[特集]

対談:デジタル放送を語る(4):スーパーハイビジョンの開発と2011年の課題

2006/10/23
(月)
SmartGridニューズレター編集部

2011年に放送と通信はどうなるか?

—最近、通信と放送の関係でもう少しバリアを低くしていこうではないかという動きも一方では広まってきています。そういう中で、これから2011年に向かって、放送と通信はどのようになっていくのか、という展望を一言ずつお願いします。

羽鳥光俊教授

羽鳥光俊 教授

羽鳥 これについては、2つのビジョンがあると思います。ひとつのビジョンは、疑いなくIP網のほうに行く流れです。しかも、今のインターネットで使っているIPよりもっとQoS(サービス品質)を保証するガッチリしたIP網にしていこうという、NGN(Next Generation Network)のような標準化が既に始まっています。そういう中で、また光ファイバを活用して行こうという流れは疑いのないところです。

しかし、これまで電波を中心にしてきた放送には、長年培ってきた、取材から番組(コンテンツ)の制作、さらに編集し、何をニュースに流すか選択するなど、一連の作業体制があるわけですね。自主放送を行うCATV事業者を含め、放送事業者のコンテンツ制作における強さは残ると思います。ですので、放送、CATV、IPマルチキャスト放送の実りある競争と協調を期待しています。

もうひとつのビジョンは、まったく制約なしに自由にできるようにするような放送のやり方もあるかもしれない。極端な言い方をすれば、ニュース番組として、インターネットにブログでぱっぱ、ぱっぱと書き込んでいくような感覚で放送していくというやり方です。

NHKなどの放送事業者にとっては、信じられないようなやり方になりますが、そういう形態もありうるわけです。しかし、そういうものが放送といわれるかどうかという問題はあります。

現在、データ放送からインターネット経由でアクセスする場合には、どこにでもアクセスできるのではなくて、放送事業者が管理しているところに飛んでいくようになっています。

しかし、視聴者参加型で誰もが自由にコンテンツを作りあげて、どこにでも飛んでいくような形態があってもいいわけです。HTMLの世界で、好きなことを自身の責任においておやりになるというようなことがあってもいいかもしれない。それは放送事業者がやるものとは違うものとなるでしょうね。

—谷岡さんにも、最後に何か一言お願いします。

谷岡 私どもの目指すところは、「究極」ということです。そのひとつの例が、先ほど話したスーパーハイビジョンの実現ですが、10年先、20年先と時間はかかりますが、世界にないオンリー・ワンを目指して行きたいと思っています。

スーパーハイビジョンは、現在、世界の先頭を走っていると自負しています。しかし「映像」ということであまりにも身近すぎて、「究極」といっても、実感がわきにくいかもしれません。私は、スーパーハイビジョンは、つくばの高エネルギーの加速器やスーパーカミオカンデと並ぶようなビッグ・サイエンスだと思っています。

ただ、それを早く実現するためには、NHKという機関だけでは難しいところがありますので、国の機関やメーカー、さらにはオール・ジャパンを超えて、世界中の放送機関と協力して、みんなで早く実現していくことが必要と思っています。

それともうひとつは、開発した放送技術を放送分野だけに留まらず、いろいろな分野での応用展開を図り、社会へ貢献していきたいと思っております。これは、ハイビジョンで開発したカメラ技術などで既に実現しておりますが、さらに充実していきたいと思います。

具体的には、HARP技術によるカメラが、すでに大阪の国立循環器病センターで、非常に細かい、髪の毛くらいに細かい血管を見ることができる診断装置に使われております。究極を求めて研究開発された研究成果は、放送以外にもさまざまなところに役立つのです。受信料で開発された技術が、放送の分野以外でも社会に役立っているということを皆さんにアピールしていきたいと思います。

羽鳥 世界のトップ・クラスにいる日本の放送技術は、放送のデジタル化を契機に、デジタル化に対応した新しい技術開発や研究体制のあり方、著作権法などの整備、さらに放送と通信の融合に向けた新しい制度の確立などが求められています。このようなことを通して、放送とその関連産業がますます発展していくことを期待しています。

記念撮影
—お忙しいところ、ありがとうございました。(クリックで拡大)

プロフィール

羽鳥光俊氏

羽鳥 光俊

中央大学 理工学部 教授
電波監理審議会 会長
情報通信技術委員会(TTC) 理事長

略歴
1963年 東京大学 工学部 電気工学科卒業
1968年 東京大学 大学院 工学系研究科 博士課程終了、工学博士
1969年 東京大学 工学部 助教授
1986年 東京大学 工学部 教授(1999年 東京大学 名誉教授)
1999年 学術情報センター 教授
2000年 国立情報学研究所 教授(2004年 国立情報学研究所 名誉教授)
2004年より現職(中央大学 理工学部 教授)
この間、主に、通信工学〔移動通信(IMT-2000、ITS、無線LAN)、光無線通信、FTTH、電波干渉に強い通信方式〕、放送工学(放送のデジタル化、置局、著作権処理と著作権制御、画像の帯域圧縮符号化、通信と放送の融合)などの研究に従事。


 

谷岡健吉氏

谷岡 健吉

NHK放送技術研究所 所長

略歴
昭和41年4月 NHK入局、昭和51年 NHK総合技術研究所(現・放送技術研究所)映像管班に異動。平成12年 放送技術研究所(撮像デバイス) 部長、平成18年 放送技術研究所長。昭和57年 テレビジョン学会鈴木記念賞受賞、平成3年 新技術開発財団 市村学術賞受賞、平成5年 高柳記念財団 高柳記念奨励賞受賞、平成6年 大河内記念会 大河内記念技術賞受賞、平成8年 全国発明表彰 恩賜発明賞受賞。工学博士。 昭和23年2月14日生(高知市)。

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