[スペシャルインタビュー]

NGNの展望と課題を聞く(3):インターネットの課題とNGNのねらい

2007/01/12
(金)
SmartGridニューズレター編集部

インターネットの課題

—具体的にはどのような問題があるのでしょうか?

青山 例えば、善意で均一なユーザー・コミュニティが崩壊してしまったことです。悪意のある人もいれば、高齢者の方も、あるいは小学生も使うというネットワークになり、当初のインターネットが研究者のためのネットワークという前提から外れた使い方がされるようになりました。

このことで一番大きいのは、セキュリティの問題です。悪質なウィルスやスパム・メールなどによるインターネットへの攻撃は、インターネットを利用するうえで大きな障害となってきています。

—かなり身近に実感できる問題ですね

青山友紀氏

青山 また、インターネットは、トランスペアレント(透過的)なネットワークといわれ、あるいは、知的処理をもたない、ただパケットを転送するだけの「ステューピッド・ネットワーク」であり、これがインターネットの素晴らしいところだと言われてきました。

しかし、そう言われながら、NAT(ネットワーク・アドレス変換機能)であるとか、ファイアウォール、プロキシー、キャッシュなど、ネットワーク上でいろいろな知的処理的なことをやりだしてしまっているのです。これらは、本来のインターネットのコンセプトに反することなのです。

それから、当初のインターネットでは、IPアドレスが、端末(パソコン)自身のID(ホスト・アドレス)と、その端末が接続されている固定したネットワーク上の位置を示すID(ネットワーク・アドレス)という両方のアドレスを兼ねた意味をもっています。

したがって、端末(パソコン)が移動(モビリティ)したりして、別のネットワークに接続されるようなことになると困ってしまうわけです。IPアドレスは、端末が移動して使うということを前提にしていなかったため、本来は端末のアドレスと、ネットワークのアドレスは別々のものであるべきなのを、IPアドレスの中にいっしょに重ねてしまったのです。

—つまり、IPアドレスは、固定通信のインターネット環境での使用を前提につくられたのですね

青山 そうです。ところが最近はノートパソコンやPDAのように、持ち運んで使用するため端末が動いてしまうので、ネットワーク上の位置が変わってしまう。これについては、モバイルIP(※4)というモバイルに対応できる仕組みができていますが、そのプロセスは複雑で必ずしも普及しているとはいえず、苦労しているところです。

それから、急増するトラフィックの課題というのは、ブロードバンド時代を迎え、利用料金については定額制が当たり前になっていることを背景に、動画のリッチ・コンテンツも増え、インターネットをどんどん使う人が出てきたために、トラフィックが急増しています。その過程で、インターネットの利用者とサービスを提供する事業者の両者に、非常に不公平感がでてきています。

ピア・ツー・ピア(P2P、対等通信)のファイル交換ソフトによって、一晩中大量の映像データをファイル転送するユーザーと、昼間にちょっとしか使わないユーザーが、同じ値段なの?という話です。それから事業者間では、例えば映画のような大量のデータを流すようなサービスを提供しているASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)と、それを接続するISP(インターネット接続サービス事業者)は両者の契約で料金を決められますが、それ以降に接続されているISPは、その大量のコンテンツが流れるにもかかわらず、何の手当てもなく自分の経費でルータの増強などを行う必要があります。そのようなISPは、大きな不公平感を抱くことになります。

—不公平感については、最近よく耳にするようになりました

青山 それから、よく言われるように、ベストエフォートのままで本当によいのかどうか。今後インターネットが社会のインフラとして発展していくには、やはりQoS(ネットワークのサービス品質)を保証するサービスの提供が必要ではないかという要求が強くなっています。

用語解説

※4 モバイルIP(Mobile Internet Protocol)
モバイル(移動体)端末のためにIETFで開発されたIP(Internet Protocol)。端末が移動した場合でも、移動前と同一のIPアドレスを使えるようにするプロトコル

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