インターネット:トランスペアレントで、オープン
![青山友紀氏](/sites/default/files/images/070110/aoyama003_05.jpg)
青山 インターネットの最も基本となるこのコンセプトは、ネットワークがユーザーから見て極めてトランスペアレント(※1 用語解説参照)であり、オープンなネットワークであることです。それによって、ユーザーはアプリケーション・ソフトを買ってきてそれをパソコンにインストールすれば、自由にそのサービスが利用できるというメリットが受けられるのです。この性質がインターネットの発展に大きな貢献をしてきた、といえるでしょう。
それから、インターネットはコネクションレス型(※2)のネットワークであり、これも電話ネットワークと基本的に異なった方法です。このコネクションレス方式によって、インターネットで問題となるベストエフォート・サービスが提供されるネットワークとなるのです。
インターネットは、パソコンとサーバを接続するコンピュータ・ネットワークですから、本来1ビットの誤りも許さないデータ転送であるべきです。このため、ネットワーク側ではベストエフォート型の通信のためサービス品質は保障されませんが、もし誤りが発生した場合は、端末側(パソコン)で検出して再送信を要求するという形態で品質を保障する仕組みとなっています。これを行うプロトコル(通信規約)がTCP(※3)なのです。
このTCPは、ネットワーク・レイヤであるIPプロトコルの上位にあるトランスポート・レイヤのプロトコルですが、表1に示した輻輳の回避(コンジェスチョン・アボイダンス)を担う機能をもっています。つまり、TCPは、パケットがルータに集中して混雑が生じたとき、それを回避させる機能をもっているのです。
すなわち、パケット・ロス(パケット紛失)が起こるようなネットワークの渋滞現象(輻輳)が発生するようになってくると、輻輳を回避するためにその端末(パソコン)のデータ転送スピードを落とさせて、パケットの輻輳を抑えるように、TCPが動作します。このように、混雑によってデータ転送速度が劣化する(遅くなる)のは、交通の混雑によって自動車が目的地へ到着するのに時間がかかる現象と同様なのです。
—インターネットが「オープンである」ということの意味は?
青山 先ほど述べましたように、トランスペアレンシー(透過性)とオープン性というのがインターネットの最大の特徴であるわけです。これによって、いろいろなユーザーが新しいサービスを自分で開発し、それをパソコンに搭載するソフトを開発し、提供することによって、いちいちキャリアやISPに依頼してネットワークに手を加えることなく、ユーザーは自由にパソコンにソフトをインストールすることによって、新しいサービスが受けられるようになるということです。
例えば、今の携帯電話のこと考えますと、携帯電話では何かソフトを買ってきて、自分の携帯電話にインストールしたら、新しいサービスを受けられるかといったら、全然そんなことはないわけです。このように、現状では、携帯電話はキャリア別に提供され、トランスペアレンシーとオープン性は確保されていないのです。
用語解説
※1 トランスペアレント(Transparent Communication)
透過的な通信ともいわれる。データ通信において、送信データの内容を書き換えることなく、そのままの形で相手に送られる通信のこと。例えば、インターネットで通信する場合は、IPパケットの中に格納されているユーザーの送信データ情報そのものは一切さわらない(トランスペアレント)で、IPパケットの先頭に付加されているヘッダ情報だけを用いて、IPパケットを相手に送信するトランスペアレントな形態となっている。
※2 コネクションレス型(Connectionless Mode Communication)
電話のように通話の相手と接続(コネクション)を確立してから通信する方式を、「コネクション型」通信と呼ぶ。インターネットは、メールのように相手との接続を確認することなく通信するので、「コネクションレス型」通信と呼ばれる。
※3 TCP:Transmission Control Protocol
IP(Internet Protocol)とともに、インターネットの中心的なプロトコルの一つ。信頼性の高い通信を提供する伝送制御プロトコル。
インターネット:
ラフ・コンセンサス、ランニング・コードが基本
青山 表1のインターネットのグローバル・コネクティビティとは、世界(グローバル)でユニーク(唯一)なIPアドレスを与えて、グローバルにきちんと接続できることを保証しているということです。
それから、標準化はITU-Tの標準化のプロセスと大きく異なっており、インターネットの標準化を行うIETFでは、「ラフ・コンセンサス」、「ランニング・コード」と呼ばれているように、大まかにコンセンサスを取り、細かな仕様を作るのに時間をかけるのではなく、実際に動くプログラム(ランニング・コード)で実証しましょう、つまり「動くプログラム」ということを重要視しているということです。
—IETFとITU-Tでは、標準化の進め方がかなり違うのですね
青山 これまで説明したように、インターネット技術の標準化組織であるIETFのカルチャーと、電気通信の標準化組織であるITU-Tの標準化のやり方はまったく異なった側面があります。IETFの迅速な標準化は、インターネットの発展に大きな貢献をしてきたのは間違いないでしょう。しかし最近、インターネットが広く普及する過程で、インターネットの基本コンセプトに合致しないいろいろな現象が生じてきています。