4)品質の保証

※QoS。映像コンテンツや音声の遅延のない伝送

(5)全チャンネルの同時伝送

などの技術的な要求条件が出ている。これらは今後のIPTVの標準化作業において、重要な検討課題となるだろう。

端末についてもFG参加者間で幅広い見方

FG IPTVでは、IPTVの視聴端末についても検討されたが、テレビやSTB(セット・トップ・ボックス)のようなものから、PCベース、モバイルなど多岐にわたって端末に関する意見が出された。

また、WiMAXや高速無線LANを利用する案を出す参加者もいた。まさに端末の形態においても、FG参加者の幅広い見方が反映されているといっていいだろう。今回は時間の関係もあり技術的な内容の議論はあまり進まなかったが、これからの議論に期待したい。

今回の会合では、これら検討課題がLiving List(議題作成の前段階の作業リスト)として洗い出され、具体的議論のための Work Document(議題としてコンセンサスの得られたもの)の整理作業が次回以降に継続すると思われる。

次回は韓国プサン、ITU活動の活性化を目指して

次回会合は、2006年10月16〜20日、韓国プサンで開催される。同月12、13日には同じく韓国ソウルでIPTVワークショップが開かれる予定である。今後、3ヵ月に一度のペースで会合を開き、WGでの具体的な議論を進めて行く。

FG(フォーカス・グループ)への参加は、前述のようにオープンであるため、普段ITUの会合に参加しない人も多く参加できる。これまで放送技術はITU-Rが中心となって議論されてきたが、ITU-Rのセクター・メンバー(民間企業や研究機関のメンバー。例えば放送事業者など。標準化会合への出席、提案はできるが、総会での最終議決は各国の政府機関単位で行われる)は、ITU-Tのセクター・メンバーでないケースもあるため、FGという場でIPTVの標準化が議論されることは大きなメリットと言える。

また、こうしたFGの活動は、スピーディに行われることが大きな特長である。IPTVの標準化作業と並行させて、長年の懸案事項であったNGNのキラー・アプリケーションの一つともいわれるホーム・ネットワークの議論も活性化させようという機運も高まってきている。
 

用語解説

IPマルチキャスト:登録されている相手(特定多数)に、同時に同一のIPパケットを送信する仕組み。

IP再送信:IP網によって、現在放送されている番組と同一の番組をリアルタイムに送信するサービス。通常、IPマルチキャスト技術が使用される。

キー局:キー局とは放送網の親局、あるいは中心局ともいわれる。現在の地上波テレビ放送のテレビ局は、東京(在京)のキー局、大阪(在阪)の準キー局、さらにローカル局で構成されている。各局はキー局を中心に系列化された放送網をもっている。キー局とは、具体的には東京(在京)のTBS、日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京をいう。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...