[技術動向]

RFIDの基礎と最新動向(5):Auto-IDラボ・ジャパン訪問レポート

2006/11/20
(月)
SmartGridニューズレター編集部

Auto-IDラボのフラッグシップ・プロジェクトとは?

稲葉達也氏

稲葉 RFIDを使った偽造品対策と、安全で安心なサプライチェーンについての研究は、現在、Auto-IDラボ全体として取り組んでいる課題で、フラッグシップ・プロジェクトと呼んで重点的に取り組んでいます。

このフラッグシップ・プロジェクトでは、RFIDを活用して偽造品対策と安全で安心なサプライチェーンを実現するために必要なハードウェアやソフトウェア、ネットワークを明らかにしたり、既存のハードウェアやソフトウェアなどからどのようなことができるかを検証したほか、ビジネス的に存在する問題点の洗い出し、社会的な影響などの研究を行ったりしてきました。

そして、これらの成果は、ホワイトペーパーとして、一般に向けて公開しています。フラッグシップ・プロジェクトについて言えば、今後、第2弾、第3弾を予定しており、それらの成果は随時世界中に発信していく予定です。

研究内容「ネットワーク/ソフトウェア」

ネットワーク/ソフトウェアのレイヤーでは、RFIDを活用した情報システムのためのネットワーク・アーキテクチャー、展示会やセミナーでのAuto-ID技術の活用、航空機業界向けのRFIDシステムについて研究しています。

RFIDを活用した情報システムのためのネットワーク・アーキテクチャーでは、RFIDシステムでセンサー・ネットワークのようにモノの温度などの情報を得る方法を研究しています。現在でも、RFIDシステムとセンサー・ネットワークの両方を使えば、モノの情報と温度などの情報を得ることが可能ですが、それでは二重投資になってしまうので、RFIDシステムだけで実現できる方法を研究しています。

展示会やセミナーでのAuto-ID技術の活用では、世の中の人にRFIDシステムを見てもらうという主旨で、RFIDでできることや、RFIDのアプリケーションの紹介などを慶應義塾大学SFC研究所の研究成果発表会であるORF(Open Research Forum)で紹介するほか、RFIDリーダーが100台以上あるような環境での検証なども行っています。

また、消費者のためのアプリケーションということで、商品に付いているRFIDタグを読み取ることでアレルゲン情報が表示されたり、賞味期限の管理をしたりといったことを行うアプリケーションの研究をしています。

航空機業界向けのRFIDシステムでは、ケンブリッジ大学のAuto-IDラボのリーダーシップの下、航空機の部品のライフサイクル管理にRFIDシステムを活用する方法や、部品のID情報などを管理する方法について研究しています。

研究内容「無線システム/ハードウェア」

三次仁副所長

三次 無線システム/ハードウェアのレイヤーでは、RFIDタグの可読率を上げるための研究を行っており、研究成果の1つであるデバイスのパフォーマンスをテストする方法は、ISOやEPCglobalに国際標準として提案しています。

また、今はUHF帯が旬なのですが、技術的に難しいのは、リーダー/ライターが狭い所に大量にある場合です。例えば、工場などが考えられますが、そのような環境で現在の電波法に則った9個のチャネルだけだと、不具合が発生することも考えられます。これに対処するには、技術開発はもちろんのこと、業界ルールの制定、さらには法令の改正も必要になるかもしれません。そこで、どのように対処すべきかを研究しています。

—現在、日本で利用可能なUHF帯の2MHzという帯域幅は狭くないですか。

三次 とくに狭いとは思いません。まずは、利用モデルを考える必要がありますが、利用モデルを考えずに、周波数帯域幅だけを議論しても意味がないと思います。欧米と日本では、利用形態が違います。

日本の帯域が狭いというのは、アメリカの26MHzという帯域と比較してのことではないでしょうか。仮に12MHzの帯域を割り当てると、無線システムとしては設計しやすくなりますが、そのために、隣接する周波数帯を使用している携帯電話の帯域が狭くなってもよいのかという疑問があります。

RFIDタグをモノに取り付けると、取り付けたモノが電波を吸収することなどが原因となって10dBくらいの損失が発生する場合があります。その損失を小さくすることができれば、リーダー/ライターから送出する電波の出力を小さくすることができるので、狭い帯域でも効率的な利用が可能になります。まずは、与えられた環境で最大限の性能が得られるように努力すべきではないでしょうか。

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取材を終えて

広範な関連分野を対象にする研究機関

今回の取材で明らかになったのは、Auto-IDラボ・ジャパンが何よりも研究機関であるということと、RFIDに関する分野を広範に研究しているということです。しかし、研究機関であることに軸足が置かれているためか、その研究成果などが一般にあまり伝わっていない印象を受けるのは筆者だけではないと思います。

そこで、本連載では、RFIDに関する研究成果などを積極的に紹介してゆきたいと考えています。また、Auto-IDラボ・ジャパンと連携して標準化や啓蒙活動などを行っているEPCglobal Japanについても、近いうちに訪問したいと考えています。

次回は、RFIDを研究・推進するもう一つの組織である、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所の訪問レポートをお届けする予定です。

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