前田洋一氏
TELECOM 2006の「ITU G-PONパビリオン」では、NGN環境を支える高速光アクセス技術の一つである「ITU-T勧告のG.982(PON)とG.984(Gigabit-PON)」標準のインターオペラビリティ(相互接続性)試験が実施され注目を集めた。ここでは、このデモのコーディネータであるロバート・ボンド氏(Telcordia Technologies)とITU-TのSG15議長である前田洋一氏(NTTアドバンステクノロジ)への取材をベースに、実験の成果をレポートする。
全体の様子
G-PONとは、Gigabit Passive Optical Networkの略で、光ファイバを使用してギガビット(Gbps)の伝送速度を実現する国際標準の光アクセス技術のこと。PONとは、局側からくる光信号を複数のユーザーに分岐するために光スプリッタ(光分岐装置)が使用されるが、この光スプリッタは自分で発光したり、信号を生成したりしない(これを「パッシブ」という)ところから、一般に、PONと呼ばれている。
世界の9社が参加し相互接続をデモ
このG-PONは、光ファイバのもつ広帯域の伝送能力を生かし、20kmの距離を、局側からユーザー側に向かう下り方向は2.488bpsの伝送速度で、ユーザー側から局側に向かう上り方向は1.244Gbpsで通信する伝送方式である。
具体的には、局側に設置される「OLT」(Optical Line Terminal、光加入者線端局装置)とユーザー側に設置される「ONT」(Optical Network Terminal、光加入者線終端装置)との間のデータ伝送を、光伝送路(ODN:Optical Distribution Network、光アクセス分配網)を介して実施し、「映像」(IPTV)、「音声」(VoIP)、「データ」(インターネット接続)のトリプル・プレイ・サービスを実現するネットワークである。これは、NGNにおけるひとつの主要な構成技術と考えられている。
今回、このデモにはZTE、AMCC、FlexLight Network、Cambridge Industries Group(CIG)、Terawave Communications、富士通、NEC、日立製作所(以下、日立と言う)、LS Cableの9社が参加し、AT&T、British Telecom、France Telecom、NTT、Verizonの5社はサポーターとして参加した。
試験内容は、FlexLight、富士通、日立、NEC、Terawave、ZTEの6社のベンダが提供するOLT(局側装置)に、前述した9社のONT(ユーザー側装置)がデモ・パートナーとして接続試験を実施し、相互接続性の検証を行った。
アプリケーションとしては、(1)基本的な電話サービス、(2)高品質映像サービス、(3)高速インターネット・アクセスの「トリプル・プレイ」のデモが実施された。写真8に、モトローラがG-PONを使用してIPTVのデモを行っている様子を示す。
今回の接続試験の重要性と成果
このデモのコーディネータであるロバート・ボンド(Robert Bond)氏(Senior System Engineer, Access-Testing/Consulting, Telcordia Technologies, Inc.)は、「G.982、G.984の標準化と仕様が完了した現段階で、今回の接続試験を行う意義がある」とし、「今回のような、異なる多くのアプリケーション・サービスの環境下で、接続試験を行うことが重要。この視点から引き続きこのような試験を進めていきたい」と語った。
さらに、ITU-TのSG15(第15研究委員会。担当分野:光ファイバおよびその他の伝送網)の議長である前田洋一氏(NTTアドバンステクノロジ(株) 国際事業推進本部 国際R&D推進部 主幹担当部長)は、「ITU-Tで標準化された仕様に基づいて、多くのベンダがその仕様の適合性を満たしているかどうかを試験する過程で、併せて仕様へのフィードバックも含め、この接続試験は重要である」。「まだ、物理的な時間の制限もあり、すべての接続性は実施できていないが、2社以上との間で接続性が検証できたこと自体に意義がある」と語った。
G-PONでは、下り2.488Gbps、上り1.244Gbpsの伝送スピードの規格に対して、実際には90%の伝送効率を実現している。一方、下り1Gbps、上り1Gbpsの伝送速度で、パケット化する(パケットごとに送る)ことによるオーバーヘッド(付加的処理)によって伝送効率が70数%程度であるGE-PON(IEEE 802.3標準のギガビット・イーサネットを使用したPON)に比べると、現段階ではデータをバルク(固まり)で送るG-PONが最適と考えられている。
また、G-PONは、従来の通信環境であるT1(1.544Mbps。米国のISDNの1次群速度)、E1(2.048Mbps。欧州のISDNの1次群速度)などとの融和性も高いと考えられている。
日立製作所のOLTは、自社を含めて5社(AMCC、CIG、LS Cable、NEC、日立製作所)のONTとの接続性を確認し、参加企業の中で最も多くの接続性を示した。同社は製品を、実際に米国キャリアであるコムスパインUSAと提携して、米国オレゴン州バンドン市に納入。バンドン市は、映像配信を含むトリプル・プレイ・サービスを開始している。
また、NECのOLTは、自社を含めて3社(CIG、Terawave、NEC)のONTと接続性を確認した。同社は2007年度から、G-PONに積極的に取り組んでいる海外キャリアへの営業展開を開始する予定のようだ。富士通のOLTは、3社(AMCC 、FlexLight、富士通)のONTとの接続性が確認された。
光アクセス技術については、すでにGE-PONが普及しはじめていることもあり、今後、ネットワークへの要求条件や設備コストの面も含めて、G-PONとGE-PONの市場動向が注目されている。